先週、厚労省の専門部会が人工妊娠中絶に使う飲み薬について、薬事承認することを了承した。承認されれば、国内初の“飲む中絶薬”となる。
いったいどのような薬なのか。テレビ朝日・社会部厚労省担当の藤原妃奈子記者に話を聞いた。
「今回承認されたのは、イギリスのラインファーマの飲む中絶薬です。妊娠初期の9週0日以下に限って使用可能となっています。薬は『ミフェプリストン』と『ミソプロストール』の2種類で、妊娠を継続するホルモンの働きを抑えるミフェプリストンを飲み、36~48時間後に子宮を収縮させて内容物を排出するミソプロストールを飲みます。治験では24時間以内に93.3%が中絶にいたったことが確認されています」(以下、藤原妃奈子記者)
ミソプロストール、ミフェプリストン共に幅広い国・地域で承認されているが、現在の中絶と違いは何か。
「日本の中絶では手術が主流です。厚労省が発表した2020年の数字をみると、年間14万5000件の中絶手術が行われています。最も多く用いられているのが『掻爬(そうは)法』で、金属の器具を使って内容物を出す手術です。また、内容物を専用の器具で吸引して取り出す『吸引法』もあります。今までは飲む中絶薬は日本にありませんでしたので、承認されれば初の中絶薬になります」
厚労省の専門部会が薬事承認を了承したということは、実際に承認されるのか。
「この問題は社会的関心も高く、きょう(2月1日)からパブリックコメントの募集が始まりました。薬の管理方法や使う体制について意見が募集されます。来月にも厚労省の別の会議で最終的な議論が行われます。早ければ春にも承認される見通しですが、まだ確実とは言えません」
多くの国で承認されてきた中絶薬が、これまでなぜ日本で認められてこなかったのか。
「治験に参加した医師は『世界的にみても、日本の外科的人工妊娠中絶は安全に行われていた』と話します。手術でずっとやってきたので、現場の需要が大きくなかったのです。また、別の専門家は『海外の製薬会社が日本で新しい薬の承認を申請するとき、国内で治験するには莫大なお金がかかる。日本で承認されても、そのリターンがあるのか。製薬会社側の意向も影響する』と話していました」
具体的な値段などは明らかになっていない“飲む中絶薬”。日本では、妊娠初期中絶は原則保険適用外となり、10万円前後が自費負担となるが、サポートをどうするかについても、今後議論になると見られている。
「専門家からは『手術では麻酔が必要などの観点から薬のほうが負担を減らせる』という声もあがっています。一方、イギリス滞在時に流産を経験し、その処置として「ミフェプリストン」と「ミソプロストール」を服用した産婦人科医の池田裕美枝先生に話を聞きました。イギリスでは、流産の処置としてもこれらの薬を使用しています。池田先生は2つ目の薬を飲んだ後、子宮の内容物が排出されるまでの間に強い腹痛と出血があったとのことです。そうした経験から『手術と内服のどっちが楽かと言われると両方しんどいと思う』と話していました」
精神面・身体面で大きな負担となる中絶。手術と飲み薬、どちらの負担が患者にとって軽いのだろうか。
「患者の負担を考慮すると『入院は必要ない』という専門家もいます。海外でも入院なしで使われています。ただ、日本では初めての薬ですから、現場の医師に経験がありません。中絶を行う都内の医師からは『薬は効き方に差があるので、使いにくい。国内で多く使われるようになり経験が集まってくるまでは使わない』という声もありました。内容物が出るときの出血も多く、緊急時に対応できるよう、当面の間は、入院設備がある病院での使用に限って使用することを厚労省は検討しています」
中絶を考えている人にとって、選択肢が増えるのは「意義がある」と考える医師もいる。
「先ほどの池田先生によると、飲み薬は『自分自身で妊娠を終わらせる』という『自分の行為』だったと話していました。手術は医師によるものなので『受け身』の部分が多いですが、薬は自らの手で飲みますから、主体性が異なるもの。手術では出血など、手術を受ける側が見ることはありません。一方で薬は、たくさん血が出て内容物が排出される過程を体験することになります。池田先生は『全く別の経験で、選択できることは意義がある』と話していました」
配偶者の同意は経口薬でも必要になるのか。藤原記者は「厚労省は手術でも薬でも、前提は変わらないとしてます」と話す。
「さまざまな意見がありますが、中絶などについて定めた現在の法律(母体保護法)では『本人及び配偶者の同意を得て、人工妊娠中絶を行うことができる』となっていて、原則、病院は配偶者同意を求めます。一方で、厚労省は配偶者がいないときや、性暴力・DVがある場合には、配偶者同意は必要ないという見解もはっきり示しています」
一方で、課題となるのは、薬の管理方法だ。
「管理体制が非常に重要になってきます。中絶をしたくない人に飲ませるなど、悪意のある者が入手すれば、事件に繋がりかねません。一般で流通することは基本的にはありませんが、厳格に病院で管理することが重要です」