生き別れた兄弟姉妹 “捜さない”選択をして50年「向こうが幸せだったらいいが、そうじゃなかったら…」 互いの意思を確認する方法は? 当事者に聞く
【映像】15年ぶりに姉と再会したオサムさん、2人の写真の数々
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 年間18万組のカップルが離婚する時代。その陰でさまざまな事情で苦しむ子どもたちがいる。

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 生まれてすぐに両親が離婚した、オサムさん(23)。1つ年上の姉とともに、一旦は母親に引き取られるが、間もなく母親が育児放棄。姉弟はそれぞれ別の施設に預けられた。転機が訪れたのは中学生の時。母方の祖父母の元で暮らすことになり、そこで思いもよらぬ事実を告げられる。

「おじいちゃんから『そういえばお前、お姉ちゃんおるって知ってるか?』と急に言われて、『いや、知らない』と。正直嘘だと思っていたので、最初は適当に聞き流していた」(オサムさん、以下同)

 突如知らされた姉の存在、そして今は父方の祖父母の元で暮らしていると告げられた。さらに、「『今から電話かけるわ』と言って、そこで初めて自分の姉と通話をして。『お姉ちゃんやけど…』って始まって、僕も『ああ初めまして』ってめちゃめちゃよそよそしい感じで。急にお姉ちゃんと言われても実感が全く湧かなかった」。

 それからしばらくして、SNSでオサムさんを捜し出した姉からDMが届いた。「『こないだ電話で話した◯◯やけど覚えてる?』『今度2人で会おうや』と言われて約束して。その前にも『一度直接会おう』という機会があったが、怖くて行けなかった。ダイレクトメッセージを送ってくれて、それがなければ一生会っていなかったかもしれない」。

 そして、2人は15年ぶりに再会した。オサムさんは「会ってみたら思ったより自分の顔に似ている人で、ほんまに姉貴なんやと思って」。それからは、これまでの時間を取り戻すかのように一緒に過ごすように。今でも頻繁に連絡を取り合う中だという。

「なるべく自分たちの境遇は明るく捉えるようにしていて。15年も離れていたからこそ、これぐらいの距離感でいられるんじゃないかなと。そういった意味では離れてよかったかもしれないし、もっと一緒にいればほかの形でいろんなことができていたんじゃないかな。どちらにしても難しい」

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 2人は今、YouTubeやTikTokで顔出しの発信も行っている。

「自分たちの生い立ちがあまりないことだと思った。TikTokに投稿したら思いのほか反響があって、コメントの中で同じ体験をしたという方が思いのほか多く、そういった方に少しでも明るく、同じような境遇の人が他にもいるということを届けられればという気持ちで始めた」

 両親については今どんな思いを持っているのか。

「『離婚する』、その結果は仕方がないことだと思うし、いろんな事情があって子どもを手放すことになった。両親もきついのはわかるが、何も知らない子どもが一番つらい。やはり小さい頃から一緒にいて何でも話せる存在であったほうがいいかなと思う」

■「正直、会うのが怖いというのが本音かもしれない」

 一方、生き別れた兄弟をあえて捜さずにいる人もいる。50代のやのがくさん。4歳の時に親の離婚により弟と生き別れた。やのがくさんは母方の祖父母の元で暮らすが、弟が誰に引き取られ、その後どこでどのように暮らしているのか一切の情報を持っていない。

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「弟と一緒に過ごした記憶はほとんどない。おじいちゃんとおばあちゃんの家に引き取られた後に、おもちゃ箱にソフトビニールの人形が2体あって、足の裏に僕の名前ともう1人別の名前があった。『それがお前の弟の(名前)だよ』というふうに後から聞かされてわかった感じだ」(やのがくさん、以下同)

 弟の存在を知ったままの50年はどういうものだったのか。

「まず自分がちゃんと食べて生きていけるということが第一前提としてあるので、そこに一生懸命でいたというのが正直なところ。(捜す)余力がなかったのかもしれない。(弟の状況は)心のどこかで確定させたくないというのがあるのかもわからない。幸せに生きていたら全然OKだが、そうではなくいろいろ苦労していたりつまずいていたりするのは望んでいないこと。そんな彼に差し伸べることができる手は限られていると思うので、正直、会うのが怖いというのが本音かもしれない」

 いつかは会ってみたいのか、それとも死ぬまで会わなくていいのか。

「やのがくの“やの”というのは、両親が離婚する前の父方の苗字だ。アカウントにやのとつけた時点で、“ひょっとすると(両親の)離婚前の人生がシミュレーションできるんじゃないか”という思いでつけた。SNSで生い立ちを発信しているということは、『捜さない』とは言いながらも、心のどこかでチャンスを求めているのかもしれない」

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 両親に対してはどのような思いがあるか。

「離婚したのは、おそらく(父親・母親が)10代後半~20代前半くらいの時だ。自分がその年齢になった時に“まだまだ幼いな”という気持ちだったので、そういう選択はあってもいいのかなと思っている。ただ、当然子どもは不可抗力で巻き込まれるわけなので、そこのケアは大人になってみればすごく大事だと感じている」

■生き別れたきょうだいの捜索は個人では困難、リスクも

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 生き別れたきょうだいを捜す場合、「個人では限界がある」とさくら幸子探偵事務所の探偵・姉崎一美氏は話す。「戸籍謄本に兄弟姉妹の名前が記載されていないケース」「名前がわかっても現住所を知るためには関係者に地道に話を聞いていく作業が必要」「施設に預けられていた場合は個人情報のため教えてくれない」ケースなどがあり、注意が必要だともしている。また、相手が「兄弟姉妹がいること」を知らなかった場合は困惑したり、相手が新たな家庭を持っていた場合にはアウティングにつながりトラブルに発展する可能性もあるという。

 オサムさんは「おじいちゃんの中でも思うところがあったとは思うが、ワインを飲んで酔っ払ってたまたまカミングアウトしてしまった。隠されていた事実に対してはめちゃくちゃ怒って、『僕には全く非がない。そっちに非がある』とすごく責めた。ただ、向こうも向こうで、これだけ年月があった後に会わせることに恐怖があったみたいだ。姉と会って思うのは、距離感が友達以上であること。友達には言えない悩みなども気軽に相談できるし、年代が近い家族と遊んだり会話できるのは、すごく嬉しいし楽しいことだ。そういった存在がいるといないとでは全然人生は変わってくると思うので、早いうちにカミングアウトしてほしかったと思う」と話す。

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 やのがくさんは「(相手が拒否するケースは)自分も常に思うところがある。そこがなかなか踏み込めない。ただ、自分が望む・望まないに関わらず引き剥がされたということであれば、将来再会するタイミングも突然訪れるのかもしれない。天に任せているような、ちょっと無責任かもしれないが、そういう思いが少しある。きっといずれ周りや環境が変わってくるので、そのタイミングを待つのも大事かなと思う」と自身の考えを述べた。(『ABEMA Prime』より)

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