「告知して良かった」「伝えない」 AID(非配偶者間人工授精)当事者の決断、10歳長女の言葉「みんなと違う個性をおもしろいと思う」
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 11月に出版されたある本が話題になっている。タイトルは『私の半分はどこから来たのか AID非配偶者間人工授精で生まれた子の苦悩』。

【映像】子どもへの告知は AID当事者に喜びと葛藤を聞く

 「AID」とは、夫に不妊の原因があって妊娠できない時、第三者の精子を用いて人工授精させる生殖補助医療。AIDで生まれた子どもは全国に1万人以上いるとされている。ただ、精子提供者は匿名のため、夫婦や子どもは出自を知ることができない。

 本の中では、父親との血縁関係がないことを知ってしまい苦しむ子どもや、事実を伝えるか悩む親の葛藤が描かれている。「自分は何者なんだろう…」「自分のアイデンティティの半分は空白」。

 そうした中、不妊に悩み、AIDを決断した人がいる。30代の会社員、山本雄太さん(仮名・男性)。5年前、不妊治療をする中で精子検査をしたところ、無精子症と診断された。どうしても子どもがほしい――。悩んだ末、山本さんはAIDを決断。「抵抗がまったくないと言えば嘘になるが、それよりも2人とも子どもがほしいね、2人で育てていきたいねという気持ちの方が強かったので、(AIDに)進んだ」。

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 AIDを受ける場合、精子提供者であるドナーは病院側が選ぶ。夫婦に明かされる情報は血液型のみで、身長や体重、趣味や容姿などの個人情報は一切知ることができない。「10回程度で1回妊娠して、流産してしまったのでまたその後再開して、確か5回程度で妊娠に至ったと覚えている」と山本さん。

 治療を開始してから約2年、念願の娘を授かった。「今まで時間がかかったこともあって非常にうれしかったし、若干解放されたという気分、やっと終わったなという気持ちも確かにあった」。

 安堵する山本さんだが、将来、子どもにはAIDで生まれたことを伝えるつもりはないそうだ。「私たち自身がドナーの情報を知らされていないので、子どもに伝えたところで最終的なところ、知る権利というのは保障されていないのかなと。もどかしい思いをさせてしまうのではないかということで、伝えないという決断に至っている」。

■「告知をして良かった。デメリットは1個もない」

 AIDで2人の子どもを出産した花未来さん(40代)。夫が無精子症と診断されたことを受けて決断。2012年に長女を、2015年に次女を出産し、長女が6歳の時にそのことを告白した。

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 「生活の自然な流れの中で伝えたかったので、会話のタイミングを計っていた。長女が幼稚園から帰ってきて、『◯◯君と自分は似ているところがあるから、◯◯君のパパのパパのパパのパパと自分のパパのパパのパパのパパは一緒かもしれない』と言い出した。チャンスだと思って、『赤ちゃんを作るにはママの卵とパパの卵、2つ必要なんだけど、うちはパパの卵がないから、プレゼントしてもらった卵とママの卵であなたが生まれてきてくれたんだよ』と。長女にとっては特にショッキングなことでもなくて、普通に受け止めていた。告知をして良かったし、デメリットは1個もない」

 次女には長女から話が伝わっていたという。

 「長女は6歳ごろに告知したので、次女にもそのぐらいでいいかなと思っていた。気付いた時には長女が『あ、もう伝えたよ』と。次女は4歳ぐらいの時に知っていた。長女と私がこの話をしているのを次女はずっと聞いているので、新たに疑問に思うことはそんなにないようだ。小さい頃は『ドナーさんは男の人?女の人?』という質問をしてきたりした」

 6歳の時に知った長女は、今は10歳。成長に伴い、会話に変化はあるのだろうか。

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 「最初は告知しようと意識していたが、それ以外で意識していることは一切ない。例えば、血液型の話題になった時に、『自分のこういうところはママと違うけど、ドナーさんから受け継いだところなのかな』とか、そういう自然な流れの会話をしているだけ。それでも理解がどんどん深まっていって、今は出自を知る権利についても十分にわかっている。一番心配しているのは、精子提供を理解していない時にYahoo!ニュースなんかで記事に触れて、『子どもがかわいそうだ』『親のエゴだ』みたいなコメントを読んでしまって、『自分ってかわいそうな子なの?』と思ってしまうこと。自分の子どもだけではなく、精子提供で生まれた子どもたちの将来を考えた時に、世間の声を俯瞰する力、“自分の幸せは自分で決める”といったところを育めたらなと思う。告知とは違うかもしれないが、そういった働きかけに最近は切り替わっている」

 また、長女本人からのメッセージも紹介してくれた。

 『今の社会って普通というものがあるけど、“普通って何だろう?”と思います。普通じゃなくて良いよね、みんな個性があって良いよねと思います。私はみんなと違う個性を持っていますが、それをおもしろいなと思っています』

■「AIDで生まれてきたことをネガティブに考えないで」

 『私の半分はどこから来たのか』の著者で国際ジャーナリストの大野和基氏は、「AIDで生まれてきたことをネガティブに考えないでほしい」と訴えるとともに、花未来さんの伝え方は「理想的な方法だ」と話す。

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 「“今日告知しよう”と構えずに、日常生活の中で教えていく。1回教えたからもういい、ではなくて、事あるごとに。あるいは病院に行って、血液型を調べるという機会に説明するとかがいいと思う。まだ告知していない親が一番心配するのは、特に父親の『本当の父親ではない』と拒絶される恐怖感だ。それによって延び延びになっていく」

 一方で、花未来さんは「父親に対する感情だが、私の家だけではなく周りのAID家族の話を聞いていても、父親のほうがしっかり自分の無精子症を消化して、AIDを心から望んで進んでいるのであれば、全く問題は生じない」と語る。

 第三者の精子・卵子提供で生まれた子どもが、遺伝上の親である提供者が誰なのかを知る権利が「出自を知る権利」。ただ、開示条件や範囲をどうするのか、事実を知った当事者のケア、提供者情報の記録と保存管理など法整備が進まず、課題が残っている。

 花未来さんは「出自を知る権利は、うちは認められていない。子どもが将来『知りたい』と言ったらということだが、我が家の10歳の長女に聞いたら、『ドナーさんの気持ちもあるから、ドナーさんが決めたらいいと思う』と。『知れると思っていたものが知れなかったら悲しくない?』と聞いたら、『悲しいかもしれないけど、それは仕方ないよ。別に知れなかったからって私の人生は何も変わらないから大丈夫』と答えている。だから、おそらく大丈夫だろうと私は思っている」と紹介した。

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 大野氏は“出自”の詳細に触れ、「よく勘違いされるのは、名前や顔、居場所、そういうものを知る権利だと思われる。そうではなく、オーストラリアのビクトリア州で、実際にAIDで生まれた子どもに対してアンケートを取ると、子どもが知りたいのは病歴、体の特徴、性格、人柄、家系図、趣味、情熱を傾けているもの、ドナーにパートナーや子どもがいるかどうか、精子提供の理由、職歴、人生観、というものだ。レガシー・プロジェクトといって、ドナーが死んでいた場合、“あなたのドナーはこういう人でしたよ”とビデオで残す。そうすると、両足が宙に浮いた感じが、少なくとも片足はついてホッとすることにつながる」と説明した。

 大野氏は、AIDへの理解が広がってほしいと呼びかけた。

 「1978年に世界で初めて体外受精で生まれてきた子ども、ルイーズ・ブラウン。彼女にインタビューをしたが、当時は血まみれの手紙が届いた。『子どもは神から授かるものである』『体外受精、卵子と精子をペトリ皿で受精させて戻すものではない』『人工的に作るものではない』と、当時はそういうふうに見られていた。今、日本では16人に1人が体外受精で生まれていて、『体外受精で生まれた』と聞いても何とも思わないし、不妊治療で当たり前のように使われる。AIDもそうなればいいなということが、本を書いた目的の1つだ」

(『ABEMA Prime』より)

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