最年少棋士が飛躍の夏だ。将棋界の早指し団体戦「ABEMAトーナメント2023」本戦トーナメント2回戦・第3試合、チーム稲葉とチーム千田の対戦が8月26日に放送された。チーム千田の藤本渚四段(18)は予選で、対戦当時は名人だった渡辺明九段(39)に勝利するなど今大会で大注目棋士の仲間入りを果たしたが、本戦では井上慶太九段門下の兄弟子・出口若武六段(28)と2局指して2連勝。チームメイトから刺激やアドバイスを受け、少年時代は雲の上のような存在だった兄弟子を相手に、堂々とした指し回しを見せつけた。
予選から大活躍の藤本四段が、本戦でも光った。この試合の自身初戦は第2局。相手はタイトル挑戦経験もある出口六段になった。対局前「僕が奨励会入りしてすぐに三段だったので、雲の上という感じです」と、やや自信なさげなコメント。ところがこれを聞いたリーダー千田翔太七段(29)は「そんなに気負わなくても勝てる相手ですよ。(渡辺)名人、倒してますんで」とフォローした。確かに考えてみれば、少年時代から見上げていた兄弟子よりタイトル31期を誇る渡辺九段の方がはるかに格上。この言葉に背中を押されたのか、藤本四段は後手番から出口六段と相雁木の戦いを挑んだ。18歳ながら受けの強さに定評がある藤本四段は、出口六段の持ち時間が少なくなったことを見越してか、派手な応酬を経て終盤から抜け出し132手で勝利した。
勢いを増した藤本四段が、さらに冴えたのは出口六段と再戦になった第5局。今度は先後が入れ替わると、先手番から相掛かりを選択し、出口六段の雁木とぶつかった。第2局と同じく、序盤から出口六段が持ち時間を消費し、形勢以上に有利に対局を進めると、終盤は白熱の接戦に。最終盤、持ち時間も残り少ない中、打ち歩詰めを回避するおしゃれな手順できれいに即詰みに打ち取り、兄弟子相手に2連勝を飾った。「終盤、なんとか最後に寄せを見つけられたのはよかったと思うんですけど、中盤とか結構反省点が多くありますね」と反省の方が多く口から出たものの、視聴者からも絶賛の声が集まる勝利だった。
連投した第6局は服部慎一郎六段(24)に敗れ、個人としては2勝1敗。チームはフルセットの末にスコア4-5で敗れ、ベスト4進出はならなかった。それでも予選から本戦にかけて、藤本四段の活躍には多くの称賛が集まった。試合後は、「初めてづくしでした。リーダーの千田先生、西田先生がいて、すごく楽しかったです。協力することが大切だなと思いました。将棋は孤独なゲームだと思っていたんですが、人を応援したり、応援されたりは、大切だなと思いました」と、充実の大会を振り返った。先輩たちとの団体戦を通して、公式戦で活躍するようになった棋士も多く出ている同大会。藤本四段がさらに飛躍するとすれば、この経験はきっと活きている。
◆ABEMAトーナメント2023 第1、2回が個人戦、第3回から団体戦になり、今回が6回目の開催。ドラフト会議にリーダー棋士14人が参加し、2人ずつを指名、3人1組のチームを作る。残り1チームは指名漏れした棋士が3つに分かれたトーナメントを実施し、勝ち抜いた3人が「エントリーチーム」として参加、全15チームで行われる。予選リーグは3チームずつ5リーグに分かれ、上位2チームが本戦トーナメントに進出する。試合は全て5本先取の9本勝負で行われ、対局は持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算のフィッシャールールで行われる。優勝賞金は1000万円。
(ABEMA/将棋チャンネルより)