「金が集まって、そこに選手が集まれば、基本的にはどんどん代謝、消費は早まっていく。昨日勝ってても、次はハードな奴と…って続いていく。ONEではここ3年くらい加速していて、何とか生き残っていたけど、そろそろしんどいというのは僕自身も感じていた。どこかで止めないと体が持たない」
11月19日にシンガポールで開催されたONE Championship「ONE 163」でザイード・イザガクマエフ(ロシア)と対戦し、1ラウンドTKO負けを喫した青木真也。一夜明け、青木のもとを訪れると、青木はダメージが残った体をプールに浮かべていた。そして、プールから上がった青木は、昨日の敗戦を静かに振り返り始めた。
青木は計量当日、音声プラットフォームに集まったファンに向かって「負けること以上に、パフォーマンスを発揮できずに終わってしまうことが怖い」と心境を明かしていた。
「昨日で言うと、“たられば”ですけど、出せなかったことはない。時間尺ではないと思う。別に後悔は全くない。やったことに対する後悔も、負けたことに対する後悔も全くないです」
そのようにキッパリと語った青木は、改めて「全くない!」と繰り返した。「試合が終わって、色々な人が勝手に解釈してくれて、自分の物語が勝手に進んでいくというのは、何年間も誠実に商売をしてきたから。誠実に商売をして、一生懸命、客と商売やってきたから、そこの信用があるから勝ち負けあったうえでも、ある程度ついてくる。逆に誠実に商売をしていなかったらと思うと怖いですよね」と昨日の試合だけではなく、今まで自身が歩んできた格闘家としての確かな道のりを振り返った。
青木が言うように、青木は勝っても負けても、今まで作り上げてきたストーリーが、その後も深みを増して続いていく。その“青木劇場”にファンが引き寄せられる稀有な格闘家でもある。今回の敗戦を受け、気になる今後のストーリーについて話を聞くと「そうですよね、はい」と青木。しかし「お前らの思い通りになると思ってるなよ、とは思います。みんな勘違いしてるんですよね。なんか感情移入していって、“俺たちの青木”みたいのが強まっているから。『こうあってくれる』と思っている。それは見ていなくて、ずっとそれを裏切り続けてきた人だから。『なめんなよ』とは思います。(少し間をおいて)負けて話題になる選手になれていることは有難いですよね」と一転してしみじみ。
すると、話題は計量を失敗してハム・ソヒとの試合が中止になった平田樹についても及んだ。
「なんだかんだいって話題になる。話題にならないより、なった方がいい。あれ(計量失敗)はダメ。平田のやつはダメなんだけど『いま叩く奴らはだせーよ』ってだけ。俺は前のとき(計量失敗も、試合には勝利)は馬鹿にしていた。今回は本当にヤバそうだから、抑えた。みんな優しくないんですよ。いまの方が叩きやすいじゃないですか。いまの方が叩きやすいから、いま叩くけど、いま叩いているやつは、本当に叩かれたことが無かったり、追い込まれたりしたことがないやつです。いま正論で叩くのは誰でもできる。結果的に話題になっている。そこは勝ちだなと思いますよ。やさしくない…俺はそう思ってるよ」
青木の本来の優しさ、仕事への責任感が垣間見える一幕もあった。ザイード・イザガクマエフが最初の計量をクリアできず(結果的にはクリア)、キャッチウェイトで体重が重い相手との試合が行われる可能性が浮上した。その際に「やらない」という選択肢が青木にはあったが、青木は「やります」と即答。その真意について「平田ダメ、俺やらないとなったら、どうするんだ? と思いませんか。俺は関係ないではなく、俺がやらないとどうしよもない。お金だけもらって帰りますってなったら、大変でしょ? お前そんな悪いやつだったの? って思われる。そんなテンションはないですね。責任感あるから、そこは」と青木。
さらに青木は平田とのやり取りについても「落ち込んだフリしてるから『大丈夫だ。引っ込んでろ、休んでろよ。俺が形にしてやるからよ』って言った」と平田にかけた言葉を明かした。
その理由については「別にしょうがない。僕も結局、DREAMの最初とか、田村さんや桜庭さんにケツ拭いてもらっている。2008年の大晦日が青木・アルバレスなんだけど、その時のメインが桜庭・田村。それって結局、俺らじゃ数字にならないから、先輩たちが働いてくれた。今なんかあったら、俺らがやるのは当たり前。なんだかんだいって桜庭さん、田村さん、藤田さんたちは言わないけど、僕らが未熟なのをカバーしてくれましたから。年かかえて、既得権で食ってるおじさんはそれくらいの事しないとダメですよ」と説明。ただ、青木らしいオチも。
「試合の当日に、廊下で会ったら『試合頑張ってください』って言ってました。あ、あ~…って思いました(笑)。黒いワンピース着てね。明らかに真夏な格好で。『あ、あ~』しか出てこなかったよ(笑)。でも、言ったってしょうがない。ダサくなっちゃう。平田や若松たちは僕らおじさんが頑張って場を持たせている間に、育って、上げてもらって、おじさんたちが居なくなったら彼らが上がって。その時になったら下の子たちをフックアップして回していけばいい。そうやってもらったので」
今大会は青木も含め、メインカードの日本勢は全敗に終わった。
「できるならば、日本人に介錯して欲しいですよ、俺も」
青木の存在は、ファンのみならず、日本の格闘界においても、まだまだ、しばらくは必要ということだろう。インタビューを終えた青木は、再び笑顔でプールへと戻って行った。