4月15日に原子力発電所の稼働を停止し、脱原発が完了する見通しのドイツ。ロシアのウクライナ侵攻などで燃料費などが高騰する中、フランスとの見解の相違が浮き彫りになっている。
【映像】えぐい…! ドイツ、電気代が2倍になった一般家庭(画像あり)
EU内で割れる意見は今後のエネルギー政策にどのような影響を与えるのだろうか。ニュース番組「ABEMA Prime」では専門家と共に議論を行った。
ドイツ国民は現状をどう受け止めているのか。
ミュンヘン在住でドイツやヨーロッパの社会経済などを取材するジャーナリストの熊谷徹氏は「ドイツに住んで33年だが、これほど大幅な値上げが通告されたことは一度もなかった」と驚く。
「去年10月にミュンヘンの地元の電力会社が、2023年1月1日から電力料金がこれまでの2倍になる通告を顧客に送った。『もう払えなくなるんじゃないか』という市民の不安感は非常に強かった。その後、天然ガスの値段が下がり、それに連動して電力料金も下がり始めた。日本でもやっているが、ドイツでもやはり政府が激変緩和措置を出して、市民の負担が60%ぐらいの値上がりでとどまるよう補助金が出された」
去年2月、欧州委員会は、原発と天然ガスを「グリーンな経済活動・投資分類」に加える案を発表したが、ドイツやイタリアなど数カ国が反対し、結論には至らなかった。一方で、賛成派のフランスは「原発への投資拡大」や「原発活用による温暖化ガス排出削減」を方針として掲げている。
熊谷氏は「EUタクソノミーでは『原子力は気候変動の抑制に貢献する』として、欧州委員会の提案は法律法令案として施行されている。ドイツがいくら反対しても、原子力はグリーンなエネルギーという定義になっている」と説明。
「欧州連合では、どのエネルギーを使うか各国の政府に一応任されている。ドイツ、イタリア、ルクセンブルク、オーストリアは今後原子力をやめるか、もうやめた国だ。これらの国は少数派で、残りの国は二酸化炭素の量を減らすために再生可能エネルギーと原子力、この2つの比率を高める政策をとっている。例えばポーランドは、今のところ原子炉が一つもないが、2030年代に新しい原発を作る予定だ。ベルギーは2025年に今ある原子炉をすべて止める予定だったが、ロシアのウクライナ侵攻が始まって政策を変え、10年運転を延長すると決めた」
熊谷氏によると「再生可能エネルギーの発電コストは下がる傾向にある」という。
「石炭、天然ガス、化石燃料は今後CO2対策を取らなくちゃいけないから、費用がだんだん上がっていく。一方で、陸上風力や太陽光の発電費用は現在から2030年にかけて減っていく。特にヨーロッパでは再生可能エネルギーの発電コストが今どんどん下がっている。機関投資家もやはり再生可能エネルギーには投資をする。例えばドイツでRWEという大手の電力会社がある。昔は褐炭の火力発電、それから原子力が中心だったが、2019年から完全に経営戦略を変えて、再生可能エネルギー中心の電力会社になった。電力市場も変わってきている」
ドイツ政府は、反原発や車のエンジンについてどのように考えているのか。
「原子力発電をやめることに、ほとんどの政党の意見が一致している。極右政党の『ドイツのための選択肢』だけ『原子力を続けたい』と言っている。実は、環境問題はドイツで非常に“票”になる。特に気候保護だ。二酸化炭素を減らして気候変動に歯止めをかけないと、40年後、50年後、自分の子どもや孫が住みにくい世界になる。選挙戦で二酸化炭素の問題を重視しない政党は得票率が下がってしまう。ドイツは『2030年には再生可能エネルギーをほぼ100%にする』という目標を法律に明記している。有権者も気候変動に歯止めをかけてほしいと思っている」
注目されているのが、自動車政策の転換だ。EUは2035年までにエンジン車の新車販売を事実上禁止する法案を既に承認していたが、ドイツのフォルクスワーゲン社などの反発を受け、先月、突如として条件付きでエンジン車の新車販売を認める方針を示した。
日本でも動きがあった。EUの規制緩和策について、トヨタの佐藤恒治新社長は「合成燃料にも課題はあり、すぐにものになるわけではない。ただ選択肢として認知が高まったというのは、非常にいいことだ」とコメント。新経営体制と、新しい10車種の電気自動車を発表している。
ネット掲示板「2ちゃんねる」創設者のひろゆき氏は「2035年までにガソリン車を全部なくすのは無理だ」とコメント。
「都市部のパリであれば市が金を持っているから電気充電スタンドをバンバン作れるが、フランスの田舎村や町にそんなインフラはない。ガソリンでやるしかない。ただ、表向きには気候変動や二酸化炭素の問題があるから、言えない。EUはルールを変える中で『ハイブリット車もダメにしよう』と言ったが、無理だった。結局、2030年になったら『ガソリン車もそのまま残しましょう』になるんじゃないか」
ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「電気の最大の問題は貯められないことだ」と指摘。
「蓄電池があっても、大量の電気を長期的に貯めておくことはできない。これがガソリンや他の燃料との違いだ。トヨタの豊田章男前社長(現会長)も言っていたが、今の状態で全部をEVにすると、絶対的に電力が足りなくなる。この状況でどうやって電力を増やすのか。再生可能エネルギーが大量に増やせないから、結局『じゃあ原発を作るか』となる。話としては逆効果だ。その中で合成燃料のe-fuelは、現状で一番脱炭素対策にいい。長期的にEV化は進むと思うが、中継ぎとして合成燃料は間違いなくアリだ。ワンクッションを置いてやっていけばいいのに、EUの進め方は政治的すぎると思う」
ひろゆき氏は「合成燃料は莫大な電力が必要なので、現実的ではない」と話す。
「合成燃料を使えるからハイブリッド車もエコとして売られるが、実態としては高すぎる合成燃料を使う人はほとんどいないのではないか。だから、今まで通りガソリンを使うことになる。人が街で乗るならEVは可能かもしれないが、山の中の建設機械は電気自動車では無理だ。電気がないところで、ショベルカーをどうやって動かすのか、誰も答えがない。結局ガソリンは残ることになる」
(「ABEMA Prime」より)
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