IBFフェザー級2位決定戦が7日、東京・大田区総合体育館の「3150FIGHT vol.7」のメインイベントで行われ、元2階級制覇王者でランキング5位の亀田和毅(TMK)は8位のレロト・ドラミニ(南アフリカ)に1-2判定負け。残念な結果を突きつけられた。
試合を終えた亀田はすぐさま報道陣の前に姿を現わし、記者会見に応じた。努めて冷静に、サバサバと。しかし、上半身は裸のままというのが、亀田の揺れる心を表わしているようにも感じた。IBF2位の座を獲得し、強さもしっかりアピールして来年の世界挑戦につなげるというプランが大きく崩れたのだ。悔しくないわけがなかった。
さらにその先、フェザー級チャンピオンとなって世界最高ボクサーの一人、将来的にフェザー級に上げるであろうスーパーバンタム級2団体統一王者、井上尚弥(大橋)と対戦するという野望も遠のいた。会見の途中、亀田は「この場を借りて言わせてほしい」と前置きして次のように話した。
「試合前から(今回の試合に)圧倒的な勝ち方をして、みんなが望む井上チャンピオンとの試合というのがモチベーションだったんですけど、今回こういうふうに負けて、強いところを見せられなくて、井上チャンピオンの名前を出したのも申し訳ないと思う」
3階級制覇を目指す亀田に何が起こったのか。試合を振り返ってみよう。
ともに白いグローブを拳につけた両者は似たようなスタイルのボクサーだった。亀田もドラミニもスピードがあり、ジャブがうまく、スタンスが広い。自ずと距離は遠くなり、序盤は互いにパンチが届くか、届かないかという距離で激しくフェイントを掛け合い、ジャブを差し合う攻防となった。亀田の兄、3150FIGHTをプロモートする亀田興毅ファウンダーは「ジャッジ泣かせの試合」と表現した。
手数が伸びず、クリーンヒットの出ない試合は採点が難しい。亀田の誤算はドラミニが思いのほか「速い」ということではなかったか。亀田の持ち味は何と言ってもスピードだ。左右に素早く動き、威力はないが、回転力の速いパンチを散らしていく。こうして相手を翻弄し、ペースをつかみ、その差を徐々に広げていく。完全に優位に立った後半に強いパンチを打ち込み始め、ダメージを与え、あわよくばTKO勝ちに持ち込む。これが勝利の方程式だ。
ところがドラミニはスピードがあり、決してリスクを犯さず、そしてペースは一向に落ちなかった。亀田がギアを上げて攻めたのは終盤になってから。10回以降、左ボディブロー、左フックを決めて、ドラミニを下がらせた。左ボディでドラミニが倒れると会場が沸いたが、これはスリップと裁定された。
読み上げられたスコアは116-112でドラミニ、115-113で亀田、最後が116-112でドラミニ。満面の笑みを浮かべたドラミニの横で亀田は固まったような表情を浮かべた。序盤から中盤、どっちにつけてもおかしくないラウンドはドラミニに流れていた。
亀田は「ちょっとずつこっちのペースにして、中盤から後半は取ったと思ったけど…」と勝利の感触を得ていたと明かしたが、「ジャッジは認めます」と判定に文句はつけなかった。いずれにせよ、客観的に見てどちらかが明確に勝利を手にした試合ではなく、亀田がはっきりとポイントを獲得できなかったのは確かだ。負けてはいないけど、勝ってもいない。そういう内容だった。
この試合に向けて亀田は武本在樹トレーナーとコンビを組み、ボクシング技術の充実を図った。フェザー級に本格進出するにあたってフィジカル専門のトレーナーと契約し、体作りに万全を喫した。「持ち前のスピードにパワーが加わった」。試合前、本人は自信のコメントを発していた。
歯車がかみ合わなかった要因を挙げるなら、やはりフェザー級進出第1戦の影響があったのではないだろうか。階級を上げれば相手の体格は大きくなり、距離も微妙に遠くなる。相手の耐久力が増して、いままでならダメージを与えていたパンチが効かなくなることもある。自身のパフォーマンスが上がったとしても、「相手が変わる」というファクターが大きく影響する。亀田はまだフェザー級にフィットしていなかったと言えるだろう。
10代でメキシコに渡り、亀田3兄弟の三男として注目を浴び、これまでにWBOバンタム級、WBCスーパーバンタム級暫定王座を獲得した。19年7月の世界タイトルマッチに敗れて以降はコロナ禍の影響もあり、なかなかチャンスが巡ってこなかった。そうした中、兄と久々にタッグを組み、世界タイトルマッチにつながるチャンスを手にすることができた。亀田は「こういう舞台を用意してもらって、世界戦が2つある中でメインにしていただいて、こういう結果になってお兄ちゃんに申し訳ない気持ちはある」と神妙に語った。
興毅ファウンダーは試合後、次のように話した。
「和毅は初めて負けたわけじゃないし、悲観はしていない。『3150FIGHT』は、一回負けたら終わりではなく、再生する舞台でもある。和毅にはキャラもあり、数字も持っている。彼が望むならプロモーターとしてふさわしい舞台を作り続けていきたい」
現在32歳。44戦というキャリアは十分にベテランとはいえ、老け込むにはまだ早い。今回の敗北で一歩後退したことは確かだが、まずはフェザー級の体、ボクシングをしっかり構築するしかない。
(C)3150 FIGHT