“国に見捨てられた”氷河期世代への最適な支援は? 夏野剛氏「正規・非正規という概念を一度崩すべき」、かつて『希望は、戦争。』と訴えたライター「おとなしくこの世を去っていくわけにはいかない」
【映像】『希望は、戦争。』と訴えたライター「氷河期世代に毎月10万円の現金給付を」
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 人事院は「就職氷河期世代」向けの国家公務員中途採用試験について、7月19日から申し込みを受けつけると発表した。2023年度は182人を採用する予定だ。また地方公務員、民間企業への就業支援や、正社員化、技能の学び直しなど、手厚い支援も行っている。

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 就職氷河期世代とは概ね1993年卒から2004年卒で、大卒なら41歳から52歳、高卒で37歳から48歳。バブル崩壊後の就職難が直撃した世代だ。当時の就活生は正社員としての就職先が少なく、多くの人が望まない形でフリーターや派遣社員となり、現在も非正規などで働いている人が少なくない。

 Twitterには「国に見捨てられた感が強い」「努力しても報われない絶望を味わってきた」などの声があがる。一方で、「世代ピンポイントより、全体を上げないとダメでしょ」という指摘も。

ABEMA Prime』では、2007年に『「丸山眞男」をひっぱたきたい 31歳フリーター。希望は、戦争。』という記事を執筆したフリーライターの赤木智弘氏と共に、就職氷河期世代への適切な支援について考えた。

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■氷河期世代への最適な支援=「現金給付」?

 国の支援策について赤木氏は「『雇用でなんとかしよう』という考え方は実情に沿っていない。公務員になれるのはいいことだが、民間企業への斡旋をしても、企業側に40代、50代の人を受け入れて正社員にする需要があるのか。正直いらないのではないか? 支援策の1つではあるが、助かるのはごく一部でしかないと思う」と疑問を呈する。

 2007年に書いた記事を振り返り、現状をどう見ているのか。「当時31歳で、就職して結婚して一人前の家庭を築くにはラストチャンスだった。だからこそ、我々は忘れ去られてはいけないし、こういった人たちがまだいるし、“まだ希望はどこかにある”ということを示したかった。しかし、そのチャンスもとうの昔に過ぎ去ってしまい、今こうやって支援策として就職させようとしているのは、まさに当時話したことが活かされてないと残念に思っている」。

 必要な支援策として赤木氏が考えるのは社会保障だ。「全面的に社会保障に移すしかない。国が企業にお金を出して雇ってもらうのではなく、現金給付のような形で国から直接お金を渡すことで、消費者としてしっかり機能してもらうことが重要なのではないか」「企業に頼るのではなく、国が何をするかという意思を見せてもらいたい」との考えを示す。

 近畿大学情報学研究所所長の夏野剛氏は「日本の雇用の異常な形がまだ残っている」と指摘する。「本来は国がすべき社会保障も含めた雇用対策を企業にやってきてもらったツケが、バブル崩壊以降一気に来た。政府にできるのは、国家公務員の採用と、ベーシックインカム的な発想も含めた保障制度。今また“再チャレンジのためにリスキリングを”ということを企業に言っているが、それでは競争力が落ちてくる。アメリカでは製造業が落ちているが、ITや金融が出てきて雇用を吸収していくわけだ。一生1つの会社に勤めるわけではなく労働市場の流動性があるのだが、日本はどうしようもない企業を温存し、雇用が増えないまま来てしまった」。

 さらに、正規雇用・非正規雇用の制度に触れ、「政府が定年を伸ばす方向にいっている中で、企業側は終身雇用を前提とした採用には及び腰になるし、これから社会に出る若者にとってもプレッシャーとなる。本当に“みんなの幸せ”につながるのか。大企業の労働組合などが譲らないだろうが、今こそ正規・非正規という概念を一回崩して、同一労働・同一賃金の下、誰もが同じように厚い保障が受けられる社会を作らないといけないと思う」と投げかけた。

 これを受けて赤木氏は「正規と非正規の格差によって非正規が割を食ってしまっているのは間違いない。『雇用を守れ』という言葉によって、むしろ雇用されない人がたくさん出てきている」と述べた。

 雇用の流動性を上げる方法について、起業家・投資家の成田修造氏は「大企業でも最近、電通が『早期退職プログラム』を作って、10年での独立のサポートを行なっている。内容としてはこれまでの5割強の報酬や仕事の斡旋、リスキリングなどがあり、レベルの高い人材の雇用の流動性を積極的に高めようとしている。これが成功事例として広がってくると、社会全体の流動性も高まってくるだろう」と発言した。

■“世代ピンポイント”でいいのか?

 では、“手厚い支援”は氷河期世代だけを対象にすべきなのか?年代に関係なくどの世代でも苦しい思いをしている人たちはいるのではないか?

 夏野氏は「実は就職氷河期と同じくらいリーマンショックの後は大変だったという話もある。それから、バブル世代に就職した人はイケイケだったと言うが、人数が多いからものすごい生存競争をしている。バブルでラッキーだったのはその時の管理職だけだ。一方で、就職氷河期の後に就職した大卒の人たちは、3人に1人が3年以内に辞めている。終身雇用を信じてないし、新しい世代の市場は変わっている。そこに終身雇用&正規雇用の夢を抱いてしまっていたことが、悲劇を生んでいる気がする」と指摘した。

 赤木氏は「実際に就職氷河期以外の人たちは『なんでその世代だけ』という感想を持って当たり前だと思う。国としても正直に言えば、氷河期世代の人たちはさっさと退場してほしいと思っているだろう。だが、我々としてはおとなしくこの世を去っていくわけにはいかない。介護の問題でも言われるが、日本の人口が減っていく中で、就職氷河期だけを見殺しにするというのも無理な話だ。結局、日本経済全体が沈んでいってしまうと思うので、そこも含めて考えていかなければならない」と訴えた。
(『ABEMA Prime』より)

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