福島第一原発の処理水放出以降、中国政府は日本産水産物の禁輸措置を取り、日本を激しく非難している。そんな中、中国人による日本の嫌がらせの電話が相次ぎ、訪日ツアーがキャンセルされるなど広範囲に影響が出ている。
【映像】日本への電話「汚染水を飲みましたか?まだ健在ですか?」
中国のSNSでは、福島や東京の飲食店などへ迷惑電話をかける様子を撮影した動画が数多く投稿されている。
「もしもし、なぜ汚染水を海に捨てるかを聞きたい。何を言ってるのかわからない。なぜ汚染水を海に捨てるのか聞いている。きれいなら自分で飲んでみろ。英語は話せるか?」
「こんにちは。あなたたちはどのように過ごしていますか?あなたたちはきのう汚染水を飲みましたか?おいしかったですか?まだ健在ですか?」
(※中国のSNSに投稿された動画より)
機械翻訳による音声読み上げ機能を使い電話をかけているようだ。これらの迷惑行為について中国外務省の報道官は28日、「把握していません。日本政府に対する批判、反対の姿勢は国際社会においても代表的なものです。これについて日本側によく考えていただきたい」と、政府として対応する方針を示していない。
中国が処理水放出に反発姿勢を強める背景について、中国の政治・経済・外交問題に精通する評論家、石 平氏に話を聞いた。
━━中国政府の激しい日本への非難、中国国民の行動をどう見る?
「24日の処理水の放出以来、中国政府が日本の処理水を汚染水だと決めつけて猛反発している。中国共産党系の有力紙『環球時報』も連日、社説を出して日本を批判するなど政府が煽り立てることで、一部の国民は過激な行動に出ている」
「しかし、今回の件で1つ注目すべきなのは、処理水放出から7日経つが実際には大規模デモが未だに起きていないことだ。2005年に何万人もの大規模な反日デモが起きて暴動までエスカレートしたが、今回はそこまで発展しなかった」(以下、石氏)
━━それは何を意味している?
「中国の政府やメディアがこの問題を誇張して日本を攻撃するよう煽っているが、民衆の反応がいまいち盛り上がらない。この批判は最初から無理がある。というのも、国際原子力機関(=IAEA)が処理水の安全性を公表し、日本側も国際機関も科学的根拠を出している一方、中国政府側は何も根拠を出していない。さらに中国に都合が悪いのは、環太平洋の諸国の動きだ。中国政府は処理水が太平洋全体を汚染していくと宣伝しているが、アメリカやオーストラリア、台湾など、中国以外の国や地域は反発しておらず、むしろ中国自身の孤立が目立っている。そうなると、多くの中国国民は馬鹿ではないので『なぜ他の国々は抗議しないのか?』と疑問を持つ。もし本当に汚染水ならば、日本はなぜ日本の海を汚染するのか辻褄が合わない。一部の人は政府の情報を鵜呑みするが、多くの中国人は政府のウソに白けている」
この件について、ノンフィクションライターの石戸諭氏は、「僕も今回は中国側の主張はかなり無理があるという立場をとる。科学的な議論に基づいて協議しようという日本側の呼びかけに応じてこなかったのはあくまでも中国側だ。他の国はそれに応じ、情報共有も進めている。今回の処理水放出もIAEAのチェックも入れている。科学的な争点は全くない。そもそも科学的な問題は決着がついているのに、かなり無理がある主張を中国が繰り返している」と指摘する。
━━中国による日本産水産物の全面禁輸はいつまで続くのか。
「習近平政権は一旦拳を上げたらなかなか下ろさない。禁輸は今後も続くが、中国自身が困ることになる。中国政府は日本の水産物が汚染されているからと禁輸したが、海は繋がっているので、その理屈なら中国で獲れた魚も食べられないことになる。すでに中国国内では、政府の禁輸措置を受けて中国近海で獲る魚も敬遠されている。禁輸が長引くと日本だけではなく、中国自身も将来的に大きな打撃を受けることになる」(以下、石氏)
「また、中国は今後この禁輸措置をカードに、日本が中国に対して行っている半導体の輸出規制解除の交渉材料にしてくる。しかし、おそらくしばらくは禁輸措置を解除しないと思う」
━━中国経済がいま非常に大変な状況にあることが影響している?
「中国バブルはもう崩壊している最中で、特に中国政府にとって一番危機感があるのはやはり若者たちの失業問題だ。中国国家統計局が公表した数字では、16~24歳までの若年層の失業率が、21.3%と前代未聞だ。7月に公表をやめたが、北京大学の副教授の調査では『すでに46%を超えるだろう』というデータもある。政府は国内で爆発寸前な不満の矛先を日本に向けたい狙いだろう」
━━4月以降、外国企業からの直接投資などが大幅に減っているが、これをどう見るか?
「中国経済は消費不足の中で、経済成長の頼りが外国への輸出だが7月で前年同月比14.5%減、成長の大きな原動力の1つである海外からの投資が4~6月期で前年同期比約9割減、さらに中国経済の崩壊を象徴的に示している数字が人民銀行の新規融資で、前月比約9割減っている。企業がもう生産、設備投資をやめて意欲を失っている」
━━日本はどのように対応していくべきか。
中国の禁輸措置への対応について、石戸氏は次のように話す。
「短期的に見れば、中国が禁輸措置を止める要素がない。今後も交渉を続けていくときに外交ルートでは難しいと思うので、国際的に、淡々と自分たちの法的な正当性を訴えていくのが良いと思う。また、本来中国に輸出するはずだった物が国内に余ることになるので、それに対する支援や新しい販路を開拓、国内で消費するなど、中国への依存を減らしていってほしい」
(『ABEMAヒルズ』より)
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