宗教問題、2世の苦悩、そして国葬の是非など、社会に様々な課題を残した安倍元総理銃撃事件。共同通信によると12月24日、奈良地検が山上徹也容疑者を殺人罪で起訴する方針を固めたことがわかった。事件から5カ月以上が経った今も、波紋は広がり続けている。
【映像】“銃撃”の表現も 映画『REVOLUTION+1』予告編
そんな中、劇場公開されたのが、映画『REVOLUTION+1』。山上容疑者をモデルに、その半生を描いた作品だ。ただ、内容には賛否両論の声が噴出し、物議を醸すこととなった。
13日の会見で「僕は山上さんの“決起”と呼んでいるが、世の中の底が抜けてしまっている無様な、腐敗した姿をどんどん明らかにしていっているのではないか」と述べた、足立正生監督。映画で何を描きたかったのか、27日の『ABEMA Prime』で本人が語った。
事件後1週間で脚本を作成し、8月末にクランクイン。8日間で撮影し、12月24日から神奈川など全国3カ所で公開されている。なぜこのようなスピード感で製作したのか。
「事件を知った時は『これは大変なことが起こった』と思った。報道されればされるほど、山上本人が自分に向き合ったところで起こした事件だというのが鮮明に感じられたので、映画で表現する者として“これは早いうちに作らなければいけない”と。そうしなければ、山上が自分に向き合ったものがぐちゃぐちゃになっていくだろうと思い、とにかくすぐ作ろうと思った」(足立氏、以下同)
映画の主人公「川上」はあくまでモデルだというが、主人公を取り巻く環境、登場する家族はどこまでが事実なのか。
「(容疑者の家族のところへは)距離を置こうと思ったのもあり、全く行っていない。それなりに情報をフォローして、わかる事実は反映しようと。山上の内面の問題を描くために集中していくやり方で、むしろ事実から離れて私のイメージした内容を基軸に整理していったというのもある」
映画に対し、山上容疑者の家族からの反応はないという。一方で、ネット上では「山上の犯行をテロではなく“決起”だと英雄視」「テロリズムを賛美するのは間違った行為」「山上は世紀の殺人鬼 擁護はおかしい」といった批判の声があがる。
「容疑者を賛美したり、英雄視したりということは一切ない。この映画もそうだ。宗教二世の苦しみは塗炭の苦しみであるから、生きて呼吸するところまで制約を受けている。家族・家庭の崩壊というのが山上の生きてきた世界であり、社会なわけだ。それは統一教会がでたらめな教義で縛っていることからスタートしているのかもしれないけれども、その結果受けた影響をどうほどいて自分自身と向き合うのか、というところに映画のテーマを絞っている。賛否両論があってけっこうだし、むしろそうあってほしいという意図が含まれている」
川上の妹がラストに放つ、「きっと世間は『テロだ』『狂った行動だ』、みんな言いたい放題に野次を飛ばすよね。『民主主義の敵だ』って言うバカもいる。でも、民主主義を壊したのは安倍さんのほうだよ。誰が考えても民主主義の敵を攻撃したのは兄さんだよ。だから、私は尊敬するよ」という発言。ここにはどのような思いが込められているのか。
「これは私が言いたいセリフでもある。要は、兄がとった行動そのものは賛成できない。しかし、“お兄さんはいつも正面から物事に対峙しないで、いつも逃げている。甘えている”と妹は思っていたという側面があって、犯行はともかく、ちゃんと兄が正面から自分と向き合ったというのは評価すると。映画の中で、妹はカメラに向かって話す。映画では禁じ手だが、そのくらい強く主張したかった」
足立氏が着目した山上容疑者の内面。苦悩の部分はどのように深掘って表現したのか。
「方法論の話になるが、映画は全てフィジカルか、そうでない部分はセリフで言うしかない。しかし、見ている人が補完するイメージというのがあって、映画の一番重要なところだ。僕が誰かと向き合って討論していたら、場合によっては友人に見られたりするように、第三のイメージが生まれてくる。今回の映画は『川上』という名前に変えたが、それ以外で実名が出てくるのは『安倍元首相』と『統一教会』以外にはない。その中で、彼自身に密着することによって山上との対話ができる、という発想になって映画を撮った。苦悩のレベルというのは、何かに縛られて大変だということではなくて、自分が行動できなくなることが出てくれば、表情や行動で内面は語ることができるというのが映画の方法ではある」
銃撃シーンは、映画を通して異なるかたちで表現する方法はあったのか。
「元首相を襲撃しない方法もあったのかどうかだが、彼の場合はそれがなかった。僕も鉄砲を持って活動していたが、一時は暴力を必要悪として是認しながらやっていた。しかし、どうもそれは間違いだというところからスタートしている部分がある。彼個人が向き合っていた、決着をつけるために銃を作らざるを得ないというところまでいった過程が一番重要だ。彼が凶行に出なかったら、もう1つの方法は自分に決着をつけることだろう。『銃撃したのは反対だ』と言うけれども、自分を消滅させるというのも間違いだ。自殺しないでやるとしたらどういうことがあるのかを、妹さんという役に言わせたかった」
実際にあった事件をモデルにしているだけに、その内容が事実として伝わってしまう懸念もある。
「この映画は全部“色付き”だ。色が付いてない部分はないが、事実に見えるような、勘違いをしてしまうところはあると思う。私も最後まで決め切れなかったのは、妹さんを最終的にどう描くのかということ。俳優さんに『妹さんだったらこう言うか?』と聞いたら、『強すぎるところは賛同する』『自分が演じている役の中身である』『それ以外は多くを言わないはずだ』と。だから、『明日会いに行くね』というかたちで去ってもらった。その後、本当の妹さんが山上に差し入れに行って、それが漫画本だったということが明らかになったりしたことを考えた時、私のフィクショナルなイメージで言える内容に留めた。妹さんに『許してください』ということは言わないが、できるだけ妹さん側に問題が変えられないようにしようということは考え続けていた」
足立監督は元日本赤軍のメンバーでもあるが、事件と自身の人生を重ね合わせるような部分はあるのか。
「映画を作る時、登場人物と自分を重ね合わせてみるというのは常にある。私の書いてきた多くの脚本や作った映画は、ほとんどが個人の行動だ。いろんなものを描いたと言われるが、常に一本道だったような気がする」
足立氏が名古屋、大阪、横浜の映画館で挨拶をした際、どこも満席だったという。
「2つの要素があるんだなと思った。まず、まだこの事件についての回答を求める人は多いこと。もう1つは、犯人像が掴みにくいという問題。これは統一教会との関係の中で、そういう人物にさせられてしまっているわけだけれども、それが映画でどう語られているかを見ようというのがあって、反応は悪くなかった。非常にいろんな意見を言ってくれた」
(『ABEMA Prime』より)
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