読み書き能力や計算力などの算数機能に困難が生じる学習障害。そんな学習障害の息子を持つ母親が支援団体を立ち上げた。
タブレットを使いすらすらと国語の問題を解いていく子どもたち。実は、この子どもたちは学習障害を持っている。そんな、学習障害の支援を行う「読み書き配慮」の代表理事・菊田史子さん。息子の有祐さんも学習障害を持ち、その経験から読み書き配慮を立ち上げた。
「文字を書くのと読むのに困難があって、書くのは速度も遅いが書いていると思考がまとまらないというか、書くことに対して自分の脳の処理をほとんどを持っていかれる」(有祐さん)
有祐さんが抱えるのは書字障害“ディスグラフィア”と読字障害“ディスレクシア”。知的発達には遅れがないにも関わらず、人によってさまざまな症状が現れる学習障害。文部科学省の調査によると、実に全国の小中学校で4.5%も存在するという。
有祐さんは文字を書くことは苦手だったが好奇心が強く、さまざまな学習分野に興味を持っていたという。そんな息子に無理やり文字の練習をさせる日々――。親子関係にも亀裂が入り、菊田さんは文字を書かせることを諦めた。そんな中、希望の光が……。
「ある大学のプログラムに入れてもらえて、そこで初めてタブレットに出会った。『これなら文字が書けるかもしれない』『これなら勉強がやれるようになれるかもしれない』。出来るようにじゃなくて、やれるようになるかもしれないと」(菊田さん)
タブレットでの勉強方法に出会い、学校にも特別にタブレットを持ち込むことを許可され、小中と順調に勉学に励んでいた有祐さん。しかし、高校受験で思わぬ壁が立ちはだかっていた。
「中学校まではパソコンを使って勉強していたが、そのやり方で入試を受けさせてもらえる所が見つからなかった。入試担当者は『公平性のために手で書いてもらいます』『入った後もパソコンを使えるか保証することはできません。公平性のためですから』と言った。10月頃にようやく2校だけ受験を認めてくれる学校が見つかって、それが早稲田大学高等学院と慶応義塾高校だった」(菊田さん)
その後、有祐さんは無事、慶應義塾高校に入学。今では、慶應義塾大学の2年生でファッションデザイナーを目指し、勉強する傍ら、読み書き配慮の活動に参加し、学習障害の子どもたちにタブレットの使い方などを教えている。
親子二人三脚で、目指すのは学習障害の方が自由に活躍できる世界――。
「(読み書き配慮に)来る生徒の中に小さい頃の僕みたいな子がいたりする。彼の好きなことをやって、世界から賞賛されるような人材に育っていける子だと思っているので、そういう子を教えるのはすごくやりがいがある」(有祐さん)
「読み書きの困難というものがあるということを、全国に知ってもらわなければならないなと立ち上げたのが読み書き配慮。全国各地で読み書き検査が出来るようになって、配慮のやり方が全国に広まって、読み書き困難の子どもたちが困らない世の中になったら、私の役目は終わりだなと思っている」(菊田さん)
環境が整っていないために、もしかすると子どもたちの隠れた才能などを取りこぼしてきたかもしれない。今後どう支援していくべきなのか、慶應義塾大学教授で教育経済学者の中室牧子氏に話を聞いた。
「学習障害について、国全体としてどう支援していくのかはまだ議論されていない。例えば、ギフテッドと言われる子どもが注目されるようになって、文科省で支援の仕方について審議会が立ち上げられている。ところが審議会では、ギフテッドに過度に注目が集まって過度に競争を招く恐れがあると、ギフテッドの子どもの定義をしないという議論になった。アメリカに比べると日本はそういう議論が成熟していない印象」
視力の悪い子が眼鏡を使うのと同じように、学習障害の子がタブレットを使うといった柔軟な対応、公平性がまだ保たれていない。では、学ぶ・教えることについての公平性はどのように大人が示していけばいいのだろうか。
「他の子と同じ方法でしか学べないというのは、学習障害を持っている子どもたちの学ぶ権利を侵害している。型にはまったやり方ではなく、子どもたち一人一人の学習権を保証していくという考え方に変えていき、各々の特性に合わせた教育の在り方や方法を用意していくことが大事」
(『ABEMAヒルズ』より)