20代後半のサイトウさん。まもなく還暦を迎える父親(59)が起こした衝撃的な出来事を語る。
「自分の自転車に被さるように、別の人のが止められているのを見て、父がぽつり『邪魔だな』と。そうしたら顔色が変わったように自転車を持ち上げて、ガードレールの向こう側に放り投げようとした。羽交い締めのようなかたちで止めて、本当に抑えが効かなくなっている状態だった」
これまで父の暴力的な面は見たことがなかったというサイトウさん。「親として気を使っている部分はあったかもしれないが、そういう一面を見せたことが僕の中では衝撃だった」と明かす。
さまざまな理由でキレやすくなっているという現代の中高年。世代間の分断や差別、エイジズムを助長しかねない現状をどうすべきなのか。『ABEMA Prime』ではサイトウさんにさらに話を聞くとともに、専門家も交え考えた。
サイトウさんの父親は、叔父(父の弟)と大喧嘩をするようになり「縁を切る」と言い出す、「怒りが抑えられない」と言うようになる、などの行為が見られるようになったという。
「最近は『自分でも制御ができない』とポツポツ言うようになってきた。こちらから見て『それは怒るよな』というものはわかるが、最近は『そこでそんなことで?』というところで怒る。スイッチの入る場所・沸点が息子から見てもよくわからなくなっている」(サイトウさん)
周囲に気を配り、交友関係も広かった父親が激変――。要因として考えられることはあるのか。
「父が大学時代の友達と電話をしている時に、いきなり怒り出した。その後、『俺はこいつらの言っていることがわからないから、関わりたくないんだ』と。友達との繋がりは断つものではないと思うが、息子にすらそういう姿を見せるというのは、自分の殻に閉じこもろうとしているかなと強く感じた」(同)
これまで中高年がキレやすくなる原因の1つとして、感情コントロールに重要な前頭葉が老化することと言われてきた。精神科医の和田秀樹氏は「気を遣うし適応的だし、真面目な方だと思うが、自分から見た枠組み、正義感が少しずつずれてきてしまっているのではないか。怒り出した時、脳の中の前頭葉がブレーキをかけることになっているが、早い人だと40代からその機能が落ちてくるとされている。“キレる高齢者”とよく言われるが、四六時中怒っているわけではなく、ブレーキがかからないということが起こっているのかもしれない」との見方を示す。
また、早稲田メンタルクリニックの精神科医・益田裕介氏は、キレやすくなる原因の1つとして、中高年特有の妄想性障害「遅発パラフレニー」を指摘する。隣人が悪口を言っている、上のフロアがうるさい、など妄想によって文句や怒りが爆発。当然周りは理由が理解できず、やたらとキレると思われてしまう。
一方で、和田氏は「怒ってはいけないとは言っていない」とも指摘する。「怒りを我慢して抑えすぎると、胃潰瘍やうつ病など、いわゆる心身症の元になる。暴言を吐いたり手を出したりという言動にしないことと、怒りに任せた判断をしないこと。その2つさえしなければ怒ってもいい。そして、自分の怒りが正しいと判断していても間違っていることがあるので、そのチェックをすることが大事だ」。
では、サイトウさんは父親とどう向き合ったらいいのだろうか。「そこが難しいところ。確かに『これは間違っているよ』と言った時に、自分にとっての正義に反するものは全部許せないと、火に油を注いでしまう危険がある。逆に機嫌が良い時はとても良くて、“年寄りを立てろ”というのは先人の知恵だ。お年寄りは地雷さえ踏まなければいつもニコニコしているが、そこでうっかりバカにしたような発言をしてしまうと怒りが止まりにくくなる」と述べた。
最後に、和田氏は家族の負担にも目を向ける。「家族が気を遣いすぎてストレスになってしまったり、それがもとで鬱になってしまったりしては元も子もない。“自分としてこのぐらいまでは妥協できる”という範囲を決めておいたほうがいいと思う」。(『ABEMA Prime』より)
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