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 WBOアジアパシフィック・バンタム級王者の西田凌佑(六島)が4月1日、エディオンアリーナ大阪第2競技場で開催される「3150FIGHT SUVIVAL vol.4~トリプルタイトルマッチ~」のメインイベントでソンセン・ポーヤム(タイ)と3度目の防衛戦を行う。西田にとっては話題のバンタム級で世界に近づく大きなステップとなる一戦だ。

「今回はABEMAで放送されるので、今まで見てくれなかった人も見てくれると思う。世界ランカーはこういう試合をするんだというところを見せたい」。

 そう語る26歳の西田はデビューから6戦全勝無敗。3戦目で世界挑戦経験のある元日本王者の大森将平を、4戦目で連続KO勝利の日本記録を持つ元世界王者の比嘉大吾(志成)を下して出世をはたし、世界ランキングも手に入れた。ただし、その実力は玄人筋に認められているとはいえ、まだまだ西田を知らない人も多いだろう。だからこそ今回の試合は「西田ここにあり」をアピールする絶好のチャンス。それが王者のモチベーションを高めているのだ。

 ところがその気持ちが裏目に出たのが今年1月のことだった。「3150FIGHT」という舞台が見えてきたところで、「魅せる試合をしなければいけない」とスイッチが入った。その結果、スパーリングでは「相手をなぎ倒したい」と力が入り、以前に比べて被弾が増えてしまった。

 もともと西田のボクシングはパワーパンチをブンブンと振り回すのではなく、ジャブを軸に相手と距離を取り、クレバーに戦ってポイントを積み重ねるスタイルだ。断じて倒し屋ではなく、スマートな技巧派サウスポーなのである。

「本来のもらわずに当てる、距離感を大事にするボクシングを思い出し、その中でいいのが当たったらラッシュするという意識を1カ月くらい前から徹底しました。そうしたらスパーリングの内容も良くなった。今は自信があります」

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 奈良の名門、王子工高で国体優勝をはたして近畿大学に進学。ところが期待とは裏腹に大学では結果が出ず、プロはあきらめて大手パンメーカーに就職した。会社員として人生をまっとうするはずだったが、大学で同期の峯佑輔がプロのリングに上がる姿を目の当たりにして心に火がついた。会社は8カ月で辞めた。再びグローブを握り、アマチュアの社会人大会に出ようとしたところ、武市晃輔トレーナーが「社会人でやる意味ないやろ」とプロテストに申し込み、あれよあれよとプロ入りが決まった。

「もともと辰吉丈一郎さん、長谷川穂積さん、山中慎介さんが好きで、プロへのあこがれはあったんです。ただ、踏み出すことができませんでした。言い方は悪いですけど武市トレーナーが強引にというか、背中を押してくれたから自分はプロになれたと思っています」

 こうして2019年10月にプロデビューし、大森や比嘉を下してボクシングファンを驚かせたのは前述の通りだ。ただ、このときは世界ランキングに入っても自分が世界戦の舞台に立つことをなかなかイメージできなかった。あれから2年が経ち、さまざまな経験を積み、目線はしっかりと上を向いた。

「去年、元3階級制覇王者の田中恒成さん、今年に入って世界挑戦経験のある石田匠さんとスパーリングをさせてもらい、世界のレベルを実感することができました。この試合に勝って、次は日本チャンピオンとの王座統一戦とか、世界タイトルの挑戦者決定戦とか、自分が挑戦する試合をできればと思っています」

 身長170センチとこの階級では長身サウスポーの西田は今、左ストレートを磨いている。もともと前の手である右がいいだけに、左につなぐことができれば、少なかったノックアウト勝利が一気に増える可能性がある。

 挑戦者のソンセンは日本で3敗しているものの、昨年11月の比嘉戦では強打を浴びながらもフルランド戦い抜き、タフでパワーのあるところを見せた。西田にとっては「タイミングがつかめてきた」という左を試すのに格好の相手であり、「スタミナを使い切る」というテーマも実現して、ぜひともソンセンを仕留めたいところだろう。

 プライベートの充実もモチベーションを高めている。妻の河野沙捺さんと交際を始めて7年目にあたる3月10日に入籍。6月には結婚式を予定している。沙捺さんは全日本選手権3連覇の元アマチュアボクサーで東京オリンピック出場の夢が破れて引退した。現在は食事面を含めて全面的に西田をサポートしてくれている。「結婚して負けられない気持ちが強くなった」という思いも熱いファイトを支えるに違いない。

 バンタム級は今年に入って4団体統一王者の“モンスター”井上尚弥(大橋)がすべてのタイトルを返上し、さながら戦国時代の様相を呈している。井上の弟拓真が4月8日にWBA王座決定戦に出場。日本王者の堤聖也(角海老宝石)、東洋太平洋王者の栗原慶太(一力)といった世界ランカーも虎視眈々と世界を狙っており、西田もうかうかしてはいられないのだ。こうした熾烈な争いに西田が割って入れるのか。4月1日の「3150FIGHT」が夢の舞台に向けた試金石となる。 

【視聴詳細】3150FIGHT SURVIVAL vol.4 | 新しい未来のテレビ | ABEMA
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