10月7日、東京・大田区総合体育館の「3150FIGHT vol.7」で、ワタナベジム所属のWBCミニマム級暫定王者、重岡優大がWBC正規王者のパンヤ・プラダブスリ(タイ)と、IBFミニマム級暫定王者の重岡銀次朗がIBF正規王者のダニエル・バラダレス(メキシコ)との団体内統一戦に挑む。いまだ無敗の“最強兄弟”が6日、記者会見を開いて正規タイトルにかける熱い思いを語った。

 優大の潔い言葉が兄弟の澄み切った心をよく表わしていた。

「心境はいろいろあったけど過ぎたことに興味はない。リングの上でやることは決まっている。楽しみにしていてほしい。WBCから指令がきて、どちらも逃げも隠れもできない。日時と場所も決まった。どちらが正規の王者かを決めたい」

 パンヤ戦が実現するまでには複雑な経緯があった。まず、4月に日本での対戦が決まりながら、パンヤがインフルエンザに感染して試合1週間前にキャンセルが決定。優大は急きょ代役に指名された元WBO王者のウィルフレド・メンデス(プエルトリコ)に勝利して暫定王者となった。

 その後、回復したパンヤは優大ではなく、同じ日本の田中教仁(三迫)とタイで防衛戦を行って勝利。リモートで記者会見に出たパンヤは「試合から遠ざかっていたので調整的な意味で防衛戦を行った」と言ってのけたが、優大にしてみれば「なぜオレとやらないのか」という憤りはあったとしても当然だろう。

 そして日本側は8月の日本開催をタイ側に再度申し入れたものの交渉は成立せず、興行権は入札によって争われた。そこで3150FIGHTはミニマム級としては異例の金額と言える21万3000ドル(約3150万円)を提示して落札。亀田興毅ファウンダーは「こっちもプロモーターとして戦っている」とこの試合にかける意気込みを示した。

 優大がこうした経緯を「過ぎたこと」と涼しい顔で言ってのけるのは、裏方の奮闘を知っているからであり、だからこそ結果で恩返しするために試合だけに気持ちを集中しているということだろう。そして何より、世界チャンピオンでありながら世界チャンピオンでないとも言える「暫定」という状況に、自らの拳で終止符を打とうという強い決意が兄弟の目を試合だけに向けさせているのだ。

「暫定チャンピオンというのにすっきりしていないのは自分」(優大)

 銀次朗も暫定という肩書きを心ならずも引き受けることになった。こちらは1月、バラダレスに挑戦した一戦は3回に偶然のバッティングにより無念の無効試合に終わった。すぐに決着をつけるべく再戦を希望したが叶わず、4月にレネ・マーク・クアルト(フィリピン)を下して暫定王座に就く。そして8月、バラダレスとの再戦が決まったものの、今度は銀次朗が脚を負傷して試合は延期に。銀次朗のけがが回復する見通しが立ち、ようやく10月7日というスケジュールが決まった。

 さて、重岡兄弟は同時に正規チャンピオンのベルトを獲得できるのだろうか。試合の行方が比較的予想しやすいのは一度対戦している銀次朗とバラダレスの一戦だろう。1月の試合は銀次朗がペースをつかみかけた3回、偶然のバッティングで両者の頭がぶつかり、これが原因でバラダレスが試合を続けられないと訴えて試合は終わった。再戦でもバラダレスの頭の低さは一つのポイントになると見られる。

 試合展開について銀次朗は「1ラウンド目から打ち合いになるとは思っていない。バラダレス選手は頭が危ないのでそこも冷静に戦いたい。4月の試合でも1ラウンド目にダウンした。もっと冷静に戦わないといけない。冷静に1ラウンドからプレッシャーをかけ続けたい」と静かに答えた。

 冷静さという言葉は確かにキーワードとなりそうだ。4月の暫定王座決定戦で銀次朗は、相手のクアルトが振り回してくる選手と分かっていながら初回にパンチを浴びてダウンを喫している。ダメージはそれほど深くなく、最終的に9回TKO勝ちしたのだが、命取りになりかねないシーンだった。銀次朗の発言が慎重になるのも無理はない。

 一方、優大が挑戦するパンヤはこれまで世界王座を4度防衛しており、チャンピオンとしての評価はバラダレスよりも高い。まとまって安定感のある王者が相手だけに、優大も「チャンピオンとしてリスペクトしている」とパンヤに敬意を示した。

 試合の中身については多くを語らなかった優大だが、「僕のボクシング人生にとってここは通過点。この試合に勝ってさらにレベルアップして強くなるだけ」とも口にしており、安定王者を撃破する自信に揺るぎはない。

 ともに団体内統一戦という大一番であり、手堅い勝利が求められている。それゆえか、この日の重岡兄弟はいつもに比べてビッグマウスが少なかった。それでも、勝利の形を問われると、「KOします」(優大)、「僕もKO宣言で」(銀次朗)と口をそろえるあたりに、幼少のころから世界王者だけを夢見て厳しい練習を積み重ねてきた最強兄弟のプライドを感じさせた。当面の兄弟の目標はミニマム級の4団体のベルトをすべて重岡家に集めようというもの。そのための第一歩が正規タイトルの獲得、「暫定」からの脱出だ。

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