9月24日(日)さいたまスーパーアリーナで開催された「RIZIN.44」。今大会で組まれた唯一のキックボクシングルールで安保瑠輝也が宇佐美正パトリックから2度のダウンを奪って判定勝利した。
昨年末にK-1からの離脱を表明し、2月のBreaking Down出場を経て、キックボクサーとしてRIZINに活躍の場を求めた安保。RIZIN初参戦となった5月「RIZIN.42」では元K-1MAX世界王者ブアカーオ・バンチャメークと対戦するもドローという結果に終わっていた。
安保はK-1時代から因縁が続く木村"フィリップ"ミノルとの対戦をアピールしていたが、木村は6月の「RIZIN.43」に出場した際のドーピング検査で陽性反応が出て、RIZINから半年間の出場停止処分を受けることに。
最終的に安保は木村の弟分で、アマチュアボクシング高校6冠の実績を持つMMAファイターの宇佐美正パトリックと対戦することになった。安保と宇佐美は記者会見からトラッシュトークを展開し、前日計量でも額をつけてのにらみ合いと一触即発の乱闘騒ぎを起こすなど、不穏な空気のまま試合当日を迎えた。
試合は元K-1王者の安保にキックデビュー戦の宇佐美が挑む図式で、1Rは宇佐美がアマチュアボクシング仕込みのパンチで安保を攻め込む場面を作る。しかし2Rに入ると、安保が三日月蹴りでボディを効かせて試合の主導権を握ると、3Rに右フックで先制のダウンを奪う。
ここから試合はローブローやクリンチが続き、安保のセコンドによる暴言も重なり、安保に警告が出される荒れ模様に。終了間際に安保が三日月蹴りでダウンを追加して、判定勝利したものの、KO勝利を収めることはできなかった。
試合後にリングサイドで試合を観戦していた木村がTシャツを脱いで安保に中指を立てて挑発。安保も木村をリングに呼び込もうとするが、RIZIN榊原信行代表がそれを許さず。安保の木村へのアプローチは不発に終わった。
RIZINキック部門のエースとして期待される安保だが、まだK-1時代ほどのインパクトは残せていない。
木村との対戦についても、榊原代表は前日計量後の囲み取材で「もしミノルが出てきて安保と大晦日にやるとなっても、それがTHE MATCHのように大フィーバーになるかと言ったらならない。アンダーカードの下の方にしか組めないカード」と厳しい発言。RIZINで木村にオファーする場合は、木村の出場停止処分が明けて、ドーピングテストをクリアすることが大前提という姿勢を一貫している。
安保自身「今回は自分を魅せる・自分のパフォーマンスを出すことを意識して、楽しめることができた」と試合を振り返る一方、今後の展望については複雑な心境を明かしている。
「(今後の展望は?)本当は木村ミノルをリングに上げて対戦をアピールしたかったんですけど、榊原代表からNGが出たんで展望がなくなっちゃいました(苦笑)。またMMAファイターと立ち技でやってもしょうがないし、それは自分がやりたいことじゃない。これからもRIZINでやるのか。他の団体でもやるのかも含めて考えたいです。
木村ミノル戦は自分がK-1でやり残したこと。それをRIZINでやったら面白いと思っているけど、自分は求められていることをやりたいし、求められていないならやらない。他の相手を目指していくことになると思います」
その言動で試合以外の部分がクローズアップされることが多い安保だが、K-1時代の67.5kgから70kgに階級を上げたばかり。本格的に70kgの身体を作るには時間もかかる。
またキックボクシング初挑戦だったとはいえ、アマチュアボクシングエリートの宇佐美からパンチでダウンを奪ったことは、継続して続けているボクシング強化の現れでもある。今回の宇佐美戦は競技者としての安保の成長を見ることができた試合だ。
今後の展開に関しても安保がRIZINで戦う相手は木村戦だけではない。RIZINにはRISEやシュートボクシングをはじめ様々な立ち技格闘技団体から選手が出場し、古巣のK-1も新体制下で開国宣言しており、RIZINでしか出来ない夢のカードが出てくるはずだ。
「キックはキックでしか伝えられない魅力があると思うし、分かりやすい打撃戦で、総合とは違う空気感を創ることが出来る。順位決定戦とは違うスーパーファイトのようなカードが組めればやっていきたいし、RIZINのなかでキック渇望論をどう作り出していくのか。当面どこまで安保が引っ張っていけるかだと思う」とは榊原代表の言葉。
安保がRIZINキックのエースとして道を切り開くかどうかは、安保自身の拳にかかっている。
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