自分の名前を変えたいと思ったことはあるだろうか。「親から一方的に与えられた名前にしばられるのはおかしい」「なんで自分のものなのに自分で決められないの?」。そんな声と共にこんな言葉が誕生したのが「自己命名権」だ。
読んで字のごとく「自分で名前を付ける権利を持つ」ということ。その背景には、キラキラネームで生活に支障がある、家族と絶縁し親につけられた名前を捨てたいなど、悩みや生きづらさを抱える人が多くいる。
とはいえ、簡単には変えられないのが現実だ。もっと自由に決められた方がいいのか。『ABEMA Prime』では改名をしようとしている、また改名した当事者と共に考えた。
■“通称”を5年以上使わないと改名できない?
「名前を変えたい」という松本友児(まつもと ゆに)さん、24歳。中学時代に「男女兼用の衣装=ユニセックス」と名前を結びつけられてからかわれ、不登校になったという。
大人になってからもコンプレックスは消えず、改名を決意。戸籍の名前を変えるには裁判所の許可が必要と知り、書類を提出。『友児』から『優希』への変更を望んでいる。しかし、裁判官からは「おそらく変えられない。新しい名前にするにあたって、その名前(通称)を5年程度使用していた実績が必要」と言われたという。
裁判所が認める理由には、奇妙な名前である/難しくて正確に読まれない/同姓同名者がいて不便/異性とまぎらわしい/外国人とまぎらわしい/神官・僧侶になった/通称として永年使用した(判例では5年以上)などがある。
松本さんは「正直5年は長い」と話す一方、「親からもらった名前を変えるのは親不孝なんじゃないか、と。なかなか踏み切れず、親にもまだ言えていない。これからも言えるのか分からない」と悩みも明かす。
「もともと『ゆうじ』と読み間違えられることが多かったが、読み方を聞かれるのもストレスだし、『親はどうやって決めたの?』とストレートに言われても説明も面倒。仕事で名刺交換するのも気が引けてしまう。フリガナを振っても、『すごい名前だね』と逆に話題になってしまう」
■両親は“昔と今”を使い分ける
和田ゆりあさんは4年前に「涼子」から「ゆりあ」に改名した。「本当に理由はなく、何となく変えたという感じだ。仕事で源氏名を使っていて、独立を機にそのまま本名も変えた」と話す。
和田さんの場合では、職場で名乗っていたことや給与明細が“通称の実績”になったという。両親の反応については「両親には事後報告というか、バレた。戸籍謄本を取った時に『あ、変えたんだ』『へぇ』とそこまで気にしてなくて、“昔の名前”と“今の名前”を使い分けている。一方で、姉は『パパとママがかわいそう』と怒っていた」と答えた。
和田さん18歳の時に銀座で「ゆりあ」として働きはじめ、改名したのは22歳。これは松本さんに提示された5年以上という条件と乖離するが「名前の使用実績が必要だとも知らず、『変えよう』と思い立っていきなり申請した。たまたま給料明細などの実績が2~3年分があり、それを持っていった」。
その上で、現状については「本名と働いている名前が全部一緒になったのは楽」と説明した。
■改名は裁判官の裁量による?
人はいったいどういう理由で改名を決意するのか。改名業務を専門に年間2000件以上の相談を受けている司法書士事務所「エベレスト大阪」代表の堀川貴史氏は「DVを受けた離婚相手から身元を隠したい方、運気を上げたい企業の社長、セクシュアリティに悩む方など、さまざまな理由がある」と説明。
改名の基準が厳しい理由については「例えば犯罪者が名前を変えることで、防げたはずの犯罪が発生する可能性もある。社会的な混乱が生じないためにもコロコロと変えられないようになっている」と述べた。
とはいえ、裁判官の裁量による部分が大きいそうで、「もちろん裁判官は判例などを元に決めるが、最終的には裁判官が正当な理由があるかどうか、をどう判断するかによる」とした。
「自己命名権」の名付け親で、「#自己命名権獲得プロジェクト」の御名部ミライ氏は「多様な生き方や権利が認められる中、私たちは『自分で自分の名前を決められない』ことに気づいていない」「自分で名前を決められる制度になっていけば」と話している。
堀川氏は「社会的に混乱・支障がないのであれば認められやすい。通称を理由に変更できるのも、それを周りが認知していて、戸籍名がそれほど知られてないから混乱がないというところがある。命名権も社会的に影響を及ぼさないような法律などを作れれば、変更していいと思う」との見方を示した。
(『ABEMA Prime』より)
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