中国の不動産大手「恒大集団」が、ニューヨークの裁判所にアメリカ連邦破産法15条(チャプター15)の適用を申請したと複数のアメリカメディアが報じた。
恒大集団は不動産の評価損や金融資産の価値の下落などで経営危機に陥っていて、ロイター通信によると、直近では約3300億ドル(日本円で約48兆円)の負債を抱えていたという。
そもそも、恒大集団はどのような会社なのか。ANN中国総局の冨坂範明総局長はこう話す。
「恒大集団は、広東省に本拠を構えている大企業の不動産業者です。私は中国に2回目の赴任になりますが、2013〜2017年頃は恒大集団の調子は非常によかったんです。中国の不動産会社のランキングでは常に上位に入っていましたし、サッカーチームのオーナーになっていたことでも有名です。しかし、2021年頃から急激な事業拡大が原因で、経営不振に陥っています」
経営危機が表面化してから約2年が経っているが、なぜ今になって、債務超過で苦しんでいるのか。
「2年間ダラダラやってきた結果、恒大集団の債務残高は、2022年末には約48兆円に上っていました。破産するんじゃないかという噂はずっとありました。連邦破産法15条の措置は、アメリカの資産を保護するために申請するものです。アメリカの債権をなんとか整理をして、国際的な立て直しのために必要だと判断して、申請したと考えられます」
これまで中国政府はどのような対策をしてきたのか。
「問題が表面化した2021年12月、中国政府の広東省は作業チームを派遣、監督して経営を守ると発表していました。それに対し、中央銀行も『支援する』としていました。また、マンションの引き渡されないことがないように、その支援などもしていました。ただ、金額や具体的な支援規模などは不明で、根本的な解決策が打たれないまま、ここまできてしまったのではないかと思われます」
中国国内ではどのように受け止められているのか。
「消費者は不動産のニュースには非常に敏感になっています。SNSなどの人気ランキングでも『恒大』というワードが上位に入りました。一方で、会社としての正式な発表はなく、批判的な書き込みはすぐ消されているような現状です」
日本でもX(旧Twitter)で話題に上がっている。中には「中国の不動産バブルがはじけたのか?」などの声もあるが、どう見ているのか。
「中国不動産の先行きが悪化しているのはその通りです。今週、中国の70都市で不動産価格の推移を調べたランキングが発表されました。新築では半分以上の49都市で値段が下落しています。また、中古では9割に当たる63都市で価格が下落していました。今月、私は天津市内を取材しましたが、高さ約600メートルに迫る巨大ビルが建設途中のまま放置されているのが印象的でした。このまま価格が下がり続け、マンションの建築が進まなければ、ますます消費者が不安になって買い手がつかない状況に陥る可能性もあります。ただ、中国政府も日本のバブルを研究しています。一気にバブルを潰すのではなく、ハードランディングよりもソフトランディングを目指して、適切なところで止めるのではないでしょうか」
巨大ビル・マンションなどが放置されている風景は、中国のいたるところで見られるという。こういった誰も住んでいない物件は「鬼城(グェイチョン)」と呼ばれる。
中国は3月に全人代が開かれ、習近平国家主席が再選、3期目の新体制になった。習近平政権への影響はあるのか。
「3期目の習近平主席は、自身に近い人間をトップ7に配置し、盤石の態勢を敷きました。一方で『住宅を買ったのに引き渡されない』など、一般の人々の不満が高まってくると、政権運営に当然影響を与える可能性があります。不動産を買った人がちゃんと引き渡されるか、安心して『不動産を買おう』と思えるかどうかが、支持率に直結してくると思います」
消費者の不動産への意欲はどのようになっているのか。
「住宅価格の統計が示しているように、消費者も『買い控えたほうがいいんじゃないか』となっています。急いで買わなくていい人は『少し待とうかな』『今後もっと金利が下がるんじゃないか』と思っています。これまで、中国では人口が増え、農村から都市部にどんどん人が出てきていました。ある程度、たくさん不動産を作っても消化できていましたが、今は人口が減っています。農村でもちゃんと暮らせるようになってきて、無理に都市に出ていかなくてもいい。新型コロナによる不況もあり、需要に対して供給過多になっているのが今の状況です」
2008年のリーマンショックでは世界同時不況になった。今後、世界や日本に与える影響はあるのか。
「不動産は中国経済の“エンジン”です。不動産が売れれば、それに付随して家具や電化製品、車が売れます。それによって、中国経済が回っていました。参入していた日本企業もいます。『中国に投資して大丈夫かな?』というマインドも出てきますし、日本のみならず、アメリカ、ヨーロッパが中国に対する投資を控えるようになると、ますます中国経済が悪くなり、負の連鎖に陥っていくでしょう」
問題解決に向けて、どのような対策を打つべきなのか。
「まずは中国の不動産業界に対する不信を払しょくする必要があります。具体的には、住宅ローンの金利を下げたり、これまで厳しく制限してきた“2軒目”の住宅を買いやすくするなどして、不動産の需要を高めていく政策が求められます」
(「ABEMA NEWS」より)