京都アニメーション放火殺人事件で5日、殺人や現住建造物等放火など、5つの罪で起訴された青葉真司被告の裁判員裁判の初公判が京都地裁で行われた。
【映像】社員36人が亡くなった「京アニ」スタジオ(当時の様子)
起訴状によると、青葉被告は2019年7月18日、京都アニメーションのスタジオにガソリンをまき、火を付けて社員36人を殺害し、32人に重軽傷を負わせたなどの罪に問われている。
裁判の一番の争点は「被告の刑事責任能力の有無」だ。検察は冒頭陳述で「被告には完全責任能力があった」と強調。一方で、青葉被告の弁護側は起訴内容を認めた上で「犯行当時は心神喪失状態で責任能力がなかった」として無罪を主張している。
医師とともに助手として精神鑑定に携わった経験を持つ、臨床心理士・公認心理師の藤井靖氏(明星大学心理学部教授)は、こう話す。
「これから精神鑑定における“本鑑定”が行われるだろう。責任能力は『弁識』(善悪の判断)と『制御』(判断に基づき行動を決める)の2要因からなる。弁識に基づき、自分の行動をコントロールできたかどうか。医師は主に精神障害の有無を見極め、心理職は、いわゆる心理検査を行う。知能レベル、性格傾向、行動特性、認知機能などを医師とともに査定し、症状が犯行に及ぼした影響を分析する」
「だいたいは2~3か月ぐらいで行うが、重大事件になればなるほど、複数の専門家が関わることになる。それぞれが独立した判断をして、実際に『刑法第39条』(心神喪失の人がした違法行為は『罰しない』、心神耗弱の時は『刑を軽くする』と定めたもの)に該当するかどうかは、裁判官の総合的な判断になる。私たちは、その材料を提示する」
藤井氏によると、最近の傾向として「殺人等重大な事件に関しては特に、心神の喪失や耗弱は認められにくくなっている印象がある」という。
「私が資格をとった20年ほど前は、例えば『統合失調症』という診断名がつくと、責任能力がないと判断されることが多かった。最近は、もしその症状があったとしても、実際の犯行の中身を見ていくと『症状が影響を及ぼしているところはあるけれども、それだけでは全てを説明できない』という見方をされることが多くなっている」
青葉被告の責任能力についてはどう思うか。
「今は後悔の念があって、物事を理解して発信する能力があったとしても、過去にどうだったかは分からない。例えば、包丁やガソリンを事前に買っていた事実があるが、そこに病気の症状である幻覚・幻聴が関係していて、弁護側が主張する『闇の人物』に『買え』と言われたと思い込んだとしても、それをどう使うか。自分を傷つけるか、埼玉県の大宮で事件を起こすか、京都アニメーションで放火するか。選択肢がもしあったとして、その中から選んだ行為は『判断する力がある=責任能力あり』と判断されることが多い。『盗作された』など妄想があったとしても、それだけで無罪ということにはならない」
「私がどう思うかではなく、今の状況や明らかになっている事実からして、心神喪失と判断される可能性は低い。おそらく、弁護側も心神喪失を主張しているが、実際の狙いどころは心神耗弱ではないかと思う」
中には、不遇な環境で生活し、医療関係者から声をかけられて心を取り戻していったという報道もある。青葉被告の心の動きをどう見るか。
「特に人との関係を構築する中で、医療関係者が自分のために全力で治療してくれたことは、青葉被告にとってプラスの体験であることに間違いない。ただ、それが改心みたいなものに繋がるかどうか。これだけ重大な犯罪を起こした被告が短期間でそこまで至るかどうかは少し難しいと思う」
同事件では殺人事件の犠牲者数として、平成期以降最多の死者数を記録した。遺族の心のケアをどのように考えるか。
「強い処罰感情は、当然持つでしょう。それを反映した裁判にもなる。一方で、被告の処遇関係なく、被害者の遺族に対してどのようなサポートをしていくべきか。これもきちんと考えていく必要がある」
裁判は今後、143日間の長期間に及ぶ予定で、判決は来年1月25日に言い渡される予定だ。(「ABEMAヒルズ」より)
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