「若年人口が急減する2030年代に入るまでが、少子化傾向を反転できるかどうかのラストチャンスだ」(岸田総理)
13日夜の会見でこう述べた岸田総理。政府は「こども未来戦略方針」を閣議決定し、児童手当の所得制限を撤廃し、対象を「高校生まで」に拡大することなどが盛り込まれた。財源については、2028年度までは「こども特例公債」として国債を発行するとしたが、「詳細は年末に結論を出す」として、具体的な金額や方法は示されなかった。
「異次元の少子化対策」に関する会見で、岸田総理は何を語ったのか、また、ポイントはどこだったのか。テレビ朝日政治部の澤井尚子記者に聞いた。
Q.今回の会見の要点は?
「2030年までに少子化トレンドを反転できなければ、もう人口減少を食い止められず、持続的な経済成長は困難になる」「2030年までがラストチャンスだ」と、総理は繰り返し強調した。若者や子育て世代の所得を伸ばすことが重要だとはしているが、正直その具体策は見えない。
一方で、まず来年度から3年間の少子化対策「加速化プラン」を打ち出した。予算については、3.5兆円ほどの予算を追加して、今の子ども家庭庁の予算を1.5倍にする。予算倍増については、2030年代初頭に目指すとしている。
政策の中身として、目玉としているのは以下のとおり。
●「児童手当」の拡充(2024年10月から)
(1)所得制限を完全撤廃し、一律1万円に(年収960万円以上の5000円への減額もなくす)
(2)支給年齢を18歳まで引き上げ
(3)多子世帯、3人目以上のこどもへの支給額を1.5万円→3万円に倍増
●出産費用の保険適用の導入 2026年度をめどに
●育児休暇の充実 特に男性育休「産後パパ育休」の取得促進(両親で育児休暇を取れば、給付率をあげることで“手取りが減らない仕組み”の導入)
●こども誰でも通園制度(仮称) 両親が就労していなくても(専業主婦であっても)、時間単位で柔軟に保育園に入れることができる(無園児問題=子どもの孤独、就学前の準備の意味合いも)
Q.たびたび耳にする「“異次元”の少子化対策」だが、そもそもどこが“異次元”?
総理が年始に伊勢神宮の会見で、突如として「異次元の少子化対策に挑戦する」と言い出した。実際に取り組む事務方を取材しても、「なんで総理は突然、“異次元”だなんて言ってしまったんだろう」と言っている。
今日決定された戦略方針の中にも「次元の異なる少子化対策」という言葉は何度か出てくる。政府としては、(1)構造的な賃上げと児童手当の拡充などの経済的な支援で若い世代の所得を増やしつつ、(2)社会の意識や構造を変えて、(3)すべての子どもをライフステージに応じて切れ目なく支援する、ということが異次元だとしている。
Q.必ずあがる「財源」についての批判だが、会見で方向性は見えた?
岸田総理は「先送りではない」と言っているが、選挙を意識したのか、政治の力によって書き込まれなかったという印象は拭えない。
財源として肝になってくるのが、新たな「支援金制度」。“社会経済の参加者が連帯して公平な立場で広く負担する”と文書に書かれているが、要は、労使折半の社会保険料の仕組みを使って、年間で1人当たり数千円、月で500円程度、別途負担してもらうことを想定しているようだ。今回閣議決定した戦略方針には「年末に結論を出す」とのみ書かれている。
さらに、これを「実質的な負担がない形」としているので、今の高齢化社会で増大していく医療や介護の保険料を抑えるということを示している。ただ、社会保障費の伸びを抑制するということは、薬価や医療費削減ということなので、医療界からは反発の声が根強く、年末までに調整できるかは不透明だ。
Q.今月はじめに発表された素案に対する、「16〜18歳の子どもがいる家庭は『扶養控除』がなくなり、“実質的負担増”になるのでは?」といった懸念の声は解消された?
解消されていない。備考欄には「扶養控除との関係をどう考えるか整理する」とのみ記載されていて、要は扶養控除の縮小を示唆している言葉。中学生以下のこれまでも児童手当をもらってきた年代は扶養控除がなかったので、高校生だけがある意味「二重取り」になるのは制度としておかしいのではないか、ということだ。ただ、大きい反発が起きていることは政府もわかっているので、どういう解決があるのかというのが年末に向けてのポイントだ。
Q.そもそも、“現役の子育て世代”の意見に総理はどのように耳を傾けている?
最後の「こども未来戦略会議」が開かれて、今回の方針が決定した。そこにはフリーアナウンサーの中野美奈子さんなど子育て当事者も出席しているが、毎回1時間程度で参加者も多いので、一方的にしゃべって終わるようなかたちでもある。
総理は、少子化対策や、子育て政策の先進都市を視察し、車座対話などで当事者との意見交換は熱心にしている。今回まとめた戦略方針の中でも「社会の冷たさ」を指摘。諸外国と比べても、混雑した場所に子どもを連れていくことや、電車内でのベビーカー問題、公園での子どもの遊ぶ声への苦情など「育てにくさ」があることや、子育てと「両立しにくい職場環境」があると指摘して、そういう環境を変えるとしている。
そこで、いくつか社会の構造や意識を変える取り組みとして、「ファストトラック」と呼ばれる、子連れの方の優先案内や専門レーンを設置する取り組みを始めている。国立博物館や公共施設や民間施設で広げるプロジェクトがある。
Q.今回の会見から、「異次元の少子化対策」はどうなっていくと感じる?
なんとしないといけない、という意気込みは感じるが、少子化対策と言うわりには、子育て政策の色合いが濃いという印象。例えば、目玉となった児童手当の拡充で本当に少子化が止まるのか、いわゆる出産意欲につながるのかは疑問もある。政策の効果については今後検証すると書かれているが、この3年間の効果がどのように出るかは見ていかないといけない。
(ABEMA『アベマ倍速ニュース』より)