「無痛分娩は甘え」根強い偏見に苦しむ人も…実母や夫からの反対に「希望すること自体が母親失格なのでは、と」
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 「これから出産するという感じが全然ない」。第3子出産の一日を自身のYouTubeチャンネル(「アラフォーママハルチャンネル」)でレポートするのは、ハルさん。痛開始や分娩台に上がった後の様子も記録されている。「すごく落ち着いていて上手ですね」と助産師が声をかけると、ハルさんは「本当に全然痛みがなくて」と答える。

【映像】ハルさんの“無痛分娩”レポート(一部)

 「鼻からスイカ」と喩えられることがあるほどの出産時の激痛だが、それがないという。彼女が行ったのは「無痛分娩」。麻酔を使って陣痛の痛みを和らげながら出産する方法で、ハルさんはその中でも、あらかじめ出産日を決めて陣痛を誘発しながら麻酔を行う「計画無痛分娩」を選択した。

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 麻酔のタイミングや効き目の関係で、陣痛の痛みに4時間ほど耐えたそうだが、出産30分前には麻酔が効き、痛みを減らしたかたちで元気な女の子が誕生した。

 海外では主流のところもあるが、日本は増加傾向にあってもまだ1割ほど。その背景の1つが、「無痛は甘え」「痛みを乗り越えてこそ母親」「無痛分娩=危ない」という、根強く残る否定的な風潮だ。

 4年前に出産したさくらさん(仮名・30代)も、無痛分娩への周囲の反対に苦しんだという。「実母から『危ないからやめて』みたいな感じで(反対された)。義母や夫からも『痛みを感じて出産するほうが愛情が湧く』『母乳が出やすい』『その後の育児がスムーズにいく』と」。

 根拠のない言葉に戸惑い、さらにネット上の否定的な意見を目にした結果、「私自身、痛みがないお産を希望すること自体が母親失格なんじゃないか、という考えに至ってしまった」。結局、麻酔なしの自然分娩で出産した。

 しかし、長時間痛みに耐えた記憶が大きなトラウマになってしまったそうだ。「第2子を考えた時に、もう二度と(出産を)やりたくないなという思いで、4年経った今も躊躇してしまうことがある」。さくらさんのように痛みへの恐怖から出産をためらう人も少なくない。

■妹の無痛分娩に猛反対…「完全なる嫉妬」「知らないって罪だ」

 反対する側としては相手のことを思って意見しているケースも多いが、妹の無痛分娩に反対したことがあるあいかさん(46)は、複雑な感情があったと振り返る。「自覚はなかったが、今になって分かるのは完全なる嫉妬だ」。

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 自然分娩での出産を3回経験したあいかさん。10年ほど前、妊娠中の妹から「無痛分娩をする」ということを聞き、猛反対したという。「(自分は)めちゃめちゃ痛い思いをして産んでいるので、『お前も味わえ』という思いは多分持っていた」。

 感じた妬みは痛みに対するものだけではなかった。「私は早い時期から子どもを産んで、経済的にもあんまり余裕のない状態を続けていた」。無痛分娩は一般的に平均10〜15万円ほどの追加費用がかかる。「選択肢が与えられていたとしても、おそらく経済的な余裕がないから(無痛を)しない道を選んでいた可能性が非常に強いなとパッと思った。羨ましさを自分が認めたくないから、強い言葉で『やめとけ』と言っているんだと思う」。

 さらに、「『痛みを経験しないでかわいがれるの?』みたいな感覚を当時は持った。本を読んでもそうだし、いろいろなところで『(痛みを)乗り越えたからかわいいよね』みたいな刷り込みをされていたんじゃないかなと」。

 結局、妹は予定どおり無痛分娩で出産した。メリット1つ調べることなく、感情のまま反対したことについて、あいかさんは「視野も狭いし、知識もないし、知らないって罪だなということだ、本当に」と語った。

■両方を経験し「モヤモヤや“呪い”を感じる必要はまったくない」

 第1子は無痛分娩、世間の声に後ろめたさを感じ、第2子は自然分娩で産んだという2児の母のミカさん(仮名)。経緯について、「『痛みに耐えてこそ愛情が湧く』『自然分娩でよかった』みたいな記事をネットで見かけることが多くて、私の選択は本当によかったのか?と、ある種の“呪い”みたいなものにかかってしまった。その呪いを自分で検証してみたいなと思って、2人目は自然分娩で出産した」と話す。

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 両方を経験して、実際どう感じたのか。「無痛だからといって、モヤモヤだったり呪いみたいなものを感じる必要はまったくないと思っている。当たり前だが、産み方で愛情の差なんてものは絶対にないし、これから出産される方は、自分の置かれた状況に応じて自信を持って選択してほしい。デメリットはほとんどないと思っている」。

 では、仮に第3子を出産するならどちらを選ぶのか。「痛みがすごく怖いという思いがあるので、おそらく無痛分娩を選択すると思う」と答えた。

■医師「妊婦さんのバースプランを達成するべき」

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 医師で無痛分娩コンサルタントの入駒慎吾氏は「陣痛が起きてから産むまでの間に麻酔をして、痛みをやわらげるというプロセスを踏んで、分娩に至る。痛い人も一部いるが、まったく痛くない人もいて、幅がある」「分娩がちゃんと進んでいる状態で麻酔をするのが一般的なので、痛い時間は必ずある。陣痛が起こる手前から麻酔をして、完全無痛をおっしゃる病院施設もあるが、それは巧みな技なので一般的ではないと思う」と説明。

 母体や胎児への影響については、「一応麻酔なので、それに付随したリスク。お母さんと分娩が影響を受けるリスクはあるが、ちゃんとしたトレーニングを受けて管理をすれば、基本的に赤ちゃんへのリスクはないと言われている」という。

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 ミカさんは出産当日、助産師に「私は自然分娩の方が好きだけどね」と言われたというが、入駒氏は「そもそも医療従事者が無痛分娩を正確に理解していない可能性がある。患者さん、妊婦さんのバースプランを達成するというのが本来果たすべきプロフェッショナリズムなので、自分の価値観を医療現場で、ある意味強者と弱者の関係でそれを提示するのはよろしくないことだと思う」と指摘する。

 また、無痛分娩と母性の関係をめぐる情報については、「何の根拠もない。痛みを味わわなければ母性が育たないのであれば、逆子で帝王切開だった子どもにお母さんが虐待するのかというと、そんなことはない。“痛みに耐えてこそ”が生まれた理由について、分娩を研究している友人に聞いたら、昭和初期に女性の権利が見直されていった時、“女性がちゃんと頑張っている”というポジショニングを取るため、ムーブメントとして使われたということを聞いている」とした。

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 実業家のハヤカワ五味氏は「“自然に逆らうのはよくない”というのがすごく納得いかない。そう言うなら、歯医者の治療で麻酔を使うな、抗生物質を使うな、と思う。(医療は)痛みなどを緩和してより快適に過ごすためのものであって、誰かを縛るものではないと思う」と述べた。(『ABEMA Prime』より)

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