6月10日にZOZOマリンスタジアムで行われた千葉ロッテマリーンズ対広島カープの一戦で、開幕から続いていた21試合連続無失点記録が途絶えたロッテ・西村天裕。しかし西村は既にロッテ投手陣にはなくてはならない存在となっており、今後も起用法などに変更はない見通しだ。
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3-2、ロッテ1点のリードで迎えたこの試合の7回表、3番手として登板した西村は、この回先頭の8番・田中広輔をストレート2球で簡単にライトフライに打ち取ったものの、続く代打・坂倉将吾には、カウント1-2と追い込むも、外角のスプリットをレフト前へと弾き返されて1死一塁に。さらに1番・菊池涼介に対しても、2球で0-2と追い込みながらセンター前へと弾き返され、1死一、二塁のピンチに。そして、2番・西川龍馬、3番・秋山翔吾の連続タイムリーで2失点。3-4と逆転を許すこととなってしまった。これにより、連続無失点記録も21試合で途絶えることとなったが、指揮官である吉井理人監督は、追い込みながらも、甘い球を痛打されたことがキッカケで崩れたことに「ああいうところをまたしっかり修正してほしいなと思っています。」と指摘しながらも、「これまでずっと頑張ってくれたんで。ピッチャーを長くやっていると、こういう日もあるんでね。」と、打たれた西村を責めることはなかった。
もともと西村は、今年3月に、日本ハムからのトレードでロッテ入りを果たしているが、その際、吉井監督は、西村の状態とポテンシャルを正確に見定め、今季、西村が武器としている力強いストレートに、さらなる磨きをかけるように指導したという。そして、その指導を元に西村は“自分磨き”に励み、結果、開幕後から現在に至るまで、リリーフで“無双”状態となっていたというわけだ。日本ハムでプレーした昨季までの5年間で、122試合に登板しながらも、3勝2敗1セーブ12ホールド、166奪三振、防御率4.01であったことを思えば、明らかに吉井監督が、西村の能力を“覚醒”させた、あるいは、西村の「あるべき姿」へと“再生”したといえるだろう。
そんな吉井監督といえば、MLBから今季3年ぶりにロッテへと復帰した澤村拓一も、復帰への決定打となったのは、今季から吉井監督が指揮官となったことだったという。澤村は入団会見の際に、読売ジャイアンツからシーズン途中でトレード加入した2020年のことを振り返る形で、当時コーチだった吉井監督について、「“こうしろ、あーしろ”と言われることは1回もなかった。ただ、“沢村は悪い時にこうなるから、気を付けろよ”ってそういう注意点を頂くだけでも大きかった。アメリカの野球を経験してる方なので。その苦労だったりいろいろな事を分かってくださるというのは精神的に大きいです。」と、澤村と同様、MLBでのプレー経験があるだけでなく、同じ「投手」として、その心理を知り尽くした者だからこそできるアドバイスや、コミュニケーションを行ってきたことが窺えるコメントをしていた。また、かつてのインタビューで澤村は、当時コーチだった吉井監督が、登板の際に「任せた」と言って送り出すこと、また、そうした起用ゆえのことなのか、「以前は大丈夫かな、とか自分を疑ってしまう時があったけど、今は一切ない。打者との勝負を楽しめています。」と、純粋に楽しみながら打者に向かっていることを明かしていた。実際、2020年の澤村を振り返ってみると、巨人在籍時は13試合(先発1)で1勝1敗1ホールド、防御率6.08と寂しい内容であったものの、シーズン終盤にロッテへと移籍した後は、22試合すべてのリリーフで登板し、0勝2敗1セーブ13ホールド、防御率1.71と、移籍前とは別人であるかのような投球でチームの貴重な戦力となっている。そうした意味では、澤村は吉井監督によって“再生”されたといえるだろう。
そんな吉井監督といえば、球団公式YouTubeチャンネル上に5月25日付で投稿された『マリーンズ自主練習日の吉井理人監督にカメラが密着【広報カメラ】』(https://www.youtube.com/watch?v=MWOoZLOQ9xY)という動画の中で、自主練習日に自らも筋トレに励む姿を披露。その際、カメラに向けて自身の逞しい上腕を見せながら、ロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平と自身を比較する形で、「(筋肉量が)これの3倍ぐらいあった。(自分はまだまだ)」「野球のパフォーマンスではもう絶対にかなわんので、身体だけでも。」とコメントしているが、こうした“ガチな現役感”で身体づくりを行いながらも、それを苦行のようにストイックに行うのではなく、楽しそうに取り組んでいる姿は、澤村の言うところに通じるものがあるし、彼らベテラン勢と、西村ら若手・中堅の選手らが一体となって醸しだしているチームの良い空気にも繋がっているように感じてならない。そうした意味で吉井監督は、“再生”&“覚醒”といった手腕だけでなく、こうした“数字に出難い部分”でも、チームに大きな影響を与えているといえるだろう。
なお、千葉ロッテでは、長らく野手出身の監督が続いており、吉井監督の前に投手出身の監督が指揮をとっていたのは、1996年の江尻亮監督が最後。吉井監督自身が、ヤクルト時代の恩師である故・野村克也氏のような“再生工場”であるかはともかく、投手出身の監督だからこそできる働きや魅力的なそのキャラクター、さらにそれが与えるチームへの好影響は、無論、他球団からしても、脅威ともいうべき貴重な戦力。監督からして「ガチな戦力」である千葉ロッテに、今後もますます目が離せなくなりそうな気配だ。