遺伝子組み換えメダカを育てたなどとして全国で初めてカルタヘナ法違反の疑いで販売業者の男ら5人が逮捕された。この遺伝子組み換えの危険やカルタヘナ法について、テレビ朝日社会部 生田目 剛記者に話を聞いた。
【映像】一歩間違えたらバイオハザード? 「種の壁」を超えた赤く美しく光るメダカの動画
――そもそも遺伝子組み換えは品種改良と何が違うのか?
「品種改良は、同じ種のなかで交配させてより有用な品種を作り出します。対して遺伝子組み換えは『種の壁』を超えます。ある生物から目的とする遺伝子を取り出し、改良しようとする別の生物に組み込むことで品種改良では到底出来ないような特性を持った新たな生物を生み出します」
――「ちょっとしたバイオハザードでは?」との声もあるが、どのようなリスクがあるのか?
「『これまで地球上になかった生物』を生み出すため、遺伝子組み換えされた生物が外に出ることで生態系や進化の歴史、生物の未来をも変えてしまう可能性があるのです」
――今回、遺伝子組み換えされたメダカが放流されたが問題ないのか?
「生態系に悪影響を及ぼす可能性は大いにあります。とはいえ、放流された用水路は警視庁と環境庁によって捜査されましたが、既に水が干上がっていたこともあり生物自体が少なく、メダカが他の生物に捕食されたのか死亡したのか特定が出来なかったものの、複数の専門家によると現時点では放流された場所での生態系の影響はないとのことです」
――そもそも、どうして赤いメダカは生み出されたのか?
「元々は『メダカのヒレ・骨がどのように再生するのか』という大学の研究で生み出されました。ミナミメダカの遺伝子に、イソギンチャクモドキの赤い色素を含む遺伝子を組み込むことで『どこを再生したのか分かりやすくする』という狙いがあったのです。つまり、『赤い色のメダカを生み出すこと』という目的ではなかったのです」
――事件発覚の経緯は?
「当時の大学院生がメダカの卵を持ちだしたことが一連の拡散のきっかけになりました。令和4年3月に台東区内の展示卸売会で1匹5万円で販売していたことに客が気付き警察に伝えたことや、令和4年5月に遺伝子組み換えしたメダカを販売していると環境省に情報提供があったことから今回の逮捕につながりました」
――カルタヘナ法とは?
「カルタヘナ法とは、遺伝子組み換えされた生物が世の中に出てしまうと生物の多様性に悪影響を及ぼすことから、それを防止する観点から定められた法律です。遺伝子組み換え生物等の環境中への拡散を完全には防止しない第一種使用等と、環境への放出が生じない空間で使用する第二種使用等の2つに分けられます。具体的には遺伝子組み換えされたトウモロコシの栽培や、ある動物に生のワクチンを接種する研究などが第一種、完全に隔離された研究室などでマウスを使った研究などは第二種にあたります」
――過去に遺伝子組み換えに関する事件はあったのか?
「過去にも各省庁から行政指導や厳重注意はありました。例えば大学で研究されていた遺伝子組み換えのものを下水に流してしまった件や、遺伝子組み換えの植物を育てていた種を含む土を捨ててしまい発芽した際に遺伝子組み換えと発覚したケースもありました」
――もし、自分の身近に遺伝子組み換えが疑われる生物がいた場合の対処は?
「遺伝子組み換えと知らずに飼育したことで即座に違法となる可能性は低いため、不安になって捨てるという選択をとらずにまずは環境省などに相談してください」
――予防策は?
「大学教授の方に話を伺いましたが、一人ひとりが『扱っていたものが外に出た時にどうなってしまうのか』について考えるための教育・倫理観を養うことを学校教育に取り入れることが大事だと話されていました。遺伝子組み換えの研究は人類の課題解決に貢献しうるものです。今回のような不正を受けて、予防策をさらに強化したうえで科学を前進させてほしいです」