世界的にも教育レベルが高いと評価される日本。文字を理解し読み書きができる人の割合を示す識字率も99%以上とされ、世界トップクラスだ。
しかし、日本で全国規模の調査が行われたのは戦後すぐの1948年で、その後75年も行われていない。現在の識字率の根拠となっているのは、99.96%という義務教育への就学率だという。
実態はどうなのか、実際に読み書きができないと生活にどのような影響を与えるのか。4日の『ABEMA Prime』で専門家、当事者とともに考えた。
病気で入退院を繰り返し、学校に行けず読み書きが苦手になったという、岡山市の夜間中学に通う井上健司さん。漢字の読み書きレベルは小学5年生程度、日常生活で困ることについて次のように話す。
「バスや電車に乗る時に漢字が読めず行き先がわからないという不安がある。聞こうと思っても、恥ずかしさでなかなか踏み出せない。携帯電話を契約する時にわからないことがあって、店員さんの言うとおりに『はい、はい』と答えていたら、(オプションが)いっぱいついて値段が高くなっていた。損をすることがよくある」
井上さんに読み書きを教えている、「岡山に夜間中学校をつくる会」理事長の城之内庸仁氏は「井上さんは言われたことをかなり理解できるが、書くこと・読むことになると極端にできなくなる。生活はできるけれども、携帯電話や電気製品の説明書が読めないので十分に機能が使えない。それを勉強で教えるとかなり時間がかかるのが実情だ」と説明。
読み書きができない人の障壁として、できないことを恥ずかしがってしまうことがあると指摘する。
「昼間と夜間中学の両方を経験しているが、正直書く力・読む力はかなり低いと思う。また小学校・中学校の段階でもそうだが、大人になるほどできないことを隠してしまうので、それで見えにくくなっている部分もある」
夜間学校などで識字率調査をしている国立国語研究所准教授の野山広氏は「岡山の自主夜間中学や、香川県三豊の夜間中学で調査をして、漢字の読み書きでいうと『書く』行為ができない人がかなりいることがわかった。岡山のほうはいろいろな層の人が通っているのだが、香川のほうは最後の門を叩く感じなので、調査結果は後者のほうが芳しくなかった」と話す。
一方で、全国調査の意義として、識字率が下がったという結果を悲観するために行うものではないと指摘する。
「外国人の方が200万人くらい、最終学歴が小学校卒業あるいは義務教育未就学という人が計90万人くらいいることが国勢調査でわかった。おそらくそれ以上の人が文字の読み書きで困っていることもほぼわかっている。今まで99%と捉えていたものが、いきなり95%、90%となったらショックを受ける人たちはいるだろう。その結果を受けて、“外国人をたくさん入れるべきではない”と。あるいは、障害のある人や読み書きができない人がたくさんいることがわかったら、“ちゃんと勉強したほうがいい”という方向に行く可能性がある。そうではなくて、識字が低い国がそうであるように、日本も読み書きが十分できなくても免許を取れたり、選挙ができたりという体制を整備していくことを考えたほうがいい。そうすれば井上さんのような方も苦労せずに生活ができる可能性が広がる。多様性を認める寛容な社会に転換していくためにも、一資料としての識字調査は必要だと思う」
EXITの兼近大樹は「僕も書くほうは得意ではなくて、サインで『ここに名前書いてください』と言われても難しい。“書けないというボケ”に思われるから、りんたろー。さんに全部書いてもらっている。みんな一緒に育っているから当たり前じゃないことが許されない風潮があって、特に僕は表に出る人なので、しゃべればしゃべるほど“絶対にそんなことない”と。あとは“頑張れよ”と言われてしまうというか、“できるでしょ。だって、みんな学校に行ってなかった?”という話になり、こっちも“できるけどね”と応じてしまう」と明かした。
作家・ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「インターネットは、まさにテキストの文化だ。ありとあらゆるものに音声がなく、文章を書く・読むことが求められているところを考えると、識字ができない人たちが落ちこぼれていく問題はたしかに生じている」とした上で、「貧困が原因でそもそも学習意欲を持てないというケースにおいて、無理やり“学べばいいじゃん”と言うのは抑圧になる。それこそ音声AIなどを進化させて、会話だけで何でもやっていけるようにするとか、テクノロジーで支えていくのも大事だと思う」との見方を示した。
(『ABEMA Prime』より)
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