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■世界三大スポーツイベントのひとつ。世界35億人が観戦する地球最大の自転車レース「ツール・ド・フランス」

 オリンピック、サッカーワールドカップと並び、世界三大スポーツイベントのひとつといわれる「ツール・ド・フランス」。前者2つは4年に1度だが、この世界最大の自転車レースは、夏のフランスで毎年開催。競技期間23日(休息日2日含む)、1日の競技時間4~5時間、1日の走行距離最長約200㎞、総走行距離3,404km、総獲得標高56,266m…と、数字をだけでも過酷なスポーツだとわかる。もう一度言っておくが、これは自転車レースである。とても人力で争うとは思えない数字だ。

 1903年に始まったツール・ド・フランスは今年110回目。文字通りフランスを一周するレースであるが、近年は国外をスタートとすることも多く、今年は7月1日にスペイン・バスク地方のビルバオをスタート。コースは毎年変わり、「史上最も山岳の多いツール」を目指した主催者は、フランスにあるすべての山脈…ピレネー、中央高地、アルプス、ジュラ、ヴォージュを通すレイアウトを考案。そのためか、今年はフランスを横断するようなコースラインを描き、7月23日、パリにゴールする。

 出場チームは22で各チーム8名構成。基本的にはエースとアシストに分かれており、パリまでの個人積算タイムで最終順位が決まる。全ステージを終えて総合優勝を狙うのが頂点ではあるが、全21ステージそれぞれで優勝した選手もその日の表彰対象。ほかに、スプリントを争う「ポイント賞」、山の登坂を争う「山岳賞」、25歳以下で最高位の「新人賞」があり、対象選手は特別なジャージ(順に色が緑、白に赤い水玉、白)を着るので、レースの集団の中でも今誰がその賞を持っているか一目瞭然である。そして個人総合時間でトップをいく選手に与えられるのがマイヨ・ジョーヌ(黄色いジャージ)だ。

 21ステージの戦いのあと、パリのシャンゼリゼ通りを通行止めにしておこなわれる表彰式で、最後にマイヨ・ジョーヌを着ているのは誰か? 日替わりで出てくるヒーローにも注目したい。

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■毎日毎日フィニッシュまでたどり着かなければ、翌日からスタートはできないサバイバルレース。食事もトイレも自転車の上⁉

 ツール・ド・フランスは、大体昼頃スタートし、フィニッシュはフランス国民が最もリビングに集まる夕方ごろ。その間、選手は休むことなく走り続け、1日の消費カロリーは6000kcalとも言われており、ハンガーノックというエネルギーの枯渇状態を避けるためにも、こまめに補給食を摂る。もちろん食事もペダルを回しながらなら、用足しもチームメイトに背中を押してもらいながら済ませることもある。

 パリにたどり着くまでの間、2日の休息日があるが、その日もトレーニングに出る。他のスポーツのように「今日は調整で休ませる」ということはできず、フィニッシュしなければ翌日のスタートはないし、スタートできなければレースを去れなければならない。もちろん落車で負傷もある。普通に生活していても23日間体調崩さず過ごすことは難しいのに、体脂肪率4%台まで絞った選手たちは、自分を徹底的にコントロールしてパリを目指す。

 レースを終えた選手はチームバスに乗り、その日の宿を目指す。その宿が500㎞先なら飛行機やTGVを使う。レースそのものも1日に200㎞ほど移動するが、宿から宿への移動もあり、ツール・ド・フランスはまさに「旅」。コースには様々な田園風景やお城、世界遺産などがあり、時折流れる空撮映像は息を吞むほどで、夏のフランスの風物詩である一面のひまわり畑も必見だ。旅番組を見るような気分で、ツール・ド・フランスを楽しむこともできる。

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■史上最もスペクタクルな開幕となる第1、第2ステージ。勝てばマイヨ・ジョーヌが着られる第1ステージは大落車発生の危険性も

 主催者が「史上最も難しい第1ステージ」と宣言している通り、今年のツール・ド・フランスはスペクタクルな開幕になると思われる。通常第1ステージは屈強なスプリンターたちが勝つ平坦ステージか、ひとりひとりがスタートしてタイムを競う個人タイムトライアルが多い。しかし今年は182㎞の丘陵コース。途中2級(※峠の難易度により4級から超級までカテゴライズされ、上りの厳しさの参考となる)を含む峠が5つもあり、最後は斜度5%の上りフィニッシュだ。平坦や個人タイムトライアルだとそれを得意とする選手しか勝ち目がないが、今年の第1ステージのような丘陵コースだと、パンチャーと呼ばれる地脚の強い選手はもちろん、上りも得意なスプリンターや登坂の得意なクライマーも、いわば全員に勝つチャンスがあると言ってもいい。

 しかも第1ステージで勝てば自動的にマイヨ・ジョーヌが着られる。ツール・ド・フランスは、世界中の全選手がその出場を憧れる大会であり、そこで1日でも黄色いジャージが着られれば、後世にまで名を残せる。だからこそ、ツール・ド・フランスの初日はピリピリとした緊張感が走り、それが今回のように誰もがマイヨ・ジョーヌを着られるチャンスがあるとなると、集団の中で大落車が発生する危険性も。選手のことを思うと落車はしてほしくないが、それほど「ツール1勝」をめぐる熾烈な戦いになるのは必至。しかも第2ステージも丘陵コースで、今年最長の208.9kmときている。今年は初日から寝不足の日々になりそうだ。

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■これまでの常識を覆すZ世代の選手たちの台頭で大転換期を迎えているツール・ド・フランス。今年の総合優勝者は誰も予測不可能

 120年前に始まったツール・ド・フランスにもトレンドがあり、記憶に新しいところではランス・アームストロングが7連覇をした時代があったし(のちにはく奪)、オールドファンにとってはエディ・メルクスやベルナール・イノーなどのレジェンドの名がまず頭に浮かぶことだろう。自転車ロードレースは戦略がとても難しく、経験が重要なため、30歳ごろからツール・ド・フランスを総合優勝できる力をつけると言われていた。だからこそ、25歳以下の総合上位選手に与えられる「新人賞」があるのだ。しかし今のトレンドはどうだろう。2020年に総合優勝したタデイ・ポガチャルはその当時21歳。彼は翌年も優勝した。そして昨年勝ったヨナス・ヴィンゲゴーはかろうじて25歳。総合優勝者が新人賞も取ることが多くなり、新人賞=25歳以下という規定そのものが時代にそぐわなくなってきている。

 今年のツール・ド・フランスも、自転車界のZ世代がレースをかき回してくれることだろう。少し前の走り方は、「総合優勝を脅かさないなら、ステージ優勝は他にあげてもいい」というものだった。2017年はクリス・フルームが一度もステージ優勝することなく総合優勝をした。まぁそれは、王者の落ち着きとも言える。でも今のZ世代たちは、「えっ? ここで?」というところで勝負に出て、サラッと、しかも圧倒的な強さで勝ちにいくのだ。これが近年の自転車ロードレースをおもしろくしてくれている。

 今年はデンマーク人のヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ)が連覇をするか、それを阻止してスロベニア人のポガチャル(UAEチームエミレーツ)が頂点に返り咲くかに注目が集まる。昨年ポガチャルが3連覇を逃した要因はチーム力。ヴィンゲゴーのユンボ・ヴィスマは、ひとりになってしまったポガチャルを波状攻撃で引きずりおろした。しかし今年のUAEチームエミレーツは大型補強をし、ポガチャル本人は、春先から歴史名高いビッグレースを勝ちまくっており、「今年は絶対ポガチャルの年」と思われていた。しかし4月23日のレースで落車をし、手首を骨折。そこからレースに出ておらず、総合優勝者予想を難しくさせてしまった。こうなるとヴィンゲゴーが2連覇かと思われるが、彼はポガチャルほどビッグレースに出ていない。あえてどちらも優勝する可能性を挙げるなら、ヴィンゲゴーは「ツール・ド・フランス前哨戦」とうたわれるクリテリウム・デュ・ドフィネで総合優勝。ポガチャルは6月25日に開催された国内選手権で優勝し、スロベニアチャンピオンに。その2日前に開かれた大会で個人タイムトライアルチャンピオンにも輝いている。さすがZ世代の象徴ポガチャル。さぁ、7月23日のパリ・シャンゼリゼ通りで一番高いところに立つのはヴィンゲゴーかポガチャルか。はたまた新たなZ世代の誕生か。このよくできた推理小説のようなツール・ド・フランスが、楽しみでならない。 

文/土肥志穂

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■「ツール・ド・フランス2023」

『ツール・ド・フランス2023』は、世界の35億人が熱狂する自転車ロードレースの世界最大イベント。ステージ優勝をかけ、第16ステージの個人タイムトライアルを除く20ステージを、先頭でフィニッシュラインの通過を目指す選手たちがしのぎを削る。ツール・ド・フランスでは様々な賞が用意されており、それぞれの賞には対応するジャージが存在、ステージ終了時点で各賞の成績第1位の選手、およびチームはジャージを着用して次のステージのレースに挑む。

 ツール・ド・フランスでは各ステージの所要時間を加算し、合計所要時間が最も少なかった選手が総合優勝者となる。各ステージ終了後、初日からの累積タイムが最も少ない選手が総合首位(マイヨ・ジョーヌ)として表彰を受け、また全21ステージを通して最も少ない総合累積タイムを記録した選手がツール・ド・フランス総合優勝に輝く。

 ABEMAではレース初日となる7月1日(土)の第1ステージと7月2日(日)に行われる第2ステージを無料生中継。レース委員長が「初日コースとしては史上最難関」と断言する第1ステージでは、獲得標高差3,300mにも至るスペインのビルバオ起点の大きな周回コースが選手たちを待ち構える。また、第2ステージでは、2日目にして本大会最長となる200km超えのステージとなっている。

Cycle*2023 ツール・ド・フランス 第1ステージ | 新しい未来のテレビ | ABEMA
Cycle*2023 ツール・ド・フランス 第1ステージ | 新しい未来のテレビ | ABEMA

■「ABEMA」 「ツール・ド・フランス2023 第1ステージ」 放送概要
区間:ビルバオ ― ビルバオ(182km)
放送日時:2023年 7月1日(土)よる7時5分~深夜1時45分
URL:https://abema.tv/channels/world-sports-3/slots/CDd1PrDmtSUemm

Cycle*2023 ツール・ド・フランス 第2ステージ | 新しい未来のテレビ | ABEMA
Cycle*2023 ツール・ド・フランス 第2ステージ | 新しい未来のテレビ | ABEMA

■「ABEMA」 「ツール・ド・フランス2023 第2ステージ」 放送概要
区間:ビトリア・ガスティス ― サン・セバスティアン(208.9 km)
放送日時:2023年7月2日(日)よる8時55分~深夜1時30分
URL:https://abema.tv/channels/world-sports-3/slots/DAYchLv3NtsTKd 

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