牛乳を生産している酪農家が深刻な事態に陥っている。中央酪農会議が公開した調査結果では、酪農家の約85%が赤字経営だという。そのうち約43%あまりが赤字額月100万円以上、酪農家のおよそ6割が「離農を検討している」としている。
【映像】厳しすぎる…子牛価格が最低5万円→1000円に大暴落(画像あり)
なぜこのような状況になっているのか。ニュース番組「ABEMA Prime」では、当事者と共に日本の酪農を守る手立てを考えた。
酪農家たちが訴えているのは、飼料の価格高騰と生乳の販売価格の安さだ。背景にはコロナ禍による消費の減少、ロシアのウクライナ侵攻などによる飼料の高騰がある。そもそも政府による増産政策、現在の供給過剰状態の一因になっている。現在は一転、生乳の生産抑制を呼びかけているが、こうした動きも酪農家たちを困らせているという。
「浅野牧場」の浅野達彦氏は「何よりも上がっている餌代が苦しい。本当に厳しい状態だ」と訴える。
「新型コロナの流行前までは、うちの規模で餌代は年間1500万円ほどだった。大きい金額だったが、今はそれが2500万円になって年間1000万円ぐらい上がった。他にも農薬や光熱費が全部上がった。一方で、生まれた子牛の値段がすごく下がっていて、経費は上がっているのに、収入が上がっていかない。うちは放牧をやっている牧場なので、まだマシだ。大規模に本州でやられている酪農家は本当に苦労していると思う」
大量廃棄を受け、農水省は牛1頭を減らすごとに15万円の奨励金を出している。これをどのように受け止めているのか。
「あくまで全体の問題として考えると、生産量を減らさないといけない。団体からも要請があったから、農水省が出したんだと思う。ただ、奨励金を受け取るには1頭当たり生乳生産を7.5トン減らさなくてはいけない。自分の牧場や周りの地域限定の話にはなるが、これは条件として非常にきつい。牛の売上を考えた時に、この奨励金では足りないので判断が難しい」
2014年、バター不足をきっかけに補助金も出し、輸入も止めた政府。牛を増やす動きから、わずか数年の間に減らす施策を打ち出した。これに北海道・十勝選出の石川香織衆議院議員(立憲民主党)は「酪農家は借金を返す計画が狂ってしまった」と指摘する。
「7年前『畜産クラスター』という事業があって、畜舎を建てるときに費用を助成した。国が酪農家の皆さんに『増頭増産を大規模化してくれ』と発破をかけていた。7年経って今度は『減らせ』と言っている。生産規模を強めるために予算をつけたはずなのに、今度は生産規模を弱めるよう後押しするのは、あまりにも急展開すぎる。当然償還計画があるので、酪農家さんは何十年と借金を抱えてしまっている」
さらに、加工品と生乳では買取価格が違うと石川氏は話す。
「北海道はたくさん搾る代わりに、加工は飲用よりは安い価格で買い取ることで話し合いがついていた。ただ、メーカーもバターなどの乳製品をたくさん作っているので、もっと増やせと言っても限度がある。今、機能性のヨーグルトがいっぱい発売されているが、あれはメーカーの努力で、余った脱脂粉乳をいっぱい使うためにいろいろなヨーグルトを出した。まず、皆さんにたくさん食べてもらったり、飲んでもらったりしてもらうのも、応援になる」
卵なども値上がりしている。200円の牛乳が400円になっても、買ってくれる可能性はないのか。
「価格転嫁をすれば生産者の収入になるかと言ったらそうではない。乳価といって、酪農家は牛乳を搾った乳代で収入を得る。流通にかかるお金も含めると、なかなか生産者のプラスにはならない。逆に値段が高くなって、消費者が買わなくなるほうが困る。落とし所が難しいが、今はいろいろなものが値上がりしているので、ある程度の値上がりは、私は正しいと思う。そもそも牛乳は安すぎだ。高級なミネラルウォーターよりも安い場合がある」
▲北海道・十勝選出の石川香織衆議院議員(立憲民主党)
石川氏の説明に浅野氏は「本当に政府に振り回されたと感じている人が多い」とした上で、「当時出た補助金で規模を拡大したところが今一番苦労している。政府のやり方が悪いだけの話ではなくて、牛乳は日持ちしないから流通が難しい。ほんの少し余るだけで大量廃棄みたいな話になってしまう」と話す。
現場では子牛の買い取り価格が最低価格であっても、買い手がつかない状況が起きている。浅野氏はどう考えているのか。
「今は落ち着いてきたが、昨年の夏から年末にかけては本当にひどかった。まともに育てても、1000円つけばいい状況で、売れればマシだった。全く買い手がつかなくて、残念ながらそのまま殺処分になると、処理にお金を払わなくてはいけない。一方で、粉ミルクの値段も上がって、牛の値段以上に粉ミルク代がかかる。特に現場で子牛を世話している人は金額以上に気持ちがつらい」
中には辞めたくても辞められない酪農家もいるという。浅野氏は「周りで本当に離農が進んでいる」と訴える。
「経営が良かったところも辞めている状況だ。辞めて借金を返せるならマシで、辞めて牛やトラクターを売っても、牛が安くなっているので借金すら返せない酪農家がかなりいる。無理やり辞めるか、つらくもなかなか辞められない酪農家さんもいる」
作家・ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「僕の友人に茨城で大規模な農業法人をやっている人がいる」という。
「彼が言っているのは、例えば大手コンビニやスーパーと契約して、一定量の野菜を毎年必ず届けるために大規模化は必要だと。一方で、全部が大規模化する必要はなくて、首都圏の小さいレストランにイタリア料理用の野菜を卸すような、小規模で特殊な野菜に特化した小さな農業法人がすごく注目されている。『大規模化するか、ダウンサイジングして多彩な商品を作るか、両極に分かれるのではないか』と言っていた。これは酪農にも当てはまるのではないか」
佐々木氏の意見に、浅野氏は「僕も本当にそう思う。二極化はまさに酪農の今後に関わってくる。大きい牧場も必要だと思うが、小規模で機動力もあって、それこそ独自化や輸出、加工に特化したり、観光牧場的な価値もまだまだあると思う。ホクレン(北海道農協)などの指定団体、メーカー、酪農家、誰が頑張るべきなのか議論が分かれるが、そういう努力が必要な時代だと感じる」と述べる。
一方で、ネット掲示板「2ちゃんねる」創設者のひろゆき氏は「僕は逆だと思う」とコメント。
「零細を増やすのは、単に政治家が『票が欲しいから』という以外に答えはないんじゃないか。大規模だと利益率が高いので、自社生産も研究開発もできる。例えば、生乳をホクレンに卸すのではなく、自社でブランド化したものを直接、市場やレストランに卸す体力がつく。大規模化をして儲かれば、人も雇える」
ひろゆき氏の意見に浅野氏は「大規模化が全部良くて、小規模化だと生産性が落ちるとは限らない」と答える。
「うちのような放牧牧場は、牛舎を建設しないといけないので、規模拡大に限りがある。ただ、放牧酪農は生産性も高く、餌代も比較的かからないほうだ。専門的な話になってしまうが、効率よく牧草も使える」
最後に、国にどのようなことをサポートしてほしいか聞かれた浅野氏は「どんな形であれ予算がつくことを求めている」と回答。
「例えば、餌代は昨年値段が上がった分に対して補助が出る形になっている。去年はそれでなんとかなったが、今年は去年と同じように高止まりしている状態だ。今の補助の仕組みでは、去年と同じなら価格上昇分の補填はない。経営が成り立たない値段になっているので、そこを何とかしてほしいと今お願いしているところだ」
(「ABEMA Prime」より)
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