もはや「二足のわらじ」「二刀流」というような生易しいものではないかもしれない。将棋界の現役棋士でありながらプロ雀士となり、しかも1年目からMリーガーになった鈴木大介(連盟)の力強さは、麻雀ファンの多くが知っている。アマチュア時代に麻雀最強戦のタイトルを取り、短期決戦の強さは周囲も舌を巻く。「限界まで行くのが自分の麻雀」と、プロになってもスタイルは崩さない。多くのプロ雀士がその存在を脅威に感じる黒船・鈴木大介が、1年目から猛威を振るう。
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-プロ雀士になってまもなく、Mリーガーになった。率直な感想は。
鈴木大介 ユニフォームに袖を通すと「この格好で試合をやるんだな」と、緊張感もありますし、いよいよ試合が近づいているんだなと改めて思いました。
-日本プロ麻雀連盟に入ると発表されてからここまで駆け足だった。
鈴木大介 人生は何があるかわからないですね。日本将棋連盟の役員を辞めて、さあ次は何をやろうかというスタートで、周りに勧められて麻雀プロになって、大きな一年だったんですけど、こういった形で1年目からMリーグに出られるということで、自分の人生ではないみたいですね。
-改めて麻雀プロになろうと決めたのは
鈴木大介 今年に入って3月か4月ですね。それまではプロに対する憧れはあった。
-改めてプロ雀士としての肩書き、重みについては。
鈴木大介 今までは心の中で「アマチュアだから」というのがあって観戦者だったんですけど、これからはプロになったので、麻雀自体をどう見せるかということをちゃんと考えないといけないですし、心構えが大きく変わりましたね。
-二刀流ということになるが、麻雀プロだけで生きてきた選手からは負けられないという声も。
鈴木大介 たぶん自分が逆に将棋界で同じような形で人が入ってきたら、意識すると思うので、それがプロの方だったら当たり前だなと思います。こればっかりは戦っていく中で自分の力どう評価されるかというのが大きくて、プロの中に入って戦ってしまうともう肩書きは関係がないので。これからは結果で証明していくというか、自分自身がプロに憧れてチャレンジしたので、実力で道を切り開いていくと思います。
-プロになってから戦い方は変わるのか。
鈴木大介 基本的にアマチュア時代と変わらないのは「勝ちに執着する」ということ。いつまで経っても諦めないこと。もちろん目標はトップなんですけど、諦めないところが僕の長所です。プロに入ってから先輩方と練習をさせてもらって、大人しめに打とうかなと思ったりしたこともあったんですけど、やっぱり初心に帰って、まずは自分の雀風をぶつけていくというのは変わらないと思います。アマの時は「負けてもしょうがない」というのがありましたが、プロになると結果が出ないのは「しょうがない」では済まない。
-麻雀歴については。
鈴木大介 覚えたのは子供の時からの家族麻雀ですね。お正月とか親戚の家に行って、卓が立っていたんで。10代の学生時代からですので、もう30年以上ですね。
-麻雀のここが楽しいから続けてきた、というのがあれば。
鈴木大介 違うところと似た部分があって、一番違うのは、将棋は完全情報ゲームで、最善手を追い求めるゲーム。麻雀は不完全情報で、駆け引きとか運の要素とかいろいろある上に、1対1じゃなく1対3。そこが一番違うかなと。
一方で自分が培ってきた将棋の洞察力とか、対人での駆け引きだとかそういうものはあまり麻雀に関わらず同じだと思っているので、そこは自分の強みなのかなと思いますね。
-Mリーグは過去5年開催されているが、見ていたか。
鈴木大介 もうほとんど毎回見ていて、見られない時はABEMAプレミアムに入って見ています。最初から自分が追い求めている最強の麻雀とはちょっと違う、洗練された麻雀になってきている印象があります。
20代までは牌効率を追い求めていて、30過ぎてからは力強さというか抜け出す強さ、突破力ですかね、それを一番の大事なものとして麻雀を捉えています。今のMリーグはそういうところに違いを感じます。どんどんレベルが上がってきているとも思いますね。
-既存のチームではなく、新しくできるチームに入る。
鈴木大介 かえって良かったかなと思っています。自分の完全な腕試しで年齢的にもそんなに長くいられるわけではないですし。アマチュアの時から、皆さん同じだと思うんですけど「自分が一番強い」という思いでやってきた。ある意味新しいことに殴り込みに行く、というわけじゃないですけど、入って暴れてやろうという気持ちがある。新チームで、色がついていない、フラットな状態で戦えるというのは良かったかなと思います。
-チームメイト3人については。
鈴木大介 猿川さんとか菅原さんは将棋も結構趣味でやられていて、プロ入りする前からセットとかで打たせてもらったりもして交流があった。猿川さんは本当にチームリーダーとして頑張っていると思いますし、菅原さんもオーディションを見てもプロの中でも勢いに乗っている。自分自身と中田さんとはある意味では外来じゃないですけど、二刀流で似たようなところがあって、切磋琢磨して一緒に強くなっていきたいと思います。
未知数であるということが私と中田さんの魅力であり、チームとしても推せるところなのではないかと思います。
-戦いたい相手については。
鈴木大介 2人いるんですけど、1人は自分のリスペクトしている佐々木寿人さん。速くてフォームが崩れず攻撃的。自分も速く打って攻撃的なのは一緒なので、打ち負かしたいというか、打ち合いでいいところまでひるむことなく、自分の方がより強い麻雀を打てるように頑張りたいと思います。
もう1人は渡辺太さん。今、将棋界はAIなくしては語れない状況ですけども、麻雀界もだんだんそういう波が来て、ネット麻雀の渡辺さんが入られた。渡辺さんと自分は麻雀では対極に位置する人だと思います。私は対人ゲームとしての麻雀のプロと思っているんですけど、渡辺さんはゲームとしての麻雀、牌効率であるとかのうまさがあって上がってきた人だと思う。どちらが正しいというのは、究極的に言えば「ない」と思うんですけど、自分と対極にいる人と打ってみたいと思います。
-個人の目標、チームの目標については。
鈴木大介 具体的な数字は考えていなくて、できるだけ勝つ。常に100万点目指してスタートしていて、それが無理でも東1局、最終形のリーチは絶対必要打ちます。限界まで行くというのが自分の麻雀。目標は作っていないですが、Mリーグの1つの目標としてやっぱり団体戦というのがあるので、少なくともチームのプラスポイントを作って貢献したい。
麻雀の環境が変わって、一番いけないのは自分の麻雀がブレるというか、今までの麻雀を失ってしまうこと。まずは当たって砕けろじゃないですけども、自分の形で打つ。これがプロ入りする時の動機でもあった。
-鈴木さんといえば「短期決戦に強い」という評価。長期のMリーグで戦う上の切り替えは。
鈴木大介 仲間内のセットの麻雀ですとやはり2回勝負より5回や10回と打つ方が、結果が出やすいので有利だとは思っています。プロの方というのはリーグ戦には慣れているので、着を拾いに行ったりとか、4着の時に1つでも上を目指すとかそういうことになると思います。その勉強をプロになって最初にしようと思ったんですが、やっている最中に思ったことが「自分の持ち味が消える」ということです。自分はMリーグでも素点で勝負しようかと思っています。4着の時にあがいて3着は取りに行きません。基本的には満貫の手ができれば普通にアガリに行きますけど「アガリ目も何もないから鳴いて1000点」ということはいくらチームプレーでもしないと思います。
トップを取る時に2回分のトップを取るつもりで、素点で勝負。自分のプレーがどちらかというと一気に攻めるという麻雀なので、その持ち味を消さないように、あんまり着順にはこだわらない打ち方をしてきたいと思います。人に差し込むというのが技術ではありますが、おそらく自分はよっぽどのことがない限り差し込んだりはしないと思います。
-麻雀プロになって将棋の弟子(梶浦宏孝七段)の反響は。
鈴木大介 弟子はびっくりしていました(笑)。最近会ったら、髪型がすごく変わりましたねと。「別の人生を歩み出したんで」って(笑)。麻雀好きな他の先生(棋士)からも「見て応援します」という人が多くて、将棋プロの中でも麻雀プロになる人が何人か出てきてくれるといい。もしかしたら5年後にMリーグに将棋連盟チームがあるかもしれないし、その時は移籍も考えなくちゃいけないですね(笑)。
◆Mリーグ 2018年に全7チームで発足し、2019-20シーズンから全8チーム、2023-24シーズンからは全9チームに。各チーム、男女混成の4人で構成されレギュラーシーズンを戦い、上位6チームがセミファイナルシリーズに進出。さらに上位4チームがファイナルシリーズに進み優勝を争う。優勝賞金は5000万円。
(ABEMA/麻雀チャンネルより)