東京・上野にある国立科学博物館。古代の動物や植物など貴重な標本2万点以上が展示される日本を代表する博物館が今月7日に始めたのがクラウドファンディング。初日のうちに目標額の1億円を達成し、10日現在5億円を超えており、今も増え続けている。
なぜ広く国民に支援を求める事態に陥ったのか。国立科学博物館館長の篠田謙一氏は「ただでさえ、ぎりぎりの運営体制だったところにコロナ禍によって入館料収入が大きく落ち込んだ。光熱費や物資の高騰が状況に追い打ちをかけている」と述べた。
この事態にXでは「金をかけるなら万博よりこっちでしょ」「国家が学問をおろそかにしてはいけない」などの声があがっている。一方で、運営費に苦しむ地方の博物館や美術館の事情を踏まえたこんな意見も。「誰も行かない博物館に対しても金を出す必要はあるのか?」。
『ABEMA Prime』では、「独立行政法人なので自分で頑張らなければいけない」と述べる副館長の栗原祐司氏と共に文化や芸術の事業に、国がどこまで支援すべきか考えた。
■なぜ、博物館は儲からないのか?
国立科学博物館は、エアコンが故障した職員室には家庭用を持ち込み、館長室はカビだらけという窮状だという。なぜ、ここまで運営が厳しくなるのか。
栗原氏は「実は、博物館の機能は展示だけではなく研究も重要。そのために500万点ものコレクションを守らなくてはならない」と説明した。現在、コレクションの保管場所も不足し、貴重な標本がむき出しのまま置かれている。このため、27億円をかけて新たな収蔵庫を建設しているが、資材の高騰や光熱費の上昇などで費用が不足。クラウドファンディングに至ったのだ。
経営が厳しいのは国立科学博物館に限らず、国立美術館も国立以外の博物館も同等程度に状況にあるという。国立科学博物館はコロナ禍で落ち込んだ入館者数も持ち直してきているが、常設展は18歳以下が入館無料であることもあり、入館料で大きく稼ぐことは難しいという。
栗原氏は「入館料を上げるのは最後の手段でやりたくない。入館料を上げないためには、自分たちで外部資金を集めるしかない。これまでできる限りの努力をしてきたが限界に近づいているため、今回、恥を覚悟でチャレンジした」と経緯を語った。
博物館がクラウドファンディングという手法を選択したことについて、文化政策の研究者で同志社大学教授の太下義之氏は「一般論としては、美術館はもっとクラウドファンディングにチャレンジしていけばいいと思う。ただし、どこが、どういう目的で実施するのかという個別のケースについては是々非々の議論が必要だ」との見方を示した。
リディラバ代表の安部敏樹氏は「芸術はその場・瞬間でお金になることはなく、外から見えないために『キュレーターは遊んでいるのでは』『公金をちょろまかしているのでは』と疑いの目を向けられ、税金を削られてきたのがここ10、20年だ。しかし、実際まったくそんなことはない。むしろみなさん身銭を切って、残業代をつけずに働いている」と実情を語った。
■もっと税金を投入すべきか?
国立科学博物館では、500万点以上のコレクションがあるが、ロンドンの自然史博物館は8000万点以上、アメリカのスミソニアン自然史博物館は1億6000万点あるという。海外の博物館はどのように運営しているのか。
栗原氏は「国費なり寄付金がたくさんつぎ込まれている。資金だけではなく、人件費も桁が違うスタッフが多数いる」と説明した。
国立科学博物館において、入場料は収益の2割、交付金が7割を占める。さらに税金を入れればいいという声に対し太下氏は「本来は国が出すべきだ。国が出さないから窮余の一策でパンドラの箱を開けてしまった。この件は国立科学博物館が5億円を集めたという金額の大きさにフォーカスが当たっているが、もう二度と同じことはできないという点も忘れてはならない」と指摘した。
栗原氏は「今回のクラウドファンディングは科博一人勝ちではない。私どもが持っているコレクションは全部科博のものではなく『地球の宝を守れ』というスローガンの通り、日本各地からお預かりしているものだ。だが、今やそれすらこれ以上預かれないという厳しい状況になってきている。これは科博のみならず日本全体の自然史、科学史研究にも大きな影響を与えざるを得ない」と述べた。
(『ABEMA Prime』より)
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