千葉県・柏市の総合格闘技道場「パラエストラ柏」。ここで練習を行う一人の男、総合格闘家・征矢貴(28)。MMA(=総合格闘技)で通算12勝5敗。9月24日にさいたまスーパーアリーナで開催される『RIZIN.44』に出場予定のフライ級ファイターだ。
彼には、こんな呼び名がある。「松戸の不死鳥」。実は征矢、原因不明の難病により過去2度にわたり長期休養を余儀なくされている。それでもリングへ舞い戻り闘う理由と、格闘技への思い。そして、1週間後に迫ったRIZINへの挑戦に迫った。
【映像】食事、練習、休息 “不死鳥”征矢貴の一日(ぬいぐるみを抱きしめる姿も)
千葉県松戸市出身の征矢。15歳で総合格闘技の門を叩いたという。負けず嫌いな性格で文字通り格闘技漬けの日々だったそうだ。
「学校終わったら、ボクシングジムで練習して。それが終わったら家帰って夜にはMMAの練習。それが終わったらウエイトトレーニングでした」
努力が実を結び、アマチュアの大会で実績を積み上げた征矢は17歳の時に当時最年少でプロのライセンスを取得。格闘家としての道のりは順風満帆なものだった。しかし2017年、22歳の時に征矢の体を異変が襲う。
「最初はシンプルに『トイレ近いな』みたいな。トイレに行っても便意はあるけど、実際には出ない。そこからだんだん腹痛も酷くなってきて熱も出た。体が熱い、だるいというか」
征矢を襲った異変の正体は、腸などの消化管に炎症を引き起こす原因不明の難病「クローン病」。10~20代の若者によく起きる病気で、男性の方が多く発症、腹痛や下痢、体重減少などが生じるという。2021年度時点で国内に約4万8320人の患者が存在し、今も完治させるための根本的な治療法は見つかっていない。
「ひどいときは食事も食べられないです。最後は水も飲めない状態でした」
2018年1月に休養を発表し治療に専念することになった征矢。それでも、格闘技への情熱が消えることはなかった。
「格闘技以外の道を考えていなかったのでやっていけるというか、『これしかないぞ』と自分に言い聞かせていた」
そこから驚異的な回復を見せ2019年6月、RIZINという大舞台で格闘技に復帰。2年ぶりの復帰戦で見事KO勝ちをおさめた。クローン病と戦いながらリングへ。「前例がないからこそ、かえってモチベーションになる」と語っている。
2019年の復帰以降、RIZINで白星を重ねた征矢。しかし、またしても試練が。2020年、「ヘルニア」と「脊柱管狭窄症」を発症。再びリングから離れることに。さらに2021年、クローン病が再燃したという。
「再燃したときは入院レベルで悪くなってしまって…。正直、この時はきつくてとにかく健康になりたいと思って神に祈っていたのを覚えています。『格闘技とかはいいからご飯を食べさせてくれ』とか、とにかくお腹が痛かったから『お腹痛いのをどうにかしてくれ』と考えていましたね」
そんな征矢の心の支えとなっていたのが、亡き妻の存在だ。21歳の若さで「急性骨髄性白血病」で帰らぬ人に。生きることを最後まで諦めなかった姿が今も目に焼き付いていると話す。
「年齢は若かったけど、人として強い存在だったなと。僕も強い人を目指しているし、そこはかなり影響を受けています」
そして、何よりの支えとなったのがファンの存在だ。
「『征矢の試合が見たい』と言ってくれる人がいて。入院したときにメッセージを頂いたりというのがたくさんあったので『リングに戻るぞ』という気持ちだけは消えなかったですね」
約2年半に及ぶ療養生活後2022年4月、再びRIZINの舞台に戻りKO勝ち。試合後の征矢がファンに向けて言ったのが「僕は“不死身”」という言葉だった。
現在は薬に頼らず食事療法をとっているという征矢。クローン病発症以降、食事には特に気を使うようになったと話す。
「消化に負担がかからないとように、一口食べて箸を置いたりというのを意識して、体や腸に負担をかけないようにしています」
そして9月24日、自身5度目となるRIZINの舞台へ。征矢にとってはじめてとなる“格闘技の聖地”さいたまスーパーアリーナでの一戦だ。自身が活躍することで、クローン病やほかの病気を抱える人の希望になりたいと話す征矢には、もう一つ、リングに上がる理由がある。
「RIZINのチャンピオンになりたい。今年こそはという思いはある。ネガティブになった時期もあったけど、情熱だけは消えなかった。炎で例えたら、限りなく小さくなった時はあるけど、消えはしなかったです」
“松戸の不死鳥“征矢貴。魂の炎が燃え尽きるまで、何度でもリングに舞い戻る。
「僕が活躍することによって『勇気をもらえた』とか『同じ病気ですけど僕も頑張ります』といった(メッセージ)はとても大きなモチベーションの一つです。クローン病で入院しても治してきたという経験もあって『何回再燃しても俺は戻ってやるぞ』くらいの気持ちで今はいるので、KO勝ちを期待していてください」
(『ABEMAヒルズ』より)
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