7月14日に始まったハリウッド俳優たちのストライキ。主体となっているのは俳優など16万人が所属する全米映画俳優組合だ。ストにより映画やドラマの制作、プロモーションなどに大きな影響が出ている。
トム・クルーズも『ミッション:インポッシブル』の新作公開に合わせて予定されていた来日を中止。スタジオの8割が閉鎖状態で配信ドラマなどの製作も全面的にストップしている。まさにハリウッドを揺るがす大規模ストだ。
その争点となっているのが、俳優たちの待遇改善と動画ストリーミングサービスの視聴数に応じた適切な報酬の要求だ。俳優で脚本やプロデューサーも務めるマット・デイモンは特にエキストラや無名の俳優を救うことが重要だと訴え「我々はギリギリのところにいる人たちを守らなければならない。健康保険に入るためには年間2万6000ドル(約360万円)の報酬が必要になる」と投げかけた。
サブスク時代に突入した映画・ドラマ業界は今後どうなっていくのか。『ABEMA Prime』ではロサンゼルス在住の現役俳優、映画ライターと共に考えた。
今回のストに対し、近畿大学情報学研究所所長の夏野剛氏は「実は、NetflixやAmazon Primeなどが出てきたことによって、ハリウッドは生き返った。映画やドラマ、地上波あるいはケーブルテレビ向きのドラマが主体だったところへ、新しいマーケットがドーンと生まれ、発注作品を増やし映画産業は大きくなっている。しかし、その恩恵が出演者やスタッフに行き渡っていない、というところからこの動きが始まったのではないか」と推測した。
ロサンゼルスを拠点に活動し、Netflix作品などに出演歴もある、俳優の福山智可子氏は「多くのストリーミング作品が作られているが役者に入るお金は増えているわけではない。例えば、健康保健に入るためには1作品の報酬では足りず、1年に大作と呼ばれる映画に何本も出演する必要がある」と厳しい実情を語った。
映画ライター、ゴールデングローブ賞を選考するハリウッド外国人記者協会に所属する小西未来氏は「これまでのビジネスモデルでは、映画なら興行収入、テレビなら視聴回数に応じて追加出演料・再使用料が払われていたが、ストリーミングが流行り、従来のお金が入らなくなってしまった。対してストリーミングの報酬はというと『新しいメディアでまだ赤字だから』と低い額に抑えられ、脚本家や俳優たちの生活が成り立たなくなっている。ストリーミング勢は、一切視聴回数を公開せず、再生回数に応じた報酬をほとんど払わないという姿勢でいるため、ずっと平行線だ」と説明した。
これを受けて夏野氏は「俳優が二次使用料を得るのは当然なのか。例えば、映画では、俳優、監督はギャラをもらって作品を作るがお金出してリスクを負っているのは制作側だ。作品が当たればいいが、外れた時は全部赤字を被る。そのため、配信に関する二次使用のルールが未整備だからといって『もらえるのが当たり前』という話にはならないと思う」との考えを示した。
実は、配信ストリーミングサービスの経営も厳しい。例えば、ウォルト・ディズニー社のディズニー+は、営業損益が6億5900万ドル(2023年1〜3月期)となっている。さらに、小西氏によると、「Netflixの成功の後に参入したAmazonやAppleという“従来のメディアではない存在”は本業の方が潤っているため、映像制作は副業でしかない。それが事態をややこしくしている」という。
しかし、右肩上がりのNetflixにも転機が。小西氏は「Netflixがスタートした当初は赤字がいくら出ても、『会員数が増えていればOK』だった。ライバル社もそのモデルを真似して、なるべく月額料金を下げ、赤字を出しながら会員数を増やしたのだ。しかし去年、『Netflixの会員数10年ぶりに減少』というニュースで株価が急落すると、株主たちが絶対に利益をキープするようプレッシャーをかけた。これによって各社の制作環境が激変。これまでは湯水のごとくお金を使っていたが、財布の紐を絞った」と説明した。
利用者は低額な月額料金を払えば見放題だが、配信サービスは儲かっておらず、俳優たち、関係者にもしわ寄せがある。利用者だけメリットを得ていては、業界がこの先続かないのではないか。
夏野氏は「成功した俳優たちがストに賛同しているというのは、やはり不均衡が許容範囲を超えている証ではないか。これを受け、映画産業の経営者たちも何か手を打つべきでは」と提案した。
福山氏は「これはおそらく、ストリーミングや映画俳優だけの問題ではない。今私たちが声を挙げないと、将来的に多くの方の生活に影響出てくるのではないか」と述べた。
(『ABEMA Prime』より)
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