次々と発覚する大学生の大麻所持問題。大麻取締法違反で検挙される30歳未満の割合は年々増加の一途をたどり、2022年には69.2%にも上る。若者の大麻乱用の拡大、海外での大麻の合法化について専門家と考える。
好奇心や興味本位、知人からの誘いなど、若者が薬物に手を染めてしまう理由は様々だ。若者を狙う魔の手はSNSにも及ぶ。薬物売買のやり取りでは隠語が使用され、“#野菜”は「大麻」、“#手押し”は「対面販売」を意味する。
大麻への誤った認識も広がっている。警察庁が2019年、大麻所持などで摘発した約600人に実施した意識調査では、20代の約80%が大麻の危険性に対する認識が「全くない」「あまりない」と回答した。ネットの誤った情報を鵜呑みにしないように国も注意を呼びかけている。
「大麻が安全である」という誤った認識の背景には、海外での大麻合法化の動きもあるようだ。カナダやウルグアイ、またアメリカの一部の州では嗜好品としての大麻使用が合法化されている。また、医療用に限った大麻の使用が解禁されている国も多く、日本でも医療用大麻の解禁に向けた動きが進んでいる。
こうした中、ネットでは「大麻の合法化は危険」「医療用大麻は賛成だけど嗜好用は反対」「煙草やアルコールはよくて大麻はよくないと言うのは矛盾」など、様々な意見が出ている。昨今の大麻問題について、依存症の臨床と理解をテーマに研究を行っている、筑波大学の原田隆之教授に話を聞いた。
━━大麻が若者に広がっている原因は？
「いろいろな原因があると思うが、最近特に気になるのはSNSなどを使い大麻に対する誤った情報が氾濫していること。それを真に受けて誤った認識が広がっている」
━━大麻を使用するとどんな害があるのか？
「いろいろな害があり、使用後すぐに現れる急性的な害は、感覚に異常が出たり、気分に変化が出たりする。長く使うことによる慢性的な害は、薬物依存が一番大きく、使わないとイライラしたり落ち込んだり、脳の認知機能に影響が出るのが非常に恐ろしいところだ」
━━若者に大麻の危険性をどう伝えたらよいか？
「幸いなことに、世界的に見ると今の日本は薬物使用が非常に少ない。批判はされるが、薬物依存に対するキャンペーンや小中学校等の薬物に関する教育が一定の効果を収めているのではないか。小さいときから正しい情報を伝える、そういった啓発は重要な対策だと思う」
━━大麻使用を合法化している国の状況は？
「解禁や合法化という言葉を使うとインパクトがあるので、『大麻使ってもいいんだ』と思われがちだが、大麻が全面的に合法化されている国は2カ国しかない。全然世界的なトレンドでもなく、国連からも批判されている。一方、医療目的で解禁は多くの国で進んでいる現状。遊び目的で使うのは、世界中ほとんどの国で違法になる」
━━カナダはなぜ合法化したのか？
「いろいろな事情で合法化せざるを得なかったというのが大きな理由だと思う。大麻以外にもたくさんの薬物が蔓延していて、警察にも限界があるのでより重大な薬物の取り締まりに注力するためということもある。また、ブラックマーケットにマフィアが大麻を流通させ資金源にすることを阻止するため、オープンに売買できるようにするという止むに止まれぬ事情があったと思う」
━━SNSなど薬物に手を出しやすい環境がある現代で、若者が手を出すのをどう止めたらいい？
「薬物依存の増加は、薬物へのアクセスのしやすさが重要。インターネットで簡単にアクセスできる現状は非常に心配。規制をするのであれば売人の方を規制して、オンライン上でパトロールして厳しく取り締まることなどが重要だ」
━━厚労省は大麻取締法を改正し、「使用罪」を創設する方針だというが、抑止力になるのか？
「一定の抑止力はあるかもしれないが、使用罪には慎重になってほしい。刑罰自体には短期的な効果はあっても、長期的な効果はない。世界のトレンドでは、薬物使用者を晒し者にしたり、厳しい刑罰を与えるのではなく、むしろ治療や福祉を充実化させていくことが国連総会でも議決されている。日本では今でも薬物使用者をバッシングし社会的に抹殺しようとする動きがあるが、これをさらに加速させるのではないかと懸念している。慎重な議論が必要だ」
（『ABEMAヒルズ』より）
