論文の被引用数が研究の価値? “国際卓越研究大学”の選定基準に疑問の声 東工大・西田准教授「時代遅れな指標だ」
【映像】引用数からは測れない 論文の“本質”とは
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 10兆円規模のファンドの運用益で、日本の研究力を強化しよう――。政府が進めるプロジェクトで、支援を受ける大学の認定基準に疑問の声が上がっている。

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 国際卓越研究大学。これは、新たに創設される大学の名前ではなく、政府が創設した“10兆円規模の大学ファンド”が支援する大学を指す。目的は、日本の基礎研究力の強化。審査を経て認定される大学は数校程度に限定される予定で、最長25年という長期間の支援を受ける。国際卓越研究大学として認定されるには、“論文の引用数”などが判断基準となる方針だが、「引用数が稼げる分野以外は不要ということ?」「将来注目されるかもしれない研究には資源がいかないのでは?」など、疑問視する声も上がっている。

 他の研究者から参考とされる論文には価値があるとして、質の高さの基準とされてきた“被引用数”。果たして、研究の価値はそれではかれるものなのだろうか。

 そもそも論文とは何か。基本に立ち返り、研究の可能性を広げようと開催された企画が、「お台場100人論文」。研究者がそれぞれの関心事や研究テーマを提示し、読んだ人が質問や感想、アドバイスなどを自由に付箋に記入し合う。最大の特徴は、このやりとりが“匿名”であることだ。

「研究者の名前も、所属もない。あえて匿名にすることで意外な出会いが、フィルターで妨げずに(分野の)越境を促す。それを目的として、匿名でポスターを貼り、匿名で付箋紙を書く」(京都大学 学際融合教育研究推進センター・宮野公樹准教授)

 肩書や過去の実績がわからない分、読者はバイアスなしで純粋に内容を読み解く。付箋には反応した人の番号が書かれており、議論を深め合いたい場合は、連絡先を交換することもできるシステムになっている。

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 100人論文の企画者である宮野准教授は、「論文の本質」について、次のように語る。

「論文とは何かと言われたら、『確固たるもの』『成果』だとみんな思っている。でも、研究者からすると、『俺はこういう問いをもって、こういうことをやったんだけどどう思う?』というある意味“手紙”みたいなもの。そうすると、『そう思うんだ。僕はこうだな』みたいな感じで別の手紙が来る。その手紙でのやりとりが歴史・蓄積になっていく」

 論文の被引用数は、「手紙がどれだけ読まれたかということだ」と宮野准教授は語った。

「多くの人に読まれた方が良いのであれば、多くの人に関係あること、つまり“旬”とかわかりやすいものばかり集まる。それは良いことではなくて、何をどう考えても大事なのは中身。計測的な論文のみを重視しすぎるのは危険をはらんでいる。(100人論文は)もっとフラットに、分野もジェンダーも越えて、真摯な自分自身の『こういうことをやりたい』という問いに対して、みんなが素朴に意見を言える。強いて大風呂敷を広げるならそういう可視的な、計測可能なやつに対するアンチテーゼ」

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 国際卓越研究大学の認定基準とは。このニュースを受けて、『ABEMAヒルズ』に出演した東京工業大学准教授の西田亮介氏は被引用数の基準について、「時代遅れな指標だ」と指摘する。

「研究者の自由な活動を抑制・阻害する可能性があり、最近は不適切だと考えられている指標を周回遅れで採用しつつあるのがいまの日本だ」

「論文は多く引用されていれば重要度が高いものであろうということで、被引用数は有力な指標として採用されがち。ただ、研究者が多く、流行っている分野が有利になる。今だとAI、情報技術関係の論文は多く書かれる傾向にあり、たくさんの研究者が書けば引用数も高くなりがちだ。それから医学や生命、宇宙開発などプロジェクトベースでやる研究は共著者に10~100人並ぶこともあり、当然ながら引用数や引用数指標が支持されがちである。それに対して、文系は単著の論文が多くなり、引用数も伸びないという問題が指摘されていて、“一律の尺度”で複数の分野を評価するのは不適切だと言われている」

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 さらに、「政策目標が明確ではない」と続ける。

「『世界最高水準』の大学を“もっと伸ばしたい”のか、それとも“数を増やしたいのか”ということを考えるべき。世界ランキングで100位内に入る大学はしばしば世界最高水準の大学と目されるが、日本の大学は東大と京大しかない。安倍政権の政策目標はこの中に10校出していくことだったが、今回の政策は東大、京大を世界トップ10の大学にするのか、それとも世界ランキング100位までに10の大学をランクインさせるのか明確ではなく、おそらくはそのどちらにも貢献しない中途半端な政策だ。そして、多くの大学にとっては“無関係の政策”になってしまっている」

 一方で、大学・研究者側にも問題はあったとも話した。

「大学の必要性や研究者がどういうことを求めているのか、ということを社会に対して十分に訴えてこなかった。多くの人たちが、『大学、特に文系はあまり意味がない』と思うのであれば、早く大学も文系も必要だということやなぜ必要なのかわかりやすく周知するべきだった。それに失敗したこともあって、今のような状況になっているのではないか」

(『ABEMAヒルズ』より)

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