今シーズン、突如、世界に見つかり、スターの階段を登ろうとしている選手がいる。ブライトン所属のエクアドル代表MFモイセス・カイセドだ。日本代表FW三笘薫の同僚としても、お馴染みだろうか。
2021年冬、当時19歳のカイセドはブライトンに加入し、アンダー世代のチームでのプレーや、ローンでのベルギー武者修行をへて、2022年1月以降チームの主力選手となっている。
それからわずか1年間だが、選手育成に定評があるイングランド人監督グレアム・ポッターや、イタリアが誇る戦術家のロベルト・デ・ゼルビの下で急成長。現在21歳とまだまだ若手とも言える年齢の選手だが、どこのチームに移籍しても活躍間違いなしの、完成されたボランチの選手となった。
そんなカイセドを中心に今季のブライトンは、大躍進を遂げている。なんと一昨季までは残留争いをしていたチームが、21節終了時点で6位。しかも2試合未消化だ。
三笘の同僚カイセド 好調のチームから突然の移籍希望をSNSで公表
充実したシーズンを過ごすブライトンだが、冬の移籍市場も終わりに近づく1月28日に衝撃的なニュースが舞い込んだ。カイセドが自身のSNS上で移籍希望を表明したのである。チームの主力がシーズン中に退団の意思をSNSで公表するのは、異例の事態だ。
ブライトン目線では悲劇だが、他の強豪クラブとしては突然のチャンスだ。チェルシー、アーセナル、リヴァプールなどのクラブがカイセドに熱視線を送っているとされている。具体的には、現在首位のアーセナルが6000万ポンド(約96億円)という巨額のオファー。断固拒否するブライトンに対し、さらに1000万ポンド(16億円)をプラスした増額提示をしたと現地メディアは報じている。
最終的にどのような着地になるかは不明だが、ブライトンとしては大きな痛手であることは間違いない。もともと若手を高値で売ることの多いクラブであり、カイセドのようなタレントの退団は近い将来は予想していただろう。しかし今回は流石に急過ぎだ。後釜の準備は盤石ではない。
ではどのような影響がチームに、あるいは、我々日本サッカーファンの注目の的でもある、三笘に起こるだろうか。
三笘の仕掛けも…カイセド不在による影響
カイセドは、現在デ・ゼルビ監督が構築している緻密なパスサッカーの心臓として機能している。
ブライトン加入時は機動力と球際の強さを武器に中盤でボールを刈り取る普通のボールハンターだった。しかし今では広い視野と高いキック精度を活かして、長短のパスでチームを操る司令塔としても機能している。
そんな中心選手を失ってしまった場合、ブライトンは攻守両面でダメージが大きい。まず単純にボールを奪い切れる選手がいなくなることで、ボールを失った後も奪い返せないシーンが増えて、主導権を握れない時間帯が増える可能性がある。
またボール保持時点でも、パスワークは以前ほどのリズムは出ないかもしれない。また相手のプレスを回避して、攻撃の起点となる縦パスや、低い位置からウイングへのピンポイントのロングフィードも減るだろう。
要するに、これまではカイセドのボール奪取能力でショートカウンターが発動し、ポゼッション時も優位にボールを保持できてきた。それがなくなることで、三笘がいい形で仕掛けられる機会は減少するだろう。
カイセド移籍による痛手は?三笘はどう変わる?
ただ前述の通りブライトンはこれまでも何人もの選手を高額でビッグクラブに移籍させて、後釜に他の若手をあてがい、再び戦力を回復してきた実績がある。
カイセドの後任としては、万能型のハードワーカーであるドイツ人MFバスカル・グロスや、チェルシーから22年夏に獲得したスコットランド代表MFビリー・ギルモアらが務めることになる。
31歳グロスはクレバーでそつなくこなすタイプでキックの精度自体はトップレベルだがカイセドほど、ゲームコントロールや潰しができるわけではない。現在21歳のギルモアは、ボールを持った時の推進力やパスの技術に定評があるものの、まだ状況判断に課題を残す。
戦力の完全回復には、やや時間がかかりそうだ。
そうなると三笘としても、前を向いて仕掛ける場面寄りも、背負ってキープすることが求められることも増えるだろう。日本代表戦士としては、やや苦しい時期になるかもしれない。
(C)aflo