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 青木真也が、今年3月の秋山成勲戦以来となるMMAマッチに臨む。舞台は11月19日のONE Championshipシンガポール大会。日本人選手が多く参戦するこの大会で、青木はザイード・イザガクマエフと対戦する。

 イザガクマエフはロシアの選手で、今年からONEに参戦すると2連勝。フィニッシュ率の高いグラップラーで、バビブ・ヌルマゴメドフと練習している。イザガクマエフは以前から青木との対戦をアピールしており、新旧世代交代をかけた一戦とも言えそうだ。

「伝説と闘うことができて光栄だ。リスペクトしているからこそ、俺が引退させてやる」

 試合に向け、そんなコメントを残したイザガクマエフ。対して青木はONEと契約して10年になる。相手について「単純に強い。(ライト級チャンピオンの)クリスチャン・リーを除けば一番強いでしょう」と評価する青木。それだけ厳しい相手だという覚悟もある。しかも青木は秋山戦、5月のグラップリングマッチとONEで連敗中だ。

「前回、前々回と負けて、さすがに今回はイージーな相手、勝たせてくれるという話だったはずなんですが。フタをあけたら厳しい試合で。こういう試合は日本には少ない。朝倉未来なら受けないでしょう。見出しに使ってください」

 対戦カード発表会見では、リップサービスを交えながら語った青木だが、同時に「強さと闘いを表現できる」とも。「いま39歳、あと半年で40歳。カウントダウンが聞こえてくることも理解してます。でもそれを決めるのは自分。やる、やめるみたいなことを自分で決めれるくらいのことはやってきた。ONEでのキャリアがこれまでで一番長くて。気がついたら10年です。扱いやすい選手ではないと思います。我が強いので。怒られたり褒められたりしながら、本当なら土下座しなきゃいけない時も土下座せずにやってきて」

 ONEのチャトリ・シットヨートンCEOは、青木を「修行僧のよう」と語る。「酒ともタバコともパーティーとも無縁」だからだ。これを受けて青木は「格闘技よりやりたいこと、楽しいこと、情熱を燃やせることがないので。死ぬまでやっていきたい」。

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■「僕がやってるのは競技じゃなくて“闘い”。見せるのは試合の結果じゃなくて“生き様”」

 会見後の単独インタビューでも、青木はあくまで青木らしく語り続けた。曰く「復帰も再起もない。淡々と、きた仕事をやるだけですよ」。

 誰が見ても、このマッチメイクはハードだ。上り調子の新鋭と連敗中のベテランという構図。青木としては「ここは確実に勝てそうな相手とやって…」となってもおかしくはない。ONEからはそんな打診もされていたようだ。

「極端に言えば、いま試合しなくてもいいんですよ。それでもなんとかなっちゃう。メシ食ってくだけならね。周りがなんとかしてくれるし。でも、それだと面白くないから、自分自身が。好きなんですよ、プロレスと格闘技。その二つを分けて考えてもいないし」

 なぜ試合をするのか、試合が必要なのかと聞くと、青木はこう答えた。

「試合が一番、感情が揺さぶられるでしょ。(心が)ギュッとなる。分からないし怖いし、だから“あぁ、やったな”となる。それが気持ちいい」

 強敵との対戦も、むしろ臨むところだ。

「他のヤツらがやらないから、それ(ハードな対戦)をやらせてもらえる。僕の仕事が尽きないんですよ。今はSNSとか、一瞬の人気のためだけにアピールすることがあるでしょ。“やろうよ”って言っておいてやらないっていう。やればいいんですよ。“やるならやるよ”っていう気持ちは、僕は常に持ってる。

 みんなイージーな相手としかやらないじゃん。それは“競い合い”でしか見せることができないから。目先の勝ち負けに縛られるから“勝負”ができないんです。僕がやってるのは競技じゃなくて“闘い”だから。試合の結果じゃなくて生き様で見せてる。

 もちろん勝ち負けにはこだわりますよ。プロレスも格闘技も勝ち負けにこだわるから面白い。今回は僕、勝つと思います。それは感じてるな」

 強さを見せることと、試合の勝ち負けだけを競うことは別種なのだと青木は考えている。勝ち負けにこだわりながら、しかし試合の勝敗しか意識できないのであれば「勝っても“よかったね”で終わり」だと。

 では、青木の言う“強さ”とはどんなものだろうか。

「抽象的ですけどね。どんな人間に対しても向かっていくこと。生き抜く芯というか。試合は生き方をぶつけ合うもので、それがないと自己満足のスポーツで終わっちゃう」

 今回の試合、あるいは青木真也のこれからに関して、意識するのは10月1日に亡くなったアントニオ猪木氏の存在だ。“強さと闘い”を体現してきたのが猪木氏だったと青木。IGF参戦時に接したが「もうちょっと触れたかった」と言う。

「僕の場合は会長(猪木氏)から直接ではなく、会長が作ってきたものに影響を受けた世代。だから“猪木イズム”みたいな言葉を使うことには、わきまえてしまう部分がある。もっと触れたかったし、見てほしかった。会長が言っていたことって、やればやるほど分かってくる」

 プロレスも格闘技も、見せるのは“強さと闘い”。それは言い換えると「アントニオ猪木がやろうとしてきたことをやる」ということだ。相手がどんな強豪でも、やる前から負けることを考えるわけにはいかない。

文/橋本宗洋

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