“ドーハメトロ”今後の活用は? W杯カタール取材で感じた疑問「どう考えても供給過剰」
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 アルゼンチンの優勝で幕を閉じたFIFAワールドカップ2022カタール。人口や都市機能などが首都のドーハに集中し、国民1人当たりのGDPは世界8位の6万6800ドルと、日本の3万9300ドル(※世界22位)と比べてもかなりの経済大国であることがわかる。

【映像】試合前日なのに…ペンキが乾いていないカタールの道路(画像あり)

 ドーハと言えば、日本サポーターにとってはかつてワールドカップ初出場を目前で逃した「ドーハの悲劇」の場所として記憶されてきた。めでたくも、今大会の日本代表はグループステージで初戦のドイツ戦、スペイン戦と逆転勝ちで “ジャイアントキリング”を演じ、グループEを1位で通過。「ドーハの歓喜」を日本中に届けた形になった。

 3週間にわたって現地で取材を重ねたABEMA・辻歩キャスターは、カタールという国をどのように感じたのか。

「率直な感想は『潤沢な予算で円滑に運営されていたが、大規模大会の開催には若干キャパオーバー感があった』です。そもそもカタールという国は、広さは秋田県ほど、人口は280万人で茨城県と同じくらいの規模です。非常に小さい国ですが、石油や天然ガスが主要産業で、豊富なオイルマネーを背景に国民の医療や教育も無償。所得税もありません。非常に裕福な国と言えるでしょう」(以下、辻キャスター)

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  大会期間中、カタール国内で大きな混乱などはなかったのだろうか。

「見た限りではおおむね順調に円滑で運営されていた印象です。設備も新しいものが多く、人員も多すぎるくらい配置されていて、大きな混乱はありませんでした。一方で、現地の警備員などは外国人の期間雇用が多く、連絡不足も目立ちました。通れるはずの車両が通れないこともあり、FIFA側とカタールの組織委員会の連携が取れていないケースもしばし見受けられました」

 スタジアムも「ぎりぎりまで整備をしていて、ところどころ間に合っていなかった」と話す辻キャスター。ハリファ国際スタジアムでは日本とドイツの試合前日になって、まだ道路のペンキが乾いていないところもあったという。

「開幕戦が行われた6万8000人収容のアル・バイト・スタジアムですが、砂漠の真ん中にポツンとあり、王族が行き帰りするときは、交通規制のため周辺が大渋滞になります。日本とクロアチアの試合が行われた、4万4000人収容のアル・ジャノブ・スタジアムは、新国立競技場のデザインに選出されたものの建築費が高すぎで白紙撤回となったとなったザハ・ハディッド氏が設計しました。カタールの伝統的な漁船『ダウ船』がモチーフだそうです」

 11月でも昼間の気温が35度を超える猛暑のカタールで、スタジアムの空調設備はどのようになっていたのだろうか。

「いずれのスタジアムも大規模空調設備によって20度~25度に保たれていました。座席の下の通気口から冷風が出るんです。昼間の試合は、差し込む日差しで顔は暑いのですが、ふくらはぎ付近は寒かったですね。また、VIPは直接スタジアムの横まで車を付けられますが、一般客はかなり迂回路を歩かされます。最寄り駅や駐車場から30分以上歩くスタジアムもあり、快適な会場設計であることは間違いありませんが、スタジアムに着くだけで疲れて大変でした」

 狭いエリアで開催されたことで利点もあった。辻キャスターは「会場間の移動が容易だった」と振り返る。

「日韓大会、ブラジル大会、ロシア大会は、それぞれ会場の場所が離れていて、1日に複数試合を見ることはできませんでした。今回は遠くてもドーハから1時間半で移動でき効率がよく、”はしご取材”ができるとメディアにも好評でした。中には試合を見すぎて疲れたと言っている人もいました」

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  移動で活躍したのが、ワールドカップの大会開催に合わせて急ピッチで建設が進められた地下鉄「ドーハメトロ」だという。

「基本的に車社会のカタールですが、試合を観戦するサポーターの多くが地下鉄で移動していました。ドーハメトロは、30駅以上ありますが、2~3分おきの高頻度で運行され、かなり速い。試合前後は混雑しましたが、おおむね快適に移動できました。車両とシステムは、日本の企業4社とフランスの1社の連合体で受注されていて、完全無人運転。日本の『ゆりかもめ』に近い感覚です。車両も近畿車輛が製造し、カタールが輸入した日本製で、現地の人も『日本製だから快適だな』と言っていました。現地では、車も日本製がよく走っていて、信頼されているようでした」

 カタールが多額をかけて自国開催した今回のワールドカップだが、一方でカタール代表は3試合すべてで敗戦。グループステージ敗退で大会を去ったが、自国代表の強化にもお金をかけているという。

「実は、カタールは自国の代表チームの強化にも相当なお金をつぎ込んでいるんです。2004年に約1820億円を投じ、国立の10代のスポーツ選手養成機関『アスパイア・アカデミー』を設立しました。今回のカタール代表選手の多くがこのアカデミー出身です。機関には陸上や卓球、フェンシングなど、サッカー以外の養成部門もあり、国を挙げて取り組んでいます」

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  アスパイア・アカデミーでは、屋外ピッチが7面、同じサイズの屋内ピッチが1面、ジムや教室、分析ルームなど世界トップクラスで最新鋭の設備がそろっている。また、現在バルセロナの監督を務めるシャビ・エルナンデス氏をはじめ、スペインなどから大物指導者を次々呼び寄せるなど、代表強化に取り組んでいた。

「ただ、お金をかければかけるほど強くなる……というほどサッカーは単純ではなく、今回はグループステージ全敗と残念な結果でした。今後は代表をさらに強化し、国内での盛り上がりを作っていくことも国としての課題といえます」

 日本の東京オリンピック・パラリンピックと同じように、大きなスポーツイベント開催で問題になるのが、建設したスタジアムやインフラの“その後”だ。辻キャスターは「どう考えても供給過剰という印象だ」と話す。

「インフラは、何もない砂漠にいきなりスタジアムなどをドーンと立てて、高速道路と地下鉄つないだ感じです。7つのスタジアムが今大会のために新設されましたが『974スタジアム』は解体作業が始まり、ほかのスタジアムもキャパシティを少なくする改修工事を行う予定です。それでも、国内リーグの観客動員数を考えると大規模すぎます。特にスタジアムにアクセスするための電車や道路は、試合がない日は非常に閑散としています。大会終了後は供給過剰になることが予想されるでしょう」

 石油や天然ガスなどの化石燃料を主要産業としているカタール。資源には限りがあるため、政府としては、今後は海外から投資を呼び込み、スポーツビジネスや観光業などの“ソフトパワー”への転換を図りたい思惑がある。すでに来年はサッカーアジア杯や世界柔道、2030年にアジア競技大会の開催が決定するなど、国を挙げてスポーツの世界大会誘致に取り組んでいる。

 転換を急速に進めている裏で、指摘されているのが外国人労働者の人権問題だ。カタールでは、インドやネパール、アフリカなどからの労働者が多く働いているが、中には最低賃金が守られずに労働するケースや、ワールドカップ終了と共に仕事を失い、母国に帰らざるを得ない人もいる。

「労働者の人権問題に対して、カタールでは新たな法律を制定するなどで対応していると政府は主張していますが、建設された国のキャパシティを超えた豪華絢爛な施設には、環境負荷の面でも疑問符がつきます。今回のワールドカップ期間だけにとどまらず、カタールという国に国際的に視線を注いでいくことが大事だといえます」

(ABEMA NEWS)

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【辻歩(つじ あゆむ)プロフィール】
ABEMAアナウンサー。1992年生まれ。大阪府出身。早稲田大学商学部を卒業後、2015年に新卒でKUTVテレビ高知にアナウンサーとして入社。老舗ニュースワイド番組「イブニングKOCHI」のキャスターを務める。並行して高校野球、サッカーなどの実況も担当。2018年にABEMAに移籍。NEWSチャンネルでキャスターを務めるほか、SPORTSチャンネルではMLBをはじめ各種スポーツ実況も担当する。FIFAワールドカップ2022で現地キャスターとしてカタールから最新情報をリポート。フリーザ声が話題?
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