父のひき逃げ死亡の翌日から休まず厨房に立った息子「犯人に『さんざん苦しめられたぞ』と言いたい」 時効を迎えた遺族が語った苦しみの10年
【映像】経営する和食店の「目の前」の事故現場

 群馬県富岡市にある和食店「しば遼」。母の瀬下とし子さんと息子の大樹さんが2人で経営している。

【映像】経営する和食店の「目の前」の事故現場

「無我夢中でしたね」(とし子さん)
「ただがむしゃらにやったというだけ」(大樹さん)

 今から10年前、ここには2人にとって大切な大黒柱がいた。店の外へ出た親子が案内してくれたのは、目の前の道路。とし子さんの夫で和食店店主の瀬下光さん(当時64歳)は、この場所でひき逃げに遭い死亡した。お店の営業が終わった後の午後10時ごろ、県道を挟んで向かい側の自宅に帰るときに車にはねられたと見られている。

 実際に、瀬下さん宅の前に立ってみると、道路が少し曲がっており、見通しが悪くなっている。車にひかれた光さんを最初に発見した妻・とし子さんは「倒れていて、虫の息だった。『神様どうか助けてください』って心の中で拝んでいました」と振り返る。

 どういう犯人なのか、手がかりはなかったのか。大樹さんは「全然ない。当時、防犯カメラはあまり普及していなかったんで。衣服に車の塗料が付着していたらしいけど、(車の)色がはっきりわかるくらいじゃなかったので、結局わからずじまい」と悔しさを滲ませる。

 ひき逃げ事件は2013年5月に発生。犯人がわからぬまま10年が過ぎた。「最後は時効になっちゃいましたけど、なんとも言えなかったですね。ただただ苦しめられただけ」。

 2023年5月30日、自動車運転過失致死罪の時効10年を迎えた。とし子さんは「なんで時効があるの?って。悔しい。ずっとそれを心と背中に背負っていかなきゃならないのかな…」と心境を語る。

 今回取材を受けてくれた理由について、大樹さんは「取材を受けて少しでも犯人のところに届いてくれたらなって思って、毎回受けている。『さんざん苦しめられたぞ』って犯人に言いたい。家族全員が苦しんだ」、とし子さんも「苦しみは消えない」と答えた。

 夫婦の出会いは光さんが経営していた八百屋にとし子さんが買い物に訪れたことがきっかけ。結婚した後、和食店「しば遼」をオープンさせた。今年で創業20年目、お店の名前は司馬遼太郎が好きだった光さんがつけたという。

 光さんが亡くなった後、大樹さんが店を継ぎ、事件の翌日から休まず厨房に立ち続けた。

「親父から『仕事だけはちゃんとやれ』ってずっと言われていた。ボロボロでしたよ、毎日。2階に上がっていけないんですから。店終わって、足が痛くて。誰かに肩借りて2階まで連れていってもらって」

 ひき逃げによって親子の当たり前も奪われた。大樹さんは「一度2人で酒を飲んで、昔のこととか喋りたかった」と悔しさを噛みしめる。

 とし子さんも「64歳の5月に亡くなったけど、12月で65歳になったら自分は引退して『どこか旅行に行きたい』って言っていた。それが夢だったみたい」と光さんとの約束を明かした。

 夫婦での旅行を楽しみにしていた矢先のひき逃げ。これからもっと増えるはずだった夫婦の思い出を奪われた。

 今、瀬下さん親子が大切にしているのは、ひき逃げにあった時に光さんが身につけていた作務衣だ。「毎日着ていた。マグロを切ってる姿が浮かびます」ととし子さん。

 また、時効を迎えるまでの警察とのやり取りについては思うところがあったという。「定期的に警察の方から捜査の進行状況を教えてもらいたかった」と瀬下さん親子から聞くまで捜査の進捗を伝えてくれることはなかったそうだ。

「ひき逃げでも殺人は殺人。やられた側は納得いかない」(大樹さん)
「殺人は時効がなくて、なんでひき逃げは時効があるんですか。辛いですよね」(とし子さん)

 被害者感情として、ひき逃げは殺人と思うのは当然だろうが、故意があったかどうかはどのように立証されるのか?

 国際弁護士の清原博氏は「ひき逃げの場合、事故を起こしたこと自体は過失の場合もある。しかし問題はその後。ひいた後に救護をせずに逃げるのは、ひいたことに気づいていない場合を除いて故意でしかない。そこで時効の扱いに違いがあるのは、私もおかしいと思う」とコメント。

 一方で、「仮にひき逃げ死亡事件の時効をなくしたとしても犯人検挙には繋がらないのではないか」とも話す。「ひき逃げ死亡事件発生後、1年以上経ってから犯人検挙に至ったのは0.2%。殺人事件は15.5%で、その77分の1しかない。つまり、時効の有無ではなく、殺人とひき逃げに対する警察の捜査の『重み、やり方、意気込み』が違うからだ。それを改めなければ犯人検挙にはつながらないと思う」との考えを示した。

(『ABEMA的ニュースショー』より)
 

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