日本代表FW三笘薫が所属するブライトンは、現在、確変モードに突入している。単純にプレミアリーグで6位という好成績を残しているだけでなく、若手という若手が次から次へと成長しているのだ。尋常ではないレベルで。
なぜこのような急成長が起こっているのか。現在はチェルシーで監督を務めるグレアム・ポッターから現在のロベルト・デ・ゼルビという監督交代の流れが、恐らく完璧すぎたのだろう。
選手の多様な可能性を見出すポッター前監督
まず前任のポッターは、選手に様々なプレーを経験させる監督だった。これが多くの若手選手にとってプレーの幅を広げるという意味で好影響を与えた。
わかりやすいのはイングランド人DFダン・バーンの事例だろうか。現在はニューカッスルに移籍し、プレミアリーグ最小失点12点という堅守にセンターバックとして貢献しているが、ブライトン時代はウイングバックでプレーしていた。2メートルもある高身長の選手にもかかわらずだ。
このようにポッターは、選手に多様な可能性を見出し、様々なポジションやエリアでプレーさせることを好む。
結果として、試合ごとに選手のプレーポジションはコロコロと変わる。そして試合がはじまっても、選手たちはボールを動かしながら流動的に動き回り、プレー位置を変える。つまり様々なエリアで複数のタスクを選手たちは経験する。あるいはどの選手もボールをうまく引き出したり、他の選手のためにスペースを作る動きをすることになる。
結果として、多くの選手たちはプレーの幅を増やすことになる。あるいはこれまで見えてこなかった得意なプレーを見つけることになる。
得意なプレーでチャレンジさせるデ・ゼルビ監督
一方のデ・ゼルビはどうだろうか。このイタリア人監督も、ボールと人が動き続けるサッカーを志向するが、ポッターよりもデ・ゼルビのサッカーのほうが型がある。
自陣のゴールの近くであろうとも、低い位置から繋ぐ意識が極端に高い。相手選手を自陣に引き込んだあと、オープンな展開を自ら作り出し、チャンスを生み出すサッカーを好む。デ・ゼルビのサッカーも思考しながらのプレーが求められるが、各選手ごとのプレーはいい意味でパターン化されやすい。
とはいえこれらは簡単なプレーではない。まず、自陣の低い位置から縦パスを入れるということは、ボールを失うと即失点というリスクがある。また、オープンな状況になると、選手たちは素早く仕掛けて、得点直結のプレーをする必要がある。
しかし、このサッカーについて「若い選手にはミスをすることを恐れず、楽しみ、考え、そしてピッチでプレーしてほしい」とデ・ゼルビは語る。選手には自身が得意なプレーで存分にチャレンジすることが求められるのだ。
そして、チャレンジした選手に対して指揮官は賛辞を惜しまない。直近の試合で言えば、ウンダヴやウェルベックのようにたとえ得点に結びつかなくても積極的なプレーを見せる選手に対し「彼らを気に入っている」と称賛し、三笘については「ベンチに下げることはできない」と発言するほど選手に信頼を寄せているのだ。
三笘薫の成功は特徴ある両監督からの学びによるもの
こうして、両監督の下で学んだ選手たちは動き続けながらボールを引き取るプレー、ボールを回し続けるプレーを学んだ後に、リスクを冒して点をとりにいくプレーを覚える。
その結果が今のブライトンの躍動感に繋がっている。三笘はパスワークに絡んだかと思えば、果敢に仕掛けて点に関与していく。モイセス・カイセドやアレクシス・マカリスターなどの中心選手も同様に、複数のタスクをこなしつつ、生き生きと自身の良さを高いレベルで発揮している。
今のブライトンは完璧な監督人事があったこその奇跡的なチームになっているのである。我々は、この“ミラクル・ブライトン”をできるだけ長く堪能したいところである。そして「三笘は素晴らしい選手」とデ・ゼルビは語るように、その中心に日本人がいることは、これ以上ない幸せな話だ。
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