「ドーハの歓喜」から3カ月、今夜のキリンチャレンジカップを皮切りに“第2期・森保ジャパン”がスタートする。
森保監督は選手の“言いなり”ではない
A代表は通常、主要大会を区切りに、監督続投か交代かを判断するものである。とりわけ、4年に1度開催される最高峰のフットボールの祭典、FIFAワールドカップがターニングポイントとなる。過去の日本も、ほとんどがワールドカップで監督が交代してきた。
その点で言えば、FIFA ワールドカップ カタール 2022で指揮を執った森保一監督が続投したのは珍しいケースだと言える。その理由としてはやはり、ドイツ、スペインに逆転勝利を収め、世界中にインパクトを与えた手腕を評価されたことが大きいだろう。
森保監督は、非常にチームマネジメントに長けた指揮官である。長年、日本代表の指揮官の変遷を見ていると、「俺の言うことを聞け」的なマネジメントは、日本人的な組織づくりには適していなかった印象を受ける。もちろん、フィリップ・トルシエ監督のように、自らの考えとサッカーの志向をはっきりと持ち、選手と口論しながらもチームを引っ張っていくタイプが日本人と合わないわけではない。とは言え、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督のように選手と監督の間に溝が生まれ、ワールドカップ本大会直前になって監督解任という、難しい判断を下したことを考えると、選手としっかりと対話をし、彼らの意見を適度に採用しながらマネジメントしていく森保監督は、非常に適任だったのだろう。
加えて、森保監督は決して選手の”言いなり監督”ではないことも大きい。対話を重視し、意見を採り入れながらも、自身の確固たる方向性や戦略を持ち合わせ、必ず守るべきガイドラインを明確にチームに提示しているのだ。「選手主体」や「選手に自由を与える」と言う表現が使われることがあるが、それは裏を返せば、単なる放任主義になりかねない。
森保監督は、つまり、そういうタイプの指揮官ではないのだ。
実は、育成年代では”放任主義”がたびたび起こっている。選手に考えさせ、行動させることで自主性を促すという方針は非常に重要だが、「考えなさい」「自分たちでやりなさい」とただ伝えるだけでは、選手はどこで自主性を発揮し、どの考えに基づいて発想すればいいのかわからず、逆にバラバラのチームになってしまうことがよくある。選手が明確な基準を持たないで自主性を強調されることで、”ただのわがまま”になってしまいかねないのだ。
だからこそ、チームには秩序と方向性が明確にあった上での対話や自主性が必要であり、森保監督はそれをチームにも落とし込むノウハウに長けた指揮官であると感じている。
森保ジャパン第二章で新しい景色へ
東京五輪代表とA代表の兼任という難しいタスクを見事にやり遂げたことが、その証明の一つである。一度に2つのチームを見ることだけでも難しいものだが、森保監督は2つのチームに同じ秩序と方向性を打ち出し、一つの柱を築いてからチームビルドに乗り出していた。具体的には、サッカーの技術的なアプローチだけではない。必要とされる選手のタイプが東京五輪代表とA代表が似ていたこともあるため、東京五輪代表からA代表へのスライドを意識して、2つのチームの同じポジションの選手を比較したり、刺激を与えたりすることで、自然とA代表の競争原理を成り立たせていたのだ。東京五輪代表のオーバーエイジの3人も、A代表で主軸中の主軸となる選手を入れ、チーム強化だけではなく、ワールドカップに向けた特徴の理解と連係の強化という明確な意図を持って指揮していた。
結果、カタールワールドカップは前回のロシア大会経験者をボランチから後ろのポジションに多く呼ぶことで、「経験」という土台を築きながら、そこに東京五輪で躍動した選手をプラスしていった。中盤より前は東京五輪代表に加え、それぞれのリーグで躍動している選手をピックアップし、躍動感ある攻撃を繰り出せるチームに仕立てた。
「ドーハの歓喜」は、森保監督による選手の特性を理解した綿密なチームビルド、チームマネジメントによってもたらされたものだ。結果、次のワールドカップの主軸となる選手が貴重な経験を積み、次のA代表の主軸を張れる実力を着実に身につけている。
この流れを監督交代によって途切らせるより、もう一度、森保監督のチームマネジメントに託すという考えは理解できる。もちろん、次のワールドカップまでの指揮が完全に決まっているわけではなく、結果が出なくなったり、アジア最終予選の結果が出なくなったりすることで、途中で交代もあり得る。それはプロの世界である以上当然のことではあるものの、現時点では森保監督の続投が有効策であることは間違いないだろう。
森保監督は早速、4人の20代前半の若手選手を招集するなど、次のステージに着手している。まずはキリンチャレンジカップ2023で秩序と方向性をもう一度明確に打ち出し、3年半後、今度こそ新しい景色を見るために。第2期・森保ジャパンの船出から目が離せない。
文・安藤隆人 (c)ABEMA