ミャンマー久保田さん解放で山路徹氏「自己責任論を出されると本当に頭にくる」 拘束や仲間の死を振り返る
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 軍事政権下のミャンマーで拘束されていた、ジャーナリストの久保田徹氏(26)が解放された。久保田氏は禁錮10年の判決で収監されていたが、約3カ月半ぶりに解放され、日本へ帰国した。

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 久保田氏は、大学時代からミャンマーのイスラム教徒少数民族である「ロヒンギャ」の難民を取材していた。今年7月30日、ミャンマーのヤンゴンで、軍に対する抗議デモを撮影中に、治安当局によって拘束。「出入国管理法違反」「扇動罪」「電子通信に関する違反」の罪で、計10年の禁固刑が言い渡されていた。

 ミャンマーは現在、ジャーナリストにとって「世界一危険な国」とも言われる。報道の自由度ランキング(国境なき記者団、2022年)では180カ国(地域含む)のうち176位と、最低レベルになっている。

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 かつてビルマと呼ばれたミャンマーの歴史は、「軍事クーデター」と「民主化鎮圧」の連続だ。軍事政権は1988年、大規模な民主化運動を無差別発砲で制圧。90年の総選挙でアウンサンスーチー氏ひきいるNLD(国民民主連盟)が圧勝したものの、軍事政権が国会召集を拒否。スーチー氏を自宅軟禁、NLD幹部を投獄した。

 2007年の反政府デモでも、軍事政権が無差別発砲。現地を取材していたジャーナリストの長井健司氏も巻き込まれ、銃撃で死亡し、カメラを没収された。軍事政権は遠距離からの流れ弾と主張しているが、日本政府は至近距離からの発砲と結論づけている。なお軍事政権・スーチー政権側のいずれからも、カメラは返却されていないという。

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 その後、NLDに政権が譲渡されたが、2021年2月1日に軍事クーデターが発生。スーチー国家顧問らが拘束され、ふたたび軍事政権に。依然として緊迫した状況が続いている。

 現地で今なにが起きているのか。ジャーナリストが危険を冒してでも伝えない限り、人々が知ることのできない現実があるが、一方で度々話題になるのが「自己責任論」だ。きっかけとなったとされるのは、2004年の「イラク日本人人質事件」。外務省の渡航自粛勧告を無視して、イラクへ入国した日本人ジャーナリスト3人が武装勢力に拘束。8日後に解放されたが、当時の総理や官房長官を始め、多くの政治家が「自己責任」に言及した。

 それ以降、海外の危険地帯でジャーナリストが拘束されるたび、SNSでは「自己責任論」があふれる。久保田さんの事例も同様だ。そこで11月20日の『ABEMA的ニュースショー』では、長井氏が所属していたAPF通信社代表の山路徹氏を招き、「自己責任論」について語った。

 山路氏は2010年、ミャンマーで20年ぶりとなる総選挙を取材中に拘束され、不法入国容疑がかけられた。なぜ危険を冒しても、現地へ向かったのか。

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「3年前に仲間(長井氏)を殺されていて、僕としてケジメをつけたい、という思いがひとつ。そして総選挙では、国際選挙監視団や、海外メディアを一切入れない。『入るな』と言われたら、そこへ行くのが僕らの仕事。彼らには隠したいことがある、それを暴くのが僕らの仕事だ」(山路氏)

 1989年以降、山路氏はミャンマー政府にマークされていて、長井氏銃撃も国営通信が「黒幕は山路だ」と報じていたという。決して身分が明かされないよう、現地の人の髪型にして、戸籍を変えて入国。タイヤチューブで国境の川を渡り、ペン型の隠しカメラを用いて取材するも、秘密警察に拘束された。

 留置場では懲役5〜7年と伝えられ、日本大使館への連絡も拒まれた。しかし、少数民族が山路氏解放に向けて、軍の施設を攻撃していたため、裁判を行うことができず、最終的に「両国の友好関係に鑑みて」釈放されたという。

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「伝えるべきニュースがあれば、現場に行くのは当然。自分たちの都合のいいことだけ伝えているのはニュースじゃない。戦場や災害の映像は、リモートカメラではなく、必ずそこに誰かがいて、命をかけて撮影している」(山路氏)

 もし危険地帯への渡航ができなくなってしまったら、世界観がゆがんだものになり、今後、大事な決断を下そうとしたときの判断材料すらなくなってしまうと、山路氏は指摘する。

「民主主義の根幹を支えているのがマスコミの報道。そこで『自己責任論』とか出されると、本当に頭にくる。帰ってくると英雄、なにかあると批判されるのが、日本のスタイル。リスペクトしろとは言わないが、せめてネット上で叩くのはやめて欲しい」(山路氏)

(『ABEMA的ニュースショー』より)
 

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