「肥満改善・治療薬」が国内で30年ぶりに承認 専門家「エビデンスがないサプリより安全性と有効性がちゃんとした試験されたものを」副作用も徹底解説
【映像】BMI18の人が“やせ薬”を飲むとどうなる?
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 先月末、米医薬品大手・イーライリリーが肥満症治療薬「マンジャロ」の後期臨床試験の結果を発表。薬の効果で患者の体重が平均で26.6%も減ったとのことで注目が集まっている。

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 一方、日本は世界と比べ遅れをとっていたが、今年およそ30年ぶりに2つの「肥満改善・治療薬」が承認された。1つは肥満症患者に投与する注射薬・ウゴービ。もう1つがドラッグストアなどでも販売が認められた飲み薬・アライだ。

 薬での治療にSNSでは「運動は時間かかるし、薬はタイパ良い」「市販されるなら試してみたい」「副作用とかはないのかな」「てか、運動して痩せた方が健康的でしょ」などの声があがっている。

ABEMA Prime』では、新たに承認された治療薬とその効果・副作用について肥満症の治療に詳しい、名古屋市立大学病院肥満症治療センターの田中智洋氏に聞いた。

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■“やせ薬”、本当に飲んでも大丈夫?

 新たに承認されたウゴービは肥満症患者に投与するとのことだが、そもそも肥満と肥満症は違うのか。田中氏は「肥満は単に太っているだけで病気にならなければ医療の対象ではない。ただし、肥満が原因となって糖尿病・高血圧・脳梗塞などの病気になると肥満症と呼ばれる」と説明した。

 加えて、肥満を判定する基準について田中氏は「海外では体格指数BMI30以上を肥満とする国が多いが、日本人は小太りでも健康障害を起こしやすいという理由から日本ではBMI25が基準になっている」と解説。

 新たに承認されたウゴービは脳の視床下部の働きを鈍らせて満腹感を高めるというが、これと関連して田中氏は「そもそも太ってしまうメカニズムに誤解がある」と語る。

「自分を律することができない人が太ってしまうという誤解が長らくあったが、実はそうではない。食欲を調節している脳に異常があって食欲をコントロールできないために太ってしまうのだ。そのため、ウビーゴは脳に作用して、脳を変えることで体重をコントロールしやすくする」

 そんなウゴービは注射で投与するのだが、処方には肥満症・併発している疾患、BMIなど細かい条件があるという。ウビーゴの副作用について田中氏は「低血糖を起こして意識がなくなったり、膵炎を起こしたりする。場合によっては、甲状腺がんが悪化する可能性もある。信頼できる医師・薬剤師の指導を受けながら使ってほしい」と注意喚起した。

 対して、アライは薬局やドラッグストアでも買えるようになるというが、どんな薬なのか。田中氏は「アライは油を食べても『分解できなくする』薬で、食べたものが比較的そのまま、お通じに出るようなるため油を食べても太りにくくなる」と説明。

 そんなアライは肥満症治療薬ではなく、「肥満症ではない18歳以上の肥満の人」が対象になっているという。アライにはどんなリスクがあるのか。

 田中氏は「油がそのまま出てしまうということで副作用としては、下痢になったり下着を汚してしまうケースなど、体調が悪くなるというものがほとんどだと考えられているが、まだよく分かっていない点もある」と解説。また、アライのような薬をドラッグストアで気軽に買えることについては「アライは肥満症にならないために肥満の方の体重を減らそうという予防のための薬だ。とはいえ、アライに頼るだけでなく、食事療法、運動療法と合わせて活用してほしい」と語った。

 世の中にダイエット効果を謳うサプリが溢れている問題について田中氏は「ほとんどエビデンスがないサプリが氾濫している。中には痩せる効果はあるが、実は甲状腺ホルモンなど危険な成分が入っているものもある。そういうものを使うより、安全性と有効性がちゃんとした試験で示され、承認されたものを使った方がいい」との見方を示した。

■BMI18の女性にもやせ薬を処方?

 それほど太っていない人が薬で痩せることについて田中氏は「例えばBMI35〜40などで高度の肥満症の方は専門的な治療が必要だと思う。一方でちょっと小太り、あるいは本当は肥満でも肥満症でもない人が『もっとスリムになるために』薬を使うと予期せぬ副作用で苦しむリスクもある。私が聞いたケースではBMIが18、19という痩せ気味の20代の女性に薬を処方した結果、食事が摂れなくなったという話もあった」と実情を語った。

 元フィギュアスケート選手の安藤美姫は「私はデブみたいなことを言われたタイプのアスリートだったので悩んだ。それこそ食べなかったり、ドーピングに引っかからないサプリで栄養を補っていた。でも海外に行くと自分が全然太っているわけではないと気づく。日本人の『アスリートに対する理想の体型』と言ったら変だが、特にフィギュアは美の世界だったのでやはり大変だった」と振り返った。

 競技におけるベスト体重の観点ではなく、ルッキズムに引きずられたということか。安藤は「そうだ。自分にとってのベスト体重を決めているアスリートも多いが、私は自分のその日の体調・調子で体重を決めないで健康的に食べるタイプだった。今回薬が承認されたが、日本人は全然太ってないのにもっと痩せたいというメンタルの人が多いので心配だ」と懸念を示した。

 これまでの話を受けて、田中氏は「本当はBMIだけで判断してはいけない」と警鐘を鳴らす。

「例えば、『あなたはBMI25だ』と言われて『痩せなきゃ』と焦るのは正しい形ではない。『あなたは糖尿病もあるし血圧も高い、ひょっとしたら心臓の血管も細くなってるかもしれない』と言われたら、その時にBMIを見て、25以上だったら痩せようとする。この順番が正しいと思う」
(『ABEMA Prime』より)

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