田中れいかさん
【映像】施設で生活していた頃の田中さん
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 児童養護施設出身のモデルとして活躍する女性がいる。自らの経験を発信し、ネガティブに見られがちな施設へのイメージをアップデートしてほしいと奮闘する、その思いに迫った。

【映像】施設で生活していた頃の田中さん

 12月のある日、群馬県伊勢崎市の会場で行われていたのは、児童養護施設を卒園する人たちを送る会。そんな門出の席で講演を行う女性・田中れいかさん(27)。彼女は“児童養護施設出身モデル”という肩書きを持つ。現在はモデル活動の傍ら、児童養護施設の理解を広げるために講演を行ったり、施設出身者の支援を行ったりとさまざまな活動をしている。

 2021年には、自身の経験を記した本を出版。講演では、施設を旅立つ人たちへエールを送った。

肩書きは“児童養護施設出身モデル” 「誰でも好きな自分になれる」…自らの経験を発信するワケ
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「“お先真っ暗ループ”だったときからなりたかった自分になれた。その過程を通して、生い立ちに関係なく、誰もがなりたい自分になれると信じている。一人一人がなりたい自分になれるように応援している」

 彼女が発信する理由、そして“施設出身”をあえて名乗るワケ。知られざるその胸の内に迫った。

「両親の言い合いや暴力沙汰になることが日常茶飯事で、母が家を出てしまった。父の怒りが消えなくて、それが子どもに向くようになって――」

 児童相談所に保護され、小学2年生のときに世田谷区の児童養護施設での生活を始めた田中さん。当時は2歳から18歳まで、約50人が共同で生活していた。季節ごとのイベントも催され、冬にはスキーに行ったこともあった。また、限られた予算の中ではあるが、習い事もできたという。

 そして高校進学後、すぐにバイトを始めた田中さん。理由は、18歳になると施設を出ていかなければならなかったからだ。

肩書きは“児童養護施設出身モデル” 「誰でも好きな自分になれる」…自らの経験を発信するワケ
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「『自立のための自己資金を100万円貯めなさい』と言われた。1つのアルバイトだとどうしても休みが開いてしまうので、埋めるかのように掛け持ちして、あまり休みがないように働いていた」

 高校卒業後は短大に進学。施設を離れ、1人暮らしを始める。しかし、これといった支援もなく、日々生きるのが精一杯の生活。施設出身者は施設を出たあと生活が不安定になり、退学や離職に追い込まれることも決して少なくはない。

「なぜ私は生活費のためだけに(アルバイトで)働かなくてはいけないのか、なぜ自分と友達はこんなに違うんだろうと」

 そんな中、転機となったのが幼いころから憧れていたモデルへの挑戦。当時受けていたコーチングがきっかけとなり、「2018ミスユニバース茨城大会」に“施設出身”と公言し出場。そこで準優勝に輝いた。

 準優勝の反響はどうだったのか。

「『モデルの仕事が増えるじゃん』と期待していたが、『児童養護施設の暮らしを教えてください』と言う依頼が増えて『あれ?』と思った。同時に、社会も児童養護施設のことを誤解している人が多いことを知った」

肩書きは“児童養護施設出身モデル” 「誰でも好きな自分になれる」…自らの経験を発信するワケ
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 2021年3月末時点、国内には612カ所の児童養護施設が存在する。そこで生活する児童の数は約23000人に上る。

 施設出身者が受けた暴力や虐待といった悲惨な体験談ばかりが取り上げられる中、施設の暮らしやその後の生活を発信することで“施設に対する古いネガティブなイメージをアップデートしてほしい”と考え、田中さんは現在の活動を始めた。

 あえて“施設出身モデル”と名乗るのには、理由があった。

「私自身、18~19歳の暗い時期から自分のなりたかったモデルになれたという過程を通して、“生い立ちは関係なく、誰でも好きな自分になれる”というキャッチフレーズを掲げて活動してきた」

 今年6月には児童福祉法の一部が改正され、施設を出る原則18歳(最長22歳)という上限が撤廃された。施設出身者を取り巻く環境が少しずつ変化する中、田中さんは「今後も活動を行っていきたい」と話す。

「家族に何かあったとしても、セーフティネットとして養育するシステムがあるから、私は今大人になれていると思っている。より多くの人に社会的養護という環境があり、何かあっても助けてくれる専門家がいるということは伝えていきたい」

(『ABEMAヒルズ』より)

【映像】“児童養護施設出身モデル” 発信するワケ
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