産まれてすぐ医療が必要な赤ちゃんが、どんな環境でどんな治療を受けているのかをリアルに描いたゲームが現場の医師によって開発された。なぜ医師がゲーム開発に取り組んだのか、その背景を聞いた。
新生児集中治療室(NICU)を舞台にしたゲーム『はじめてのNICU』。開発者であり、NICUに17年間勤めている信州大学付属病院の三代澤幸秀医師は、背景を述べた。
「医療だけではどうにもならない問題が少なからずある。具体的には、社会的に困難な状況にある妊産婦のケアとハンディーを持って退院する“医療的ケア児”。そういった子どもの支援をしなきゃいけないと思うようになった」
ゲームでは、出生時に治療で命を救われた経験がある女子高校生が、社会科見学で病院を訪問。医師や看護師らと触れ合いながら、新生児医療に関する設備や治療の様子などを学んでいく。
「昔は障害が残った子どもがすくすく元気になって退院できるようになった。また、以前の医療では助からなかった子どもが最新医療の力を借りて助かるようになった。それ自体は喜ばしいことだと思うが、どうしてもその過程で重い障害を持つ方はいる。大いに葛藤がある部分もあるが、そういう子どもや家族を支援していくことが私たちの使命だと思っている」
NICUに長期入院した後も、引き続き人工呼吸器や経管栄養などのケアが必要な医療的ケア児。医学の進歩とともに増加傾向にあり、厚生労働省による「在宅の医療ケア児の推計値」では2万180人(2021年)となっている。
このゲームでは、NICUの基礎知識だけでなく、当事者の母親が抱える不安なども描かれている。
「不安もさまざまで、例えば病院から家に帰るというステージや、ある程度生活が軌道に乗っても保育園・幼稚園・学校はどうするのかといった問題も出てくる。父親・母親が歳をとってくると、その後の子どもや就労の心配もあるかもしれない。本当にさまざまな場面で不安・悩みはあると思うので、我々はできるだけ寄り添って何かしら役に立つ情報を提供するとか、人のつながりを作ることが大事なのかなと」
医療的ケア児が成長する過程で直面する、医療だけでは解決できない問題。退院後に必要となる医療と行政、福祉などさまざまな職種との連携の重要性を今後も伝えていきたいと三代澤医師は話す。
「見えなかったがゆえにわかりにくかった現場における一人の子ども・家族の支援をゲームで表現できたら学びやすいかと」
医師が開発したこのゲームについて、精神科医・木村好珠氏は次のように述べた。
「五感の中でも視覚情報は頭に入りやすいし、ゲームとなると老若男女・みんな導入しやすい。病院の中というのは知ることができない場所。ここだけでなく、学校・医学部・看護学部などあらゆるところでこのゲームを使って欲しい」
NICU等に入院した後も引き続き、医療的ケアが日常的に必要な医療的ケア児。家族は不安で心配な日々を抱えていると思うが、医療的ケア児を抱える家族のケアはどうしていけばいいのか。
「出産の喜びからいきなり大きな不安を抱えてしまうと思うが、注意して欲しいことが3つある。まず、自分のせいだと思い過ぎてしまうこと。そして、全部自分でやろうとしてしまうこと。最後に、過度の心配によって家の中にこもってしまうこと。今は、国や地方自治体が医療的ケア児を支援する“医療的ケア児支援法”という法律があるので、お母さんは1人で抱え込まず、ぜひ利用していただきたいと思う」
(『ABEMAヒルズ』より)