「彼女がいない夏が変な感じがして……。半年が経ったのは頭では理解できるんだけど、自分の人生が2月まででストップしている」
女性同士のカップルとして5年弱、愛犬の珊瑚ちゃんとともに一つ屋根の下で暮らしていた佳さんと美亜里さん。
美亜里さんは、男女の枠にとらわれない性自認をもつXジェンダー。佳さんは、相手の性別に関わらず“好きになった人が好き”というパンセクシャルだ。
異性の夫婦となんら変わらない、仲睦まじい日々を過ごしていた二人。幸せに溢れた日常が突然、終わりを告げる――。
2023年2月7日朝、美亜里さんは職場へ向かう途中、横断歩道で左折してきたクレーン車に巻き込まれ、帰らぬ人となった。
美亜里さんの実の弟とともに、警察署に駆け付けた佳さん。しかし、美亜里さんは即死状態ですでに息をひきとっていた。
「警察の人たちから事故の説明を受けて、『お顔の確認していただけますか』という感じで。(顔を見ると)『もう死んでるんですか』って…」(佳さん、以下同)
急すぎるパートナーの死。佳さんにとって美亜里さんは、唯一無二のあまりにも大きな存在だったという。
「私にはない純粋さに憧れていた。冷めたところばっかりだった私をこんなにこう……。『何か変えられるんじゃないか』と、そういう気持ちを持たせてくれて、私を大きく変えてくれた人だった」
2人には夢があった。日本で同性婚が認められるまでは、叶うことのない夢。
「結婚したいが大きな夢っておかしいよね。でもそういうのが残らないっていうか、家族になれずに死ぬっていうのは辛すぎる」
2020年に、婚姻に相当する関係を認める「パートナーシップ宣誓制度」を利用したものの、これには法的効力はなかった。「法律婚」をしたくてもできなかった2人……。このことが美亜里さんの死後、パートナーである佳さんに様々な影響を及ぼしたのだ。
事故の詳細を知るために警察に連絡するも、親族ではないということで情報は一切教えてもらえなかった。また、21日に開かれた美亜里さん死亡事故の初公判では……。
「私はもう完全に蚊帳の外。弁護士の先生や(美亜里さんの)弟は被害者参加制度を利用して、親族として法廷内で一緒に裁判の経過を見守る、または陳述書とかを読んだり、そういうふうに携われるように打診はしてくれていた」
被害者参加制度とは、遺族であれば、法廷で被告人質問をしたり、意見を述べられるというもの。しかし、佳さんは、法的な配偶者ではないために遺族として扱ってもらえなかったのだ。
「家族として、例外として認めて陳述書を読むなど、前例を作ったら、今後も認めていかないといけなくなっていくということを懸念して」
自ら書いた陳述書は証拠として採用されつつも、佳さん本人が読み上げることはできなかった。また、用意された席も検察側の席ではなく、検察側に近い一般傍聴席。
「遺族に含まれないという気持ちではずっとあった。自分の口で彼女との生活、思い出も語りたかった」
幸せだった夫婦としての生活。二人の中で、法律婚をしていないことに対する、備えなどはあったのか。
「全くしてなかった。ただ、本当に毎日何が起きるかわからないからとか、夫婦じゃないから籍が入ってないからっていうのは、常に頭にお互いあったと思う。本当に起こるとは思ってなかったので……。いざ起こってみたらここまで大変とは思ってなかったし、ここまであまりにも認められてない、完全に他人というのも思ってなかった」
婚姻届1枚の差を痛感することとなった今回の裁判、初公判を終え、佳さんが望むこと。
「私たちのような別れがないことが一番だが、ないとは言い切れない。そういう人たちが結婚できないということを国は考えて、法案だったり、救われる道を作ってもらいたい。私のこの苦しみとか葛藤が無駄にならないように、何かの前例にはなってほしい」
(『ABEMAヒルズ』より)