6月、土曜日の東京・立川市。夜の通りに面した明るい建物の中で、和気あいあいと過ごす若者たちの姿があった。そこでは、ご飯を食べる人やゲームを楽しむ人、大人と談笑する人もいる。ここはどのような場所なのか。
【映像】新宿のトー横キッズのように“夜の街”に集まる若者たち
認定NPO法人「育て上げネット」が運営する若者たちの夜の居場所、その名も『夜のユースセンター』。現在は、土曜日の午後6時から9時に開かれている。
この施設には、無料で食べられるお弁当が用意されており、部活を終えお腹を空かせて立ち寄る人も。みんな同じテーブルで食事をとる。
時間の過ごし方は人それぞれで、黙々とパソコンゲームに没頭する人、施設の職員と話す人、また、みんなでワイワイとテレビゲームをする人たちもおり、終始賑やかな時間が流れている。
2023年度から開かれた『夜のユースセンター』は現在、毎週30～50人ほどが利用しているという。施設の利用条件は、育て上げネットの支援を受ける若者に限られている。
この施設の発起人である阿部渉さんは、誰にでも気さくに話しかける、みんなの兄貴分的存在だ。育て上げネットは、ニートや引きこもりといった、生きづらさを抱える若者たちの職業訓練「ジョブトレ」を展開している。その利用者の声がきっかけで『夜のユースセンター』は始まったという。
「どうしても家に帰りたくない、もう少しスタッフと喋っていたいなど夜の居場所を求める理由はさまざまだが、夜の時間を専門に開けておくことが、今来ている子たちにとって安心できる場になるのではないか。夜だから外に出られる、夜になって家に居たくないという子ども、若者とつながるきっかけがもてると思い始めた」（認定NPO法人育て上げネット・阿部渉さん）
どのような若者が利用しているのか。
「普段から学校生活や会社・社会になじめずに孤立してしまうなど、家庭の状況的に親と一緒に居づらいという人もいる。また、『誰かとつながっていたい』と人を求めて来る利用者もいるので、施設を始めた意義はすごく大きいと思っている」（阿部さん）
この施設を利用するしょうさん（仮名）には、数年間にわたり引きこもっていた過去がある。
「家にいるとどうしても居づらさを感じているところがあった。それは他の人も同じだと思う。こういった場所があると安心できるし、週1回でも来て仲間たちと一緒におしゃべりするのはすごく楽しいのでありがたい」
居場所を求めさまよう、同じ境遇の若者たちが繁華街に集り、新宿・歌舞伎町では「トー横キッズ」という言葉が生まれた。時として、彼ら彼女らが犯罪に巻き込まれることもある。
「トー横に集まる＝悪いというイメージもあるが、そこに集まる子たちはどうしても家に居られない、帰れない環境にあると思う。安心できる場所、信頼できる大人たちの寄り添いが必要。夜だからこそ足を運べる、『ここに居ていいんだな』『私は認められているのかな』など、いろいろな価値をもてる部分もあると思う。
自分の居場所を確立して安心できる場が、次の社会や学校に戻っていくうえではすごく大事だと思うので、この夜の時間の居場所に関しても活動の領域を広げていきたい」（阿部さん）
夜の居場所を求める若者たちについて、ノンフィクションライターの石戸諭氏に話を聞いた。
「若者の支援に関して、細々とではあるが、宿泊施設などが付いている受け入れ先もあるようだ。しかし、多くの場合、どうしても活動の中心が日中で、昼しか相談窓口が開かないなど夜間対応には難しさがあるようだ。夜も安心して居られる場所として児童館や図書館などを延長してもよいのではないかという話もあるが、それにかかる人件費など、行政の支援がどうしても必要になる」（以下全て、ノンフィクションライター・石戸諭氏）
居場所を求めさまよう若者が、危険をはらんだ場所に行って大人を信用できなくなるのか、安全な夜の居場所を通じて大人や社会を信用できるようになるのか分かれそうだ。
「大人との信頼関係を築くのが再出発の第一歩だと思うので、こういう取り組みが広まってほしい」
（『ABEMAヒルズ』より）
