30代に突入した高畑充希の座右の銘は「生きているだけで超エラい!」なのだろう。1959年の発売以降、世界中で愛され続けている人気なファッションドールを実写映画化した『バービー』(8月11日公開)で主人公・バービー役の日本語吹き替え版声優に抜擢。完璧を求めず、常にしなやかにいる高畑を形作ったもの、そしてたどりついた結論を自身の口から明かしてくれた。
どんな自分にでもなれる完璧で夢のような日々が続く“バービーランド”から、バービー(マーゴット・ロビー)とケン(ライアン・ゴズリング)は悩みの尽きない人間の世界へと旅立っていく…。誰もが憧れる「完璧」という頂点。しかし高畑の辞書に「完璧」という文字はないようだ。そこには8代目ピーターパンをはじめ、ミュージカル舞台で俳優として研鑽を重ねてきた経験が関係している。
「舞台の場合は生ものなので、お客さんのテンションも共演者のテンションも日によって違います。形に囚われることなくみんなを信頼して自由にやった結果、思いもよらず120点になったりすることもある」と実感を込めながら「完璧というのは面白くないと思っています」とアソビ心を大切にしている。
だからなのか、かつて思い描いていた未来予想図も破り捨てた。地図には載っていない道を分け入った先に、もしかしたら面白いアクシデントがあるかもしれないから。「若い頃は『こうなりたい、あれがやりたい』と先々のことを考えていました。でも最近は生きているだけで超偉いのではないかと思うようになりました。例えば気持ち的に落ち込む日があったとしても、次の日に超ハッピーなことがあったりする。まだ31年しか生きていないけれど、それでも『生きてみないとわからないな』と実感することだらけ。ということは、これから先も沢山の発見と思いもよらない出会いがあるということ」。だからこそ「とりあえず生きているだけで超偉い!」の境地にたどり着いた。
『バービー』の日本語吹き替え版声優抜擢も、高畑が待ち望んだ「アクシデント」の一つと言えるだろう。高畑は、映画『バービー』の持つ世界観を余すことなく表現できる唯一無二のキャストとしてバービー役のオファーを受けたあと、本国によるオーディションを経て正式にキャスティングが実現。『レディ・バード』『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』で高い評価を得たグレタ・ガーウィグ監督をリスペクトしている高畑は「しかもマーゴット・ロビーとライアン・ゴズリングの共演。製作が発表された段階からすごく楽しみでした。その作品の日本語吹き替え版のオファーがまさか自分にやって来るとは思わず、嬉しくて二つ返事で御引き受けしました」と喜色満面。まさに「生きてみないとわからない」出来事だ。
洋画吹き替えは『シンデレラ』(2015)以来。「当時は吹き替えも初めてのことで右も左もわからず、反省点も多かったです。今回は前回より少しでも成長していたらいいなと思って挑みました。プロの声優さんと違って技術がないので、事前に吹き替え作品をチェックしたり、マーゴット・ロビーの出演作を観たり」と研究を重ねてアフレコに臨んだという。
苦戦したのは「ハイ、ケン」という一見、簡単そうな呼びかけセリフ。「ケンという呼び方が英語寄りの発音になってしまいがちで、監督からは『健康のケンで』とアドバイスをいただきました。ハイと頭につくとどうしても英語的になってしまうので難しかった」と洋画吹き替えならではの壁を痛感。バービーの心境と状況の変化も声で意識して「人間世界での出会いを通して人間っぽさも見えるようになったバービーには感情の機微が生まれてくるので、その変化をどうすれば良いか悩みました。またバービーたちのテンションが高いパーティー場面ではアフレコブースで一人絶叫したりして、貴重な経験をたくさんさせてもらえました」とシュールな舞台裏も教えてくれた。
演じたバービー同様、恋人ケンにメロメロだ。「どこか抜けているところが可愛くて、母性本能をくすぐるキャラクターですよね。ケンのミュージカルシーンは終始爆笑。またライアンが演じたからこそのセクシーさもあって、とても新鮮でした。ライアンがインタビューで『グレタ監督とマーゴットに言いくるめられて気づいたらケンをやる羽目になっていた』と冗談めかしておっしゃっていて、そこも含めてケンらしいなと思いました」とケンの魅力にぞっこんだ。
話題のまっピンクなヴィジュアルに目を奪わる一方で、高畑はグレタ監督ならではの深い人間ドラマにも心を奪われたという。「ポップな世界観が衝撃的に完成されているプラス、個を見出していくというテーマのしっかりしたストーリーもある。ここまで見事に掛け合わせることが出来るのかと感動しました。声を出して笑ってしまうようなシニカルなジョークもあるし、マーゴットとライアンがバービーの年齢設定よりも上であることで、人間ドラマとしての深さも生まれていると思いました」と大絶賛。日本公開に向けて「バービー人形だけでここまで描いたグレタ監督のセンスは素晴らしい。女性だけではなく男性も子供も楽しめる『バービー』。会う友達全員にお勧めしています」。
文:石井隼人
写真:You Ishii
『バービー』8月11日(金)全国ロードショー
配給:ワーナー・ブラザース映画
(c)2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.