岸田総理のキーウ訪問 到着前報道に安全面を懸念する声も「報道の自由は原則だが…首相の安全確保は例外に」
【映像】岸田総理がキーウ訪問 事前報道に「危険に晒す」の批判も...いま行く意味とは?
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 ウクライナの首都キーウで、ゼレンスキー大統領との首脳会談に臨み、4億7000万ドル、およそ620億円の追加支援などを表明した岸田総理。会談に先立って、多くの市民が亡くなったブチャを訪れ、虐殺の犠牲者を追悼した。

【映像】駅のホームにいるじゃん! カメラが激写した岸田総理(画像あり)

 岸田総理のキーウ訪問が報じられたのは21日午前だった。一部メディアは、ポーランドからウクライナへ向かう岸田総理の姿を捉えていた。その映像では岸田総理が列車に乗り降りするシーンもあり、これがカメラではなく危害を加える意図を持った人間だった場合、重大な事態が起きていた可能性もある。国会でも、安全管理を懸念する声が上がった。

 危機管理と報道の在り方に問題はなかったのか。ニュース番組「ABEMA Prime」では、現場を知る政治記者と専門家と共に考えた。

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 19日からインドを訪問していた岸田総理。その後、急きょチャーター機でポーランドへ向かい、列車でキーウに移動した。

 到着前の報道は、どのようなリスクがあるのか。リスクコミュニケーションを研究している福田充氏(日本大学危機管理学部教授)はこう話す。

「一方的に侵攻されている場所に一国の総理が行った。他国は、要人を守るための危機管理や報道の情報管理が徹底している。しかし、日本はそれが全く存在しない。情報が事前に漏れたら、ロシアのドローン攻撃やミサイル発射も起こり得る。この状況で情報が漏れてしまったのは、大きな問題だ。今回は、日本政府がロシアに事前通告をしていたから、その意味では『情報が出ても問題ない』と考えたのだろうが、今後繰り返されるべきではない。改善すべき点が多いと思う」

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 外務省の正式発表前、2つのテレビ局が岸田総理のキーウ訪問を報じた。なぜ、情報が漏れてしまったのか。ABEMA NEWS政治担当の今野忍記者は「総理や政府側も『漏れるのは仕方ない』と判断したのではないか」と話す。

「総理が電車に乗ったのは午前9時半。午前10時過ぎに、岸田総理が自ら複数の与党幹部に電話している。現場の記者の相場観として、だいたいことは政府側から漏れる。この1時間半後に2社が報じた。情報源は分からないが、逆にいうと、総理や政府側の情報管理はこの程度のものだ。岸田総理自身、空路が終わって、陸に着いて安心したのか、与党幹部に連絡しちゃった。『漏れるのは仕方ない』と判断して電話したのではないかと思いたくなる行動だ。これがアメリカなら、大統領がキーウに行って、やっと情報が出る」

 実際に岸田総理のインド滞在に同行していた記者は、キーウ訪問を察知していたのだろうか。今野氏は「ある程度、記者側も『これは行くんじゃないか?』と思っていた」と話す。

「インドまで岸田総理と一緒に行ったある新聞記者に話を聞いた。その記者はキーウで使えるWi-Fiルーターを持って行ったが、残念ながらインドで置いてけぼりにされた。岸田総理のこれまでの外交を見ると、一度に複数国行くことが多い。今回はインドで3日間の予定だった。明らかに日程が緩いし、当然疑う。岸田総理は2月にキーウ訪問を考えていたが、行けなかった。事前に岸田総理に近しい外務省の人を取材したが『いきなりウクライナには行けないから、インドやサウジアラビアなどの外国を経由するだろう』と言っていた。3月にインドへ行く発表があった時点で、ある程度の記者なら『これは行くだろうな』と想定できた。岸田総理としても広島サミットまでにとにかく行きたかったわけだ。『議長国の自分だけが行っていない状況だけはなんとかしたい』と外務省にプレッシャーをかけていた。強い思いがあったのは確かだ」

 また、今野記者が22日に取材した別の外務省の幹部は、キーウ訪問の事実を知らなかったという。

「岸田総理に近い幹部でも『知らなかった。総理が帰国したら話をいろいろ聞いてみようと思います』と言っているぐらいなので、10人以下かもしれない。かなり少人数で進めたと思う」

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 なぜ事前の発表ができなかったのか。福田氏は「日本の法制度の中でマスコミ、メディアの動きをコントロールする術がない」と指摘する。

「発表後、すごい数の大きな集団が移動することによって、現場が混乱するし、標的にもなりやすい。今の日本では、事前発表は難しいと思う。発表後、日本政府にメディア・マスコミの行動、取材の仕方をマネジメントできる能力やルールはない」

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 とはいえ、総理の動きは分単位で「首相動静」という形で報道されている。極秘行動が取りづらいともいえるが、福田氏は「知っていても、出すべきではない情報はある」と主張する。

「報道の自由は原則だが、例外規定がある。その例外は、戦争やテロリズム、誘拐事件だ。民主主義のリーダーなのだから、首相の安全確保も当てはまる。議論してメディアやマスコミと合意できれば、日本でもルールが作れるはずだ。しかし、ルールを作らずに今回も『例外』で済まそうとしている。僕はきちんとここでルールを作るべきだと思う」

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 その上で、岸田総理のキーウ訪問について、福田氏は「行った意義はあると思う」と話す。

「日本は人道主義や人権の自由を守る立場にいる。その国際協調の中に、日本はこれからも居続ける。ウクライナがなぜ今戦えているか。それは、NATOやアメリカ、日本が支援しているからだ。国際協調路線から逸脱しないことが、日本が先の太平洋戦争から学んだ一番大事な教訓だ。日本に何かあったときには、やはり守ってもらわないといけない。侵攻されている国に対して、安全保障や人権をどうやって守っていくかが大事だ」

(「ABEMA Prime」より)

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