キリンチャレンジカップ2023が24日に行われ、日本代表はウルグアイ代表と1-1で引き分けた。フェデリコ・バルベルデのゴールでウルグアイ代表に先制された日本代表だったが、75分に西村拓真のゴールで追いついてドローに持ち込んだ。横浜F・マリノスに所属する26歳のMFは、途中出場からのファーストプレーでゴールネットを揺らして鮮烈なインパクトを残した。
【映像】ピッチに入って即ゴール!“シンデレラボーイ” 西村拓真のファーストタッチ弾
キャリアの転機は横浜F・マリノスへの移籍 新境地・トップ下でブレイク
西村は富山第一高校出身で、2015年にベガルタ仙台へ加入。2018年にはシーズン途中のJ1第24節までにキャリアハイの11得点を挙げ、同年8月にロシアの強豪CSKAモスクワへ完全移籍した。ロシアでは1年半プレーするも、なかなか出場機会を得られず。2020年1月にポルトガル1部のポルティモネンセへ期限付き移籍し、そこでも出番が限られていたなか、同年3月に仙台へ復帰した。
Jリーグの舞台に戻った西村は仙台で2シーズンを戦い、2022年から横浜F・マリノスへ完全移籍する。新天地ではJ1で10得点を挙げ、F・マリノスのリーグ優勝に大きく貢献。ベストイレブン受賞こそ逃したものの、チームの中心選手へと成長を遂げた。
また、国内組のみで挑んだ2022年7月のEAFF E-1サッカー選手権決勝大会で日本代表に初めて招集され、A代表デビューとなった初戦の香港代表戦でいきなり2ゴールを奪う活躍を披露した。
日本代表招集や、ウルグアイ代表戦でのゴールにつながったキャリアの転機はF・マリノスへの移籍に違いない。西村を指導したあるコーチは「拓真が大ブレイクできたのは、(ケヴィン・)マスカット監督がトップ下にコンバートしたおかげだ」と語っていた。まさしくその通り、4-2-3-1のトップ下に固定された西村は攻守に躍動し、試合を重ねるごとに重要な選手となっていった。
西村自身も「F・マリノスで本当に新しい自分を見させてもらった」と語る。仙台時代は2トップの一角か、3-4-2-1の2シャドーで起用されることがほとんどで、CSKAモスクワ時代もセンターFWや左ウィングとしてプレーすることが多かった。
ピッチの中央を起点に自由に動き回って攻撃に絡めるトップ下は西村にとって新境地であり、特徴と役割が完璧にマッチした最良のポジションだった。それを見抜いたのがマスカット監督の慧眼だった。
「勝つためにプレーできる選手が一番いい選手」F・マリノスで見つけた“新しい自分”
F・マリノスを率いるオーストラリア人指揮官は西村を「ゴールを決めるよりもチームにとって何がベストなのか、チーム全体で勝ちにいくことを考えて、スタートから最後まで手を抜かずチームのために走ってくれる素晴らしい選手」と評する。
対して「勝つためにプレーできる選手が一番いい選手だと思う。そこはF・マリノスで学んだ部分でもある」と語る西村は、トップ下へのコンバートで「見える景色も全然違いますし、プレースタイルも変わりましたし、自分のやれる幅も広がりましたし、こんなことできるんだという発見もありました」と自らの変化を実感している。まさしく「新しい自分」の発見である。
一方で「個人で何かをするタイプではない」とも語る。常に意識するのは「味方とつながる」こと。ドリブル突破に頼ることも、ペナルティエリア内でパスを待つことも、スルーパスにこだわることもない。チームメイトに連動して、その時に最善だと感じるプレーを選択しながらゴールに向かっていく。
スタミナモンスターが見つけた「あえて走らない」意識
運動量の多さも特徴だ。今シーズンのJ1第2節・浦和レッズ戦では記録が残っている限りでJリーグ歴代3位の「14.38km」を走破。Jリーグ公式サイトで公開されている試合ごとの走行距離のランキングを参照すると、今シーズンの1位と2位に西村の名前がある。
攻撃時は常にスペースに顔を出してボールに絡み、チャンスと見るや全力でゴールを狙う。守備になった瞬間、すぐに切り替えて前線から猛烈なスプリントでボールを追い回す。週2試合の連戦を全く苦にせず、90分間走り切った試合の後も疲れた様子を一切見せずケロッとしているから恐ろしい。
そのうえで、次のステップとして「あえて走らないこと」を意識し始めている。J1第5節の鹿島アントラーズ戦後には「最近、無駄な動きが多いとわかっていたので。力の使いどころによって、強度をもっと伸ばせる部分がある」とさらなる進化を目指し、「走りの質を上げる」ことに取り組んでいる。「(いくら走行距離が長くても)相手に怖さを与えられないと意味がないので、そこを常に考えながら向上していきたい」と西村は話していた。
F・マリノス移籍前は「ただガムシャラにやっていただけ」の選手だったが、F・マリノスでトップ下にコンバートされて「新しい自分」を発見し、「選手としての幅が広がった」。日本代表戦で途中出場からのファーストプレーがゴールにつながったのも、所属クラブでの取り組みがあってこそだ。シュートまでの一連の動きは論理的で非常に洗練されていた。
「まだまだ自分は足りない」野心溢れる漢・西村
西村を取材していると、いつもサッカーに対して向き合う姿勢の純粋さに驚かされることが多い。どんなに結果を残しても「まだまだ足りない」「もっと成長したい」と言い、戦うステージが上がっても「自分は弱い」と一切の慢心なく、愚直に成長を追い求めて一歩ずつ前進していくことの重要性を口にする。
他方で信念の強さにも目を見張る。「サッカーは急に上手くならないですし、積み重ねてきたものを信じています」と、これまで歩んできた道のりを自信に変えてきた。今回も「まだまだ自分は足りないとわかっているので、どうやって日本代表で(競争に)食い込んでいけるか。F・マリノスでやっていることがあっての今だと思うので、ここからどんどん食い込んでいきたいです」と話す。
ウルグアイ代表戦のゴールによって日本代表で競争の扉をこじ開けた西村は、体の奥底から溢れ出る野心とともに信じた道を突き進んでいく。
文・舩木渉(ABEMA/キリンチャレンジカップ2023)(C)浦正弘 (C)aflo