“次”に全集中だと武尊は言った。それしか考えていないと。

 6月29日、武尊の勝利報告会見が行なわれた。24日のフランス遠征で勝利し、ISKA世界ライト級王座とMTGPキックルール世界王座を獲得したことを受けてのものだ。

 試合を振り返るとともに今後の展望についても語った武尊。すでにONE Championshipと契約しており、その立ち技トップであるムエタイ戦士ロッタン・ジットムアンノンとの対戦を希望している。それも最短で、次戦でやりたいと。

 ロッタンとは「最高の殴り合い」がしたいと武尊。ムエタイ、というより世界最高峰のアグレッシブなストライカーと武尊が闘えば、おそらく格闘技史上最高の打ち合いになるはずだ。

 会見では、ロッタンと闘いたい理由についても明かした。ロッタンは、かつて那須川天心と大接戦を演じている。だからロッタンなのだ。

「天心選手にリベンジしたいけど、今はボクシングで頑張っているので。違う形でのリベンジじゃないけど、格闘家を続けるにあたって誰かに負けたままというのは許せないので」

 那須川が苦戦した相手にKOで勝てば間接的なリベンジになると、単純に考えているわけではない。ただ、こうも思っている。

「天心選手が5ラウンド+延長で勝った相手にKOで勝ったら自分自身が納得できる。格闘家を続けてもいいという合格点が出せる。ロッタンと闘う理由はそれしかない」

 会見後、あらためて単独インタビューを実施。さらに深くロッタン戦について聞いた。具体的な交渉はこれから。だからこそさまざまな可能性が考えられる。

 ONEはリングでもケージでも試合を行なっている。キックルールとムエタイルールがあり、オープンフィンガーグローブもボクシンググローブも使用。

 ONEの規定通りに試合をするのが最もシンプルだが、武尊vsロッタンほどのビッグカードになれば、そこに収まらない可能性も出てくる。武尊もそう考えているようだ。

「お互い、自分に有利なルールがあると思うんですよ。その中で中立ないい形にできれば。みんなが納得して、お互い恨みっこなしでどっちが強いか決めたいです」

 オープンフィンガーグローブでの練習もしたことがあり、試合で使ってみたいという気持ちもあるそうだ。

「オープンフィンガーグローブで殴られると痛いけど、意外とボクシンググローブのほうが倒れるんじゃないですかね。ボクシングの関係者に聞くと、ボディも素手よりボクシンググローブのほうが内臓に響くらしいです。ディフェンスの仕方も変わるし、それぞれいいところと悪いところがあると思います」

 できれば日本で開催し日本のファンに見てほしいという思いもあるそうだ。一方、武尊にラブコールを送っていたロッタンは最近になって「武尊はONEで何試合か経験を積んだほうがいいんじゃないか」と語っている。何やら“駆け引き”を感じさせるが、武尊は意に介さない。

「向こうは向こうで思うところがあるんでしょうね(笑)。でも僕の気持ちは変わらないです。次の試合でやりたい。それを言うだけの実績は残してきたと思ってますから」

 堂々とした主張だ。那須川戦が実現するまでの武尊は、K-1を背負うがゆえに我慢しなければいけない場面もあった。だが今は違う。純粋に格闘技を楽しめているという意味では、K-1のベルトを巻く前のような感覚だそうだ。

「でも、それも我慢してきた時期があるからこそです」

 耐えるべき時に耐え、そこから動いて那須川戦を実現させた。結果、団体の壁は崩れ、格闘技界は新たな時代を迎えている。ただそれでも、那須川戦の悔しさは晴れていない。だからロッタンと闘う。

 那須川の名前を出せば、余計に黒星がクローズアップされる。たとえば試合展開を予測する際など、比較されることも避けられない。けれど武尊が那須川戦の悔しさを克服するには、ロッタンに勝つしかないのだ。

「比較だったり、周りがどんなふうに見るかは自由ですからね。僕はロッタンをKOできるとしか考えてないですし。とにかく、負けたままでは自分が許せないんです。勝てないんだったら格闘技を続ける意味もない」

 武尊は屈辱に真正面から向き合う。そのことを隠しもしない。ごまかしのない生き方だからきついこともあるのではないか。そう聞くと彼は答えた。

「こういう生き方じゃなければ、もう引退してると思います」

 すべてを乗り越えて、武尊は今ここにいるのだ。

文/橋本宗洋