マンチェスター・Cに所属するノルウェーの“怪物”が偉大な記録を打ち立てた。
マンチェスター・Cのノルウェー代表FWアーリング・ハーランド(22歳)が、今月3日に行われたプレミアリーグのウェストハム戦でゴールネットを揺らして3-0の勝利に貢献した。後半25分、MFジャック・グリーリッシュのパスでDFラインの背後に抜け出したハーランドは、飛び出してきたGKの頭上を抜くチップシュートでチームの2点目をマーク。これでハーランドは今季プレミアリーグで「35ゴール目」。世界最高リーグと呼ばれるプレミアリーグの「1シーズンの最多ゴール記録」を更新したのだ!
ちなみに、このゴールは2016年にマンチェスター・Cの監督の就任したジョゼップ・グアルディオラ監督体制における通算999ゴール目。残り5分のところでMFフィル・フォーデン(22歳)がボックス外からボレーシュートを決めてペップ体制での「1000ゴール」を達成した。そしてチームは首位に再浮上し、プレミアリーグ3連覇に向けてまた一歩前進したのである。
それでは、ペップのマンチェスター・Cを“完成形”へ導きつつあるハーランドの記録を深掘りしていこう。
[写真]=Getty Images
■コールとシアラー
今季ハーランドはプレミアリーグで31試合に出場して35ゴール。これは1992年に発足されたプレミアリーグの歴史において1シーズンの最多ゴール記録となった。これまでの記録は1993-94シーズンのアンディ・コールと1994-95シーズンのアラン・シアラーによる「34ゴール」。
当時のプレミアリーグはどちらも22チームが所属する「シーズン42試合制(今は38試合)」だった。そのためニューカッスルに所属していたコールは、リーグ戦40試合に出場して34ゴールの記録を打ち立てた。アーセナルでプロキャリアをスタートさせたコールは、出番が限られたために移籍を選択。ブリストル・シティを経て1993年2月にニューカッスルに加入すると即座に大活躍。12試合で12ゴールを叩き出すと、翌シーズンに偉大な記録を打ち立てるのだった。
93-94シーズンはリヴァプール戦でハットトリックを達成するなど自慢のスピードと決定力を活かしてゴールを量産。29年後にハーランドに抜かれるまで誰にも破られなかった「34ゴール」というプレミアリーグ記録を打ち立てたのである。コールは40試合に出場して34ゴールを叩き出しただけでなく、リーグ最多の13アシストもマーク。当時は“プレイメーカー・オブ・ザ・シーズン(最多アシスト賞)”がなかったが、あれば同賞も受賞していたことになる。そして興味深いことに、当時のコールは今のハーランドと同じ22歳だった!
ちなみにニューカッスルはコールの活躍も空しく3位どまり。そしてコールも1995年1月にマンチェスター・Uに引き抜かれ、マンチェスター・Uで1998-99シーズンにトレブル(三冠)を達成するなど、計5度のリーグ優勝を経験するのだった。
翌1994-95シーズンには当時ブラックバーンに所属していたアラン・シアラーがコールの記録に並んで見せた。シアラーはFWクリス・サットンと強力な2トップを形成。シアラー&サットンで「SAS」と名付けられたコンビは二人だけで驚異の49ゴールをマーク。シアラーは全42試合に出場して34ゴールを叩き出して得点王に輝き、コールに肩を並べたのだ。
チームも抜群の攻撃力でマンチェスター・Uとの優勝争いに競り勝って81年ぶりにリーグ制覇を達成した。シアラーは、ブラックバーンで3シーズン連続30ゴール以上など圧倒的な決定力を見せつけたあと1996年に移籍。マンチェスター・Uからラブコールを送られるも、自身の故郷であるニューカッスルへの移籍を選択した。その後もゴールを積み上げたシアラーは、プレミアリーグ通算260ゴールという歴代最多記録を打ち立てるのだった。
プレミアリーグでは、その後も数々の名ストライカーがこの記録に挑戦してきた。マイケル・オーウェン、ティエリ・アンリ、ルート・ファン・ニステルローイ、ディディエ・ドログバ、クリスティアーノ・ロナウド、ロビン・ファン・ペルシー、セルヒオ・アグエロ、ハリー・ケイン、モハメド・サラーなど。だが、彼らは誰一人として記録を破ることができなかった。そんな偉大な記録を、ハーランドはプレミア初挑戦であっさりと塗り替えたのである。
それどころか、コールとシアラーは40試合以上に出場して34ゴールを奪ったのに対し、ハーランドは31試合で35ゴールを稼いでおり、まだ5試合も残されているのだ。そう考えるとノルウェーの怪物の記録は凄すぎる…。
■公式戦51ゴール
プレミアリーグ以前を含めると、イングランドのトップリーグにおける1シーズンの最多ゴール記録はエヴァートンのディキシー・ディーンが1927-28シーズンに打ち立てた「60ゴール」だ。ディーンは39試合で60ゴールという驚異の記録を打ち立てたのである。ハーランドはまだ5試合残っているとはいえ、さすがに5試合で25ゴールも決めることはできないので、ディーンの記録には追いつけないだろう。
そもそも、この記録は永遠に破られることはないと考えられてきた。「いつか記録は破られると思う。しかし、それが可能なのは一人だけ。水の上を歩ける男ならば可能なはずだ!」とディーン本人も冗談を飛ばしたことがあるという。しかし、ハーランドの登場で来シーズン以降、ディーンの記録が脅かされる可能性がある。
それどころか、今シーズンのうちにディーンの“もう1つの記録”を更新する可能性がでてきたのだ。ハーランドは今季ここまで公式戦51ゴール(プレミア35、チャンピオンズリーグ12、FA杯3、リーグ杯1)。3月の時点でクラブの1シーズン最多ゴール記録を抜き去ると、4月には「プレミアリーグ選手による1シーズン公式戦最多ゴール」の記録も更新。
そして「51ゴール」までたどり着いたハーランドには、イングランドトップリーグに所属する選手による「1シーズンの公式戦最多ゴール記録」の更新が期待されている。その記録を持つのが1927-28シーズンのディキシー・ディーンなのである。ディーンはリーグ戦60ゴールのほかにカップ戦で3ゴールを決めており、公式戦41試合で「63ゴール」を叩き出した。ハーランドが目指すのは、この数字だ。
今季マンチェスター・CはFAカップで決勝、チャンピオンズリーグ(CL)で準決勝に勝ち上がっており3冠へ邁進している。そのため残るゲーム数は、リーグ戦5試合に加え、FAカップで1試合、そしてCLでは最低でも2試合ある。少なくとも計8試合が確保されており、その間に12ゴールを奪えば偉大な記録に並ぶことができるのだ。決して、非現実的な数字ではない。
ウェストハム戦の試合後に英国放送局『スカイスポーツ』で記録について聞かれたハーランドは「意識してない」と答えた。「次の試合でも勝ち点3を獲ることだけを考える。記録について考えだしたら頭がおかしくなるからね。だから意識しない」と説明したうえで「家に帰って、少しゲームをして、何かつまんでから寝るだけさ。そして明日から次の試合のことを考える。それが僕の生活なんだ」と残りの試合でも普段通りにプレーすることを宣言した。
果たしてハーランドはプレミアリーグのゴール記録をどこまで伸ばすのか? そして95年も破られていないディキシー・ディーンの記録を更新することができるのか? 今後もアーリング・ハーランドから目が離せない!
(記事/Footmedia)