10代女性にUFOの映像を見せ、「宇宙人に連れ去られ、皮を剥がされ食べられる。死を回避するためには私と関係をもつしかない」などと脅し、わいせつ行為をしようとした準強制性交等未遂罪の疑いで2月7日、渋谷博仁容疑者(74歳)が逮捕された。
渋谷容疑者は最近まで、現在の妻を含む40〜70代の9人の女性と同居女性の子供3人と共に一夫多妻とも言えるような生活をおくっていた。
この「宇宙人」「一夫多妻」というフレーズに既視感を覚える読者もいるだろう。
渋谷容疑者は17年前も東京・東大和市の自宅で11人の女性と結婚と離婚を繰り返しながら共同生活をおくっており、多くのメディアで取り上げられたのだ。
当時、渋谷容疑者よりはるかに若い女性たちは一様に渋谷容疑者に好意を寄せており、渋谷容疑者の子どもを身籠り育てていた。その歪さも承知のうえで生活を共にしていたのだ。
そんな中、当時占い師を自称していた渋谷容疑者は、25歳の女性に共同生活に加わるよう脅迫した罪などで懲役1年6カ月、執行猶予4年の有罪判決を受けたのだ。
なぜ、再び事件は起きたのか? なぜ、人は洗脳されてしまうのか? そして、どうすれば洗脳を防ぐことができるのか? 臨床心理士・公認心理師の明星大学 藤井靖准教授に話を聞いた。
「渋谷容疑者は『宇宙人に連れ去られ…』ということを話していますが、実は、荒唐無稽だからこそ意味があるのです。悩みを抱えている人にとって一般的なアドバイスはその悩みが深ければ深いほど解決に結びつかず『似たり寄ったり』になってしまうことが多い。そんな中で渋谷容疑者は他の方と違う言葉を使い、『これが答えだ』と断定します。その結果、そこに心を寄せやすくなる、というのは往々にしてあり得るのです」(以下、藤井准教授)
すがることで救われる、という心理もあるのだろうか?
「人は“自由でありたい”という欲と共に、“不自由でありたい”という『被支配欲』も持ち合わせています。そのため、支配されることが楽で心地良い、安心する、ということもままあるのです。制限やルール、振り回されている感覚が楽しい、ということは実は日常にもあることで、例えば恋愛で『リードされたい』というのは、心理学的には共通しています。そういう心理がエスカレートしたり悪用されたりすると、マインドコントロール状態に至ることもあります」
歪な集団生活の根には何があるのだろうか。
「2006年に有罪判決が出ているにもかかわらず、いまだに女性たちが同居を続けているのは、集団が既に一つの社会として成立し、相当強固な価値観や考え方が根付いているからだと考えられます。間違っているのは外の社会であって、『ここが唯一の居場所だ』と思い込んでいる人もいるかもしれません」
どうすれば洗脳を防げるのだろうか? もし自分の身近に怪しげな集団に足を踏み入れようとしている人がいたらどのように接すればいいのだろうか?
「まず大事なのは心を寄せている対象がどんなに怪しくても『否定しないこと』です。否定せず、受け入れつつも『こんなあり方もある』といくつか他の道を提示して選んでもらうのです。もし集団生活をすでにおくっているようならその集団を否定することなく、『別のコミュニティにも所属してもらう』『別の時間を増やす』手助けをすることが有効です。その人を頼りにして何かを手伝ってもらうことで連れ出すのでもいい。第三者から否定されればされるほど、行ってほしくない方向に向かってしまうのはよくあることなので、注意したいところです」
(『ABEMAヒルズ』より)