ひとこと発すれば周囲を笑いの渦へと引き込む将棋界のギャグ王も、愛弟子のプロ入りへの道のりを振り返ると、ついしみじみとなる。「ABEMA師弟トーナメント2022」に先立ち11月19日に放送された「師匠サミット」で、大会初参加となった豊川孝弘七段(55)が、渡辺和史五段(28)と渡辺五段の母との思い出を語った。プロ入りの年齢制限がある中、目前で足踏みした数年は悔しい本人だけでなく、見守る師匠と親にとってもつらい日々だったようだ。
豊川七段といえば、次々とダジャレを飛ばすことでファンには有名な棋士。各種イベントに呼ばれれば、そのトーク力を存分に発揮し、あっという間にその場を盛り上げる貴重な存在だ。そんなベテランが、8人の師匠が集まった場所で「弟子を一番褒めたこと」というトークテーマで発表したのが「就職決定・四段昇段」だった。弟子の渡辺五段は、プロになれる四段の1つ手前、奨励会の三段リーグに6年も在籍した。奨励会は原則として26歳までが在籍期間となっている。渡辺五段は年々迫る年齢制限というプレッシャーの中で、あと少し届かない日々が続いていた。
当時を振り返った豊川七段は「下からボンボン出てきますからね。親御さんと電話で話をしたんですが、お母さんも『うちの息子、どうですか』と。僕もじっと見ているしかないんですけどね。僕も(渡辺五段の)近くにいて毎月会っていましたから、打ち込んでいるのはわかるんです」と、見てわかる努力がある分、なんとももどかしい日々が続いていた。「お母さんには『見守るしかないですよ、一生懸命やっていますから。力はつけていますから』って(伝えた)。親御さんは大変じゃないですか。プロになれるかどうかって。お母さんが毎日願掛けしていると聞いて愕然としましたよ」と、子を思う親の願いの大きさを紹介した。
念願叶って四段昇段を果たした渡辺五段は2021年度に20連勝を果たし、将棋大賞の連勝賞を受賞。プロ入りとしては遅咲きになったが、今後が期待される若手の一人に数えられている。「お母さんと電話で話すと、声色が全然違うんですよ。奨励会の時は暗かったと言っちゃいけないけど、今は明るいですから。僕もハッピーになっちゃいます(笑)」。四段になれた今だからこそ話せるエピソードを、豊川七段が明るく話すことでなおさら深く染み渡ったようで、ファンからも「願掛け!御参り!大変だ」「お母さんは心配でしょうね」「奨励会員の家族も闘っているのな」といった感想が寄せられていた。
◆ABEMA師弟トーナメント 日本将棋連盟会長・佐藤康光九段の着想から生まれた大会。8組の師弟が予選でA、Bの2リーグに分かれてトーナメントを実施。2勝すれば勝ち抜け、2敗すれば敗退の変則で、2連勝なら1位通過、2勝1敗が2位通過となり、本戦トーナメントに進出する。対局は持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算のフィッシャールールで、チームの対戦は予選、本戦通じて全て3本先取の5本勝負で行われる。第4局までは、どちらか一方の棋士が3局目を指すことはできない。
(ABEMA/将棋チャンネルより)